CSMIリトリート「若手道場

令和3年2月5日~2月6日 リモート開催

 シグナル伝達医学研究展開センター・リトリート「若手道場」は、令和3年2月4日から5日にかけて、仁田亮オーガナイザーのもと、生体構造解剖学分野の若手教員を中心とした実行委員会による運営で実施された。平成30年度にはじまった若手道場は、当センターに所属する若手研究者を中心に、発表、交流、相互理解を深める場を提供することにより研究者間の連携を強化するとともに、あらたな共同研究の創出ならびに組織の活発化を目的としており、本年が3回目の開催となる。今年度はCOVID-19 の影響により、例年のような対面によるものではなく、オンラインによる開催となったが、その利点を活かし広く参加を募った結果、普段は参加がむずかしい若手研究者も参加可能となり、総勢75名と過去最大の参加者数となった。外部講師による特別講演では、1日目は東京大学定量生命科学研究所 胡桃坂仁志先生、2日目には熊本大学/国際先端医学研究機構卓越教授・シンガポール国立大学医学部教授 須田年生先生をそれぞれお招きしてご講演を賜った。両日とも特別講演後にフランクな話をする場として情報交換会の場を設けた。

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 本会は若手研究者、博士および修士課程の大学院生に研究発表やセッションでの座長を務める機会を設けることにより、主体的に会に参加してもらうこと、研究発表を通して相互理解を深めることを目的としている。そのため、発表希望者にはできる限り口頭発表を行ってもらうようにし、その結果22演題の発表を行うこととなった。どの発表もクオリティが非常に高く、各演者が十分に準備してきたことが伺えた。また、今年度も最優秀プレゼンテーション賞を設け、各日、修士、博士の発表者から1名ずつ優秀な発表者を選出し、合計4名が受賞した。

 2日目には、昨年度実施して好評であったグループディスカッションを行い、自由なテーマで研究やキャリアパス、研究での悩みなどについて議論・意見交換を行った。ここでも活発な議論・意見交換が行われ、若手の相互理解という本会の目的を達成できたと思われる。

 1日目の特別講演では、東京大学定量生命科学研究所 胡桃坂仁志先生には「エピジェネティクスの基盤としてのクロマチン構造とダイナミクス」という演題で最新の研究成果をご講演頂いた。研究成果はもちろんであるが、他にも印象的なことが2点あった。1つ目は研究における先行研究の追試の重要性である。胡桃坂先生は、追試が先行研究と同じ結果にならないときに、その違いの中に新しいサイエンスがある、ということを強調されていた。追試を既に行われた研究と同じことを行っても再現性の有無の確認のみで、新規性はほとんどない、と捉えていた私にとって、この考え方は「目から鱗」であった。2つ目は、人と同じことをやらずに、ちょっと地道な研究を行うことが、のちに日の目を見て現在に至っている、という胡桃坂先生の現在までの研究キャリアの道のりである。研究の信念を伺い、良い研究の裏にはしっかりとした考えがあるということが非常に印象的であった。

 2日目の特別講演では、熊本大学/国際先端医学研究機構卓越教授・シンガポール国立大学医学部教授 須田年生先生に「造血幹細胞研究の新展開」という演題でご講演頂いた。最新の研究成果はもちろんのこと、須田先生が臨床医からどのようにして基礎医学研究者への道を歩むようになったのか、そして現在、熊本大学・シンガポール国立大学でどのようなことを行われているのかといった、普段聞くことができない話まで盛り込んでご講演頂いた。講演、情報交換会を通じ、研究留学を含めた国際交流についての話が非常に印象的であった。須田先生は母校横浜市立大学の医学部2年生を研究留学でシンガポール国立大学へ受け入れている。彼らが日本とは異なる研究や文化に触れることにより、たくましく成長していっていることから、早い段階からの国際交流の重要性を述べられていた。また、熊本大学国際先端医学研究機構では、若手PIに独立した研究室を持たせ、多数の研究の芽を育てるため、「インキュベーションセンター」の構築を目指しているという、日本では非常に希な面白い取り組みの紹介があった。どちらの特別講演でも、若手参加者から非常に活発な質問があった。

本会の最後にセンター長の南康博教授より、本会を通した若手研究者間の交流、研究発展を来年以降も継続してほしい、との総評を頂き、好評のうちに閉幕した。

(今崎剛 生理学・細胞生物学講座 生体構造解剖学分野 特命助教)

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演題一覧

2月4日
・腸内分泌細胞-神経間ネットワークの分子的細胞学的解析
Molecular and cellular elucidation of enteroendocrine cell-neural network
・A point mutation in the Ret gene, Ret (S812F), causes Hirschsprung’s disease and kidney agenesis in a dominant-negative fashion
・脳内炎症によりアストロサイトが多様な機能を発揮する分子機構の解析
Role of Hippo pathway in mouse salivary glands
・肺腺がん細胞の浸潤におけるWnt5a-Ror1-Rifシグナルの機能解析
Analysis of the molecular mechanism underlying how inflammation induces various functions in astrocytes in the pathological brain
・線条体の神経伝達異常が運動制御に及ぼす影響
Abnormal striatal neurotransmission induces involuntary movements
・脳損傷修復過程におけるRor2を介したNrf2の活性制御機構の解析
Molecular mechanism of Ror2-mediated activation of Nrf2 during repair following brain injury 
・神経膠芽腫の悪性進展に関わるRor1の発現誘導機構の解析
Molecular mechanism regulating expression of Ror1 during malignant progression of glioblastoma
・クロマチンリモデリング因子BRMはTGFβ-Smadシグナルを介して造血幹細胞の静止期を維持する
The chromatin remodeling factor BRM maintains the hematopoietic stem cell quiescence via TGFβ-Smad signaling
・腸上皮細胞の増殖・分化制御におけるCD47の役割
Role of CD47 in the regulation of proliferation and differentiation of intestinal epithelial cells
・乳癌におけるHippo経路の機能解析
The role of Hippo pathway in breast cancer
・Hepatitis C virus NS5A promotes lysosomal degradation of DGAT1 protein
・情動性脳領域・島皮質を介した社会性神経ネットワークの調節機構
Functional analysis of Ror1-Rif signaling of lung adenocarcinoma cell invasion
・細胞のモザイクパターン形成における接着構造の非対称性
Asymmetry of adhesion structures in mosaic cellular patterning
2月5日
・肺腺がん細胞の浸潤におけるRor1-Rifシグナルの機能解析
Functional analysis of Ror1-Rif signaling of lung adenocarcinoma cell invasion
・B細胞の生存制御におけるCD47の役割
The role of CD47 in the regulation of B cell survival
・微小管架橋因子(MTCL-1)による微小管安定化機構
Structural mechanisms of microtubule stabilization by microtubule cross-linking factor 1 (MTCL-1)
・新規SIRPα結合環状ペプチドによるCD47-SIRPα結合阻害機構の構造生物学的解析
Structural mechanism underlying the inhibition of the CD47-SIRPα interaction by a novel SIRPα-binding macrocyclic peptide
・B型肝炎ウイルスX蛋白質は、Nrf2/AREシグナル経路を活性化し、抗酸化応答を誘導する
Hepatitis B virus X protein induces antioxidant response via activation of Nrf2/ARE signaling pathway
・c-Srcを介したKIF1Cのリン酸化は浸潤突起の伸長を制御する
c-Src-mediated phosphorylation of KIF1C regulates elongation of invadopodia in cancer cells
・間葉系幹細胞による低分化型胃癌細胞の進展促進作用におけるRorファミリー受容体の機能解析
Functional analysis of Ror family receptors for the promotion of poorly differentiated gastric cancer cells by mesenchymal stem cells.
・Kinesin Like Protein 12による微小管伸長調節メカニズムの構造生物学的解明
Structural basis of microtubule dynamics regulation by Kinesin Like Protein 12
・ISGylation of HBx protein confers the pro-viral effects on HBV replication and resistance to interferon (IFN)-response