神戸大学 神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・代謝・内分泌学分野
研究グループ紹介
神経内分泌研究グループ

ヒトを含む総ての生物は誕生後、成長、成熟、老化、死という避けることのできない運命をたどります。この過程において重要な役割を果たしているのが内分泌系です。内分泌系の主役であるホルモンは生体の恒常性を維持するだけではなく、さまざまなシステムの中心となってこれらのプロセスを調節しています。さらに、ホルモンは身体機能だけではなく心の調節も行っていることが次々と明らかにされてきました。

例えば成長ホルモン(GH)-IGF-I系は、胎児の成長、生後の成長、成熟、成人における代謝、老化、寿命において重要な役割を果たしています。さらに認知機能や意欲といった脳の機能や心のあり方にも深く関わっています。私たちはメインテーマのひとつとして、特にGH-IGF-I系が代謝、老化、寿命制御にどのように関わっているのかを中心に研究を進めています。そしてこのGH-IGF-I系をモデルとして内分泌代謝系がどのようなメカニズムで作用を発揮しているのか、生体全体にとってどのような意義を持っているのか、いったい何のために存在しているのか明らかにしたいと思っています。

Physician Scientist が重要な役割を果たすことのできる研究としてCase-oriented research, Disease-oriented researchがあります。前者は1例の症例の病態を深く洞察することによって普遍的原理や病気の本質、発症機序に迫る研究であり、後者は病気そのものをテーマにしてその病態の解明、治療の開発を目指すものです。私たちはそのようなアプローチから、現在の知見では病態が不明で、有効な治療法がない内分泌代謝疾患における機序の解明や治療法の開発につながればと願っています。そして常に患者さんの側に立って、これらの研究成果をできるかぎり、病み、苦しんでいる患者さんにフィードバックしたいと思っています。さらにもうひとつの視点として、内分泌代謝学においては新しいホルモン、生理活性物質の発見とともに新たな分野が切り拓かれ、関連した病態の解明、治療応用がなされてきました。私たちはこのようなHormone-oriented researchに基づいて、新たなホルモンの同定とそのホルモンと病態との関連を解明するというアプローチによる研究も進めています。

医学の重要な使命のひとつは難病の原因の解明と治療法の開発ですが、内分泌代謝領域にも難病といわれる疾患が多く存在しています。未だメカニズムが不明で本質的な治療を行うことの出来ない疾患に対して、私たちはその一旦でも明らかにしてよりよりよい治療が行えるように役立つことが出来ればと信じ努力を続けています。その方法としてひとつは新たな疾患概念を見出すこと、そのメカニズムを解明すること、さらに内科医の立場からよりよい創薬に結びつく新たな治療法の開発に結びつく研究を目指しています。このような研究には患者さんのご協力は必須であり、実際多くの患者さんに趣旨を御理解の上ご協力を頂いています。例えば下垂体腫瘍の原因や薬物療法は次第に進歩していますが、まだまだ十分とは言えません。様々なアプローチから最終的には新しい本質的な治療の開発に結びつく研究を進めて患者さんに還元できたらと存じております。

今、医学の勉強や、研修中の皆さんはまだ医学研究の意義や面白さを実感するのが難しいかもしれません。しかしながら臨床をしていると教科書に記載されていないような病態に途方にくれたり、全力であらゆる治療を行っても残念ながら患者さんが亡くなって無力さを痛感することがあると思います。そのような時に問題を解決するひとつの方法が医学研究です。医学研究は、現状の医学では満足できない臨床医が取り組む魂の叫びでもあります。

皆さんが現在何気なく行っている血液検査や治療法も先人たちの医学研究の結果、活用されているものなのです。そして問題意識を持って臨床をしていると、解決すべき問題はいくらでもあります。解決するための方法も臨床研究から分子生物学的手法まで様々なものがあります。そのような問題に対して答えを得るために私たちと取り組んでみませんか。問題を提起し解決することは決してたやすいことではありませんが、大変面白いやりがいのある仕事です。

内分泌代謝学は身体をシステムとしてとらえる学問です。恒常性を維持するために巧妙なフィードバックシステムを構築しており、その破綻が疾患につながります。内分泌代謝疾患を理解するためにはそのシステムを包括的に理解した上で、原因についてロジックに考えるアプローチが重要です。治療は急所を見抜けば大変効果的で患者さんは非常に元気になります。そういう点で学べば学ぶほど生体の巧妙なしくみに感銘を受ける面白い学問であるとともにやりがいのある分野だと思います。私達は世界をリードする下垂体研究を目指しています。今不明な疾患の謎を解いてみたい、新しい治療法を見つけてみたい、内分泌代謝学のエキスパートになりたいという方は是非私達の仲間になって下さい。心よりお待ちしています。

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<メンバー>

准教授高橋 裕
講 師井口元三
助 教福岡秀規
特命講師
(栄養管理部)
高橋路子
医 員坂東弘教
医学研究員隅田健太郎
松本隆作
大学院生吉田健一
小武由紀子
蟹江慶太郎
藤田泰功

<問い合わせ>

内分泌代謝疾患の診療、研究に情熱を持った皆さんからのご連絡をお待ちしています。

神経内分泌研究グループ  高橋 裕

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■ 現在進行中の研究プロジェクトとこれまでの流れ

1) 内分泌代謝疾患症例における分子生物学的アプローチによる病態の解明 (Disease-oriented research)
(NEJM 1996, Eur J Endocrinol 1996, 2004, JCI 1997, JCEM 1997, 1998, 1999, 1999, Hor Res 1998, Growth Horm IGF Res 2002, 2003, Am J Kidney Dis 2008, JPEM 2008, Diabet Int 2012 Exp and Clin Endocrinol & Diabetes 2013, Pituitary 2015, 2015, 2015, Eur J Endocrinol 2015)
2) 下垂体腫瘍の病態の解明と新しい薬物療法の開発
(Hor Res 2008, Mol Endocrinol 2011, JCI 2011; Topics, GH&IGF-I Res2012; Topics, Exp and Clini Endocrinology & Diabetes 2013, Endocrine J 2013; Topics, Endocrine J 2014, Pituitary 2014; Topics, Endocrine J 2014, Endocrine J 2014, Pituitary 2014, Neurologia medico-chirurgica 2014 (Review), PLoS One 2015, Endocrine J 2016, Pituitary 2017)
3) 成人成長ホルモン分泌不全症における新たな合併症であるNAFLD/ NASHの病態の解明と治療応用
(Gastroenterology 2007, Eur J Endocrinol 2012; Topics, BBRC 2012, Endocrine J 2012 Review, GH and IGF-I Res 2014, Sci Rep 2017)
4) 新しい疾患概念抗PIT-1抗体症候群、下垂体炎、ACTH単独欠損症の病態解明
(JCI 2011, Exp and Clini Endocrinol & Diabetes 2012, Eur J Endocrinol 2013; Topics, Endocrine J 2014, JCEM 2014, Pediatr Endocrinol Rev 2015 (Review), Frontiers in Hormone Research Endocrine Immunology 2016 (Review), Sci Rep 2017)
5) 成長、代謝、老化、寿命を調節する新しいホルモンの探索とその生理作用の解明
(BBRC 2007, FEBS letters 2008, Scientific Reports 2011, Endocrine J 2013)
6) 成長ホルモン-IGF-I系の調節機構、生理学的意義の解析
(JBC 1998, 1999, BBRC 2003, Regulatory peptide 2006, BBRC 2006, BBA 2008, Endocrinology 2008, Growth Horm IGF Res 2010, BBRC 2012, Endocrine J 2015, Growth Horm IGF Res 2016)
7) 成長ホルモン、IGF-Iをはじめとするホルモン、サイトカインのシグナル伝達機構の解明
(BBRC 1996, JBC 1997, BBRC 1999, MCB 2001, 2002, 2002, 2004, 2004, EMBOJ 2003, Nature Immunol 2003, Immunity 2004, JBC 2006, Mol Endocrinol 2008, Muscle and Nerve 2010, Endocrinology 2011; Topics, Proc Natl Acad Sci USA 2013)
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<Topics>

第27回内分泌代謝Update in Kobeに参加しました。

 杉本利嗣会長主催の第27回内分泌代謝Updateが2017年11月24-25日に神戸国際展示場で開催されました。神戸大学からはMeet the expertセッションを含め12演題と最大の演題数を発表し、隅田健太郎先生が「遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群に合併した副腎腫瘍の意義」で、松本隆作先生が「疾患特異的iPS細胞を用いたLHX4異常症の発症機序の解明」で優秀ポスター賞を受賞し、坂東弘教先生、坂本洋一先生が高得点演題に選ばれました。特に優秀ポスター賞5演題の中での2演題受賞は快挙でした。また福岡秀規先生は診断・治療に難渋した症例におけるコメンテーターを担当しました。私自身はプログラム委員として高知大学の岩崎先生とともに下垂体分野の企画を担当するとともに、Meet the expert「間脳下垂体疾患診療のパールとピットフォール」、日本内分泌学会90周年記念式典で「内分泌学の過去・現在・未来」における提言を行いご好評を頂きました。これらの結果は内分泌グループのメンバーと病棟担当医の不断の努力の結果であり、すべてのメンバーに敬意を表するとともに、引き続き高い目標を掲げて努力を続けていたいと思います。

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高橋が国際内分泌学会ICE 2O18におけるプレナリー演者に選ばれました。

 国際内分泌学会は世界中からの内分泌学の医師、研究者が集う最大の学術集会ですが、第18回学術集会は2018年12月1-4日に南アフリカCapetownで行われます。この度、高橋が国際内分泌学会ICE 2O18におけるプレナリー演者に選ばれました。ICEで日本人の演者が選ばれることは非常にまれで大変大きな栄誉であり、日本内分泌学会のレベルの高さをアピールしてきたいと思います。
⇒ 国際内分泌学会ICE 2O18

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松本隆作先生が第5回神緑会YIA優秀賞に選ばれました。

 第5回神緑会YIA発表会が2017年10月28日に行われ、松本隆作先生が「疾患特異的iPS細胞を用いた先天性下垂体機能低下症の病態解明」の発表でYIA優秀賞に選ばれました。松本先生は名古屋大学、慶應大学との共同研究のもと、不断の努力で私たちの研究室でiPS細胞からの下垂体分化の実験系を立ち上げ、世界で初めて先天性下垂体低形成患者iPS細胞を用いた疾患モデル作成に成功しただけではなく、その発症機序を明らかにしてきました。大きな意義のあるチャレンジであり、もう少しで論文です。これを励みにさらなる発展を期待しています。

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高橋のチームがAMED再生医療実現拠点ネットワークプログラム研究拠点に選ばれました。

 医学研究科の糖尿病内分泌内科学 高橋裕准教授、iPS細胞応用医学 青井貴之教授らのグループが、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)平成29年度「再生医療実現拠点ネットワークプログラム(疾患特異的iPS細胞の利活用促進・難病研究加速プログラム)」における研究拠点IIに採択されました。研究拠点IIでは疾患特異的iPS細胞を用いて疾患メカニズムを解明し、表現型解析や疾患モデリングなど解析技術の高度化を行います。
 今回、高橋准教授らのグループにおいて松本隆作先生、共同研究者である青井教授、慶應大学 長谷川奉延教授とともに数年かけて進めてきた「疾患特異的iPS細胞を用いた下垂体疾患モデルの創出を目指した研究」がその内容と実績を認められ採択に至りました。本研究は、疾患特異的iPS細胞を用いた (1) 先天性下垂体低形成の病因・病態解析、(2) 抗PIT-1抗体症候群の病因・病態解析、(3) 下垂体腫瘍オルガノイドを用いた病因解析と創薬 の3つのプロジェクトからなります。
⇒「疾患特異的iPS細胞を用いた下垂体疾患モデルの創出を目指した研究」
本研究で、若い先生方と力を合わせて下垂体研究の新たなブレークスルーを目指します。

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小武由紀子先生の論文がPituitaryにアクセプトされました。

Cross-sectional prevalence of pancreatic cystic lesions in patients with acromegaly, a single-center experience. Pituitary. 2017 May 24. doi: 10.1007/s11102-017-0810-1. [Epub ahead of print]

 小武由紀子先生は福岡秀規先生の指導の元、先端巨大症に膵嚢胞性疾患が多いことを示し、Pituitaryにアクセプトになりました。私たちはこれまで先端巨大症では腎嚢胞が多いことも報告しており、嚢胞性疾患は通常加齢とともに増加することが知られています。その機序の一つとして、私たちはIGF-Iが酸化ストレスを増加、テロメアを短縮し、細胞老化を引き起こし個体の老化に関連しうることを報告してきました。先端巨大症におけるIGF-Iの過剰状態ではこのようなIGF-Iの作用によって、嚢胞性疾患を含む加齢関連疾患が増加し、予後が悪化する可能性があると考えています。

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第90回内分泌学会学術総会 in 京都に参加しました。

 赤水尚史先生の学会長のもと京都みやこメッセで内分泌学会学術総会がありました。私たち神経内分泌グループからは教育講演1題、シンポジウム3題、CPC2題、YIA口演2題、口演3題、ポスター2題とメンバー全員が大きな活躍をしました。また坂東弘教先生は「抗PIT-1抗体症候群の発症機序の解明」、松本隆作先生は「疾患特異的iPS細胞を用いた先天性下垂体機能低下症の病態解明」で、糖尿病グループの平田悠先生とともに見事YIAを受賞しました。神戸大学糖尿病内分泌内科から3人受賞したというのは快挙だと思います。さらに若手臨床内分泌医育成委員会で企画したClinical Endocrinology KO roundで金谷雅之先生が「周期性が疑われた嗅神経芽細胞腫による異所性ACTH症候群の一例」の発表で入賞を果たしました。若手メンバーだけではなく、スタッフにおいても井口元三先生がCPC「下垂体自己免疫の新たな病態」、シンポジウム「IgG4関連下垂体炎の病態、診断と治療」、福岡秀規先生がシンポジウム「下垂体腺腫に対する分子標的薬の可能性」、私自身はKO roundで「プレゼンの奥義を伝授します」、教育講演「若手医師に内分泌学の面白さをいかに伝えるのか」、CPC「視床下部下垂体の炎症性疾患オーバービュー」、シンポジウム「Long-acting GHの内科領域におけるエビデンスと位置づけ」を発表し多くの反響を頂きました。これらはチーム全体として高い目標を掲げて長年にわたり不断の努力を積み重ねてきた結果であり、メンバーに敬意ととともに感謝したいと思います。またプレゼンにも磨きがかかり神戸大学糖尿病内分泌内科を十分にアピールできたことは素晴らしい成果だと思います。

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神経内分泌グループに新たなメンバーが加わりました。

 今年度より大学院生として藤田奏功先生、蟹江慶太郎先生が新たな仲間に加わりました。私たちは患者さんにフィードバックできるそして医学の発展に真に貢献できる研究を目指しています。お二人の活躍を期待しています。

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第15回Pituitary congress in Orlandoに参加しました。

 下垂体について世界で最もハイレベルな内容で2年に一度開催されるPituitary Congressですが、ディズニーワールドがあるOrlandoで開催されました。今回、福岡秀規先生が「ErbB4 in Cushing Pathogenesis」 、私が「Growth Hormone and the Liver」という内容で講演をいたしました。日本人が二人しかも同一施設から招待されるというのは大変光栄であるとともに異例のことです。また小武由紀子先生が「An EGFR Family Member, ERBB4 Expression Is Associated With Tumor Invasiveness In ACTH-Producing Pituitary Adenomas」のポスター発表で奨励賞を受賞いたしました。坂東弘教先生も参加し留学に向けた有益な情報交換ができました。またMelmedラボに留学中の山本雅昭先生とも久しぶりお会いできました。

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坂東弘教先生の論文がScientific Reports誌にアクセプトされ、抗PIT-1抗体症候群が新たな胸腺腫関連疾患であることを報告いたしました。

A novel thymoma-associated autoimmune disease: Anti-PIT-1 antibody syndrome.Sci Rep. 2017 7:43060. doi: 10.1038/srep43060.

 坂東弘教先生が、抗PIT-1抗体症候群が胸腺腫によって引き起こされる新たな胸腺腫関連疾患であることをScientific Reports誌に報告いたしました。抗PIT-1抗体症候群はこれまで私たちが発見し新規疾患概念として報告した(J Clin Invest 2011 121 113)もので、転写因子PIT-1に対する自己免疫が起こり特異的細胞障害性T細胞による下垂体障害によって後天性GH, PRL, TSHを引き起こす疾患です。これまでの研究で概要はかなり明らかになったのですが、まだまだ謎が残っています。例えばなぜPIT-1に対する免疫応答が引き起こされるかが不明でした。今回私たちは抗PIT-1抗体症候群全例に胸腺腫を合併しており、胸腺腫瘍細胞がPIT-1を異所性に発現しT細胞を教育することによって免疫寛容破綻が起こったことを見出しました。実際胸腺腫を摘出すると抗PIT-1抗体価が低下し、特異的細胞障害性T細胞が著減しました。これらの機序は同様の機序が推測される重症筋無力症や傍腫瘍症候群などの発症機序の解明につながる大きな発見だと考え、さらに詳細な機序の解明に取り組んでいます。またこの報告は神戸新聞などにも取り上げられました。

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西沢衡先生の論文がScientific Reports誌にアクセプトされ、IGF-Iが肝星細胞の細胞老化を促進するという新たな機序を介してNASHや肝硬変の線維化改善に有効であることを報告いたしました。

IGF-I induces senescence of hepatic stellate cells and limits fibrosis in a p53-dependent manner.Sci Rep. 2016 6:34605. doi: 10.1038/srep34605.

 西沢衡先生が、長年に渡って取り組んでいたGH/IGF-IとNASHの関連についてのプロジェクトにおいて、IGF-Iが肝星細胞の細胞老化を促進するという新たな機序を介してNASHや肝硬変の線維化改善に有効であることをScientific Reports誌に報告しました。これは私たちが成人GH分泌不全症においてNAFL/NASHが多いことを見出し、実際にGH治療によって改善することから、一般のNASHにおいても応用可能ではないかと考えて始めた研究です。その過程で実はGHよりもIGF-Iが本質的な役割をしていること、さらにIGF-Iが肝星細胞の細胞老化を促進した結果賦活化して線維化を改善しているという新たな機序を見出しました。また一般のNASHモデルだけではなく肝硬変モデルでも著明な線維化改善効果があることを見出しました。大変な実験が多く時間もかかりましたが西沢先生は粘り強くやり遂げました。その努力に心から敬意を表します。現在のNASH治療薬は主に脂肪沈着改善を標的としており線維化に効果があるものがほとんどない点、NASH、肝硬変の予後を規定するのは線維化である点からこのIGF-Iによるユニークな線維化抑制機序が明らかにされたのは大きな意義があると考えています。私たちはGH/IGF-IによるNASHや肝硬変に対する治療応用を視野に入れさらに検討を進めています。またこの報告は神戸新聞にも取り上げられました。

<Topics>

松本隆作先生が日本人先端巨大症の原因について報告いたしました。

Genetic and clinical characteristics of Japanese patients with sporadic somatotropinoma.Endocr J. 2016 63(11):953-963.

 松本隆作先生が、虎ノ門病院山田正三先生、井下尚子先生たちとの共同研究で日本人GH産生腺腫の原因を解析し、GNAS, AIP, GPR101変異の割合、その臨床像を報告いたしました。日本人患者においてもAIP変異陽性症例は若年性、腫瘍が大きく、GHが高いことが明らかになり、興味深いことにソマトスタチンアナログ抵抗性があってもカベルゴリンが一定の効果を示す可能性が示されました。近年先端巨大症治療においてはテーラーメード化が進んでいますが、一つの重要な方向性を示唆しています。

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第89回内分泌学会学術総会 in 京都に参加しました。

 今回は下垂体を専門にされている島津章先生が学会長をされたこともあり、神経内分泌グループからはシンポジウム2題、口演1題、ポスター9題の合計12題の発表を行いました。今回の学会は興味深い企画も多く、大変勉強になりましたが、基礎研究のセッションが停滞気味なのが気になるところです。当科のメンバーの発表は、グループおよび講座の予演会を経て内容は見違えるように良くなりました。下垂体領域だけではなく、副腎領域、代謝領域などでも最近のトピックスを発表し、神戸大学のactivityの評価と共に様々な反響を頂きました。それらをふまえて論文にまで持って行きたいと思います。論文にするのは大変ですが、その過程でメンバーには多くのことを学んでもらえればありがたいと思います。またそれぞれにとっての試練もありましたが、それを乗り越えて糧としながらメンバーと共にさらなる発展を目指したいと思います。

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ENDO2016 in Bostonに参加しました。

 神戸大学からはオーラル1題、ポスター4題を発表しました。発表したメンバーは準備が大変でしたが、それぞれしっかりとプレゼンしていました。また口演、ポスターでも活発に質疑に臨んでおり、メンバーの国を超えた交流を通じて、世界のレベル、方向性を実感できたと思います。そして改めて日本の枠の中だけではなく、世界を土俵に研究を発展させる重要性を認識しました。またDr. Melmedラボに留学中の山本先生のファミリーや加古川医療センターからの飯田先生、清家先生とも合流し楽しい時間を過ごしました。私自身も虎の門の山田先生、福岡先生とともにDr. Melmedと学会交流についてのmeeting、Long acting GHに関するmeeting、先端巨大症に関する座談会、そしてBoston在住の友人との夕食など多忙でしたが、大変充実した時間を過ごしました。

<Topics>

隅田健太郎先生が2型糖尿病におけるIGF-I値に対する影響について報告しました。

The influence of type 2 diabetes on serum GH and IGF-I levels in hospitalized Japanese patients. Growth Hormone and IGF-I Research. 2016 29 4-10

 血中IGF-I濃度はコントロール不良な糖尿病があると低下しうることが示唆されていますが、その詳細は明らかではありません。今回糖尿病グループとの共同研究により、空腹時血糖200mg/dl, HbA1c 12.0%以上でIGF-Iが有意に低下し、血中Cペプチドと相関があることを示しました。糖尿病を合併した先端巨大症の診断においても参考になる研究です。

<Topics>

松本隆作先生が先端巨大症の新たな病態について報告しました。

Accelerated telomere shortening in Acromegaly; IGF-I induces telomere shortening and cellular senescence. PLoS One. 2015 10 (10): e0140189

 コントロール不良の先端巨大症では短命になり糖尿病、高血圧、変形性関節症など加齢関連疾患の発症が若年で起こりますが、その機序は不明でした。松本先生はIGF-I過剰は酸化ストレスによってテロメア短縮、細胞老化を引き起こすことを示しました。そしてそれらを介して合併症発症、寿命の短縮をきたす可能性を示唆しました。

<Topics>

坂東弘教先生、井口元三先生が、私たちの発見した抗PIT-1抗体症候群についてのレビューを、福岡秀規先生が下垂体腫瘍の成因についてのレビューを報告しました。

Frontiers in Hormone Research Endocrine Immunology; A novel clinical entity of autoimmune endocrinopathy: Anti-PIT-1 antibody syndrome Karger 2016 in press

Anti-PIT-1 antibody syndrome; a novel clinical entity leading to hypopituitarism. Pediatr Endocrinol Rev.2015 12 213-219

The role of genetic and epigenetic changes in pituitary tumorigenesis. Neurologia medico-chirurgica. 2014 54: 943-957

<Topics>

福岡秀規先生がAcroQOL日本語版を作成し、吉田健一先生が日本人における先端巨大症のQOLについて報告しました。

The quality of life in acromegalic patients with biochemical remission by surgery alone is superior to that in those with pharmaceutical therapy without radiotherapy, using the newly developed Japanese version of the AcroQoL. Pituitary. 2015 18(6): 876-883

 先端巨大症は予後の悪化とともにQOLの低下を認める疾患ですが、これまで疾患特異的な症状を含めたQOLの評価は日本では難しい状況でした。今回、福岡先生が中心となってオリジナルのAcroQOLを発表したWebbらと共同で日本語版を作成いたしました。さらに大学院生の吉田健一先生の検討によって、日本人の先端巨大症においても欧米人と同様に外見に関するQOLの低下を認め、治療法によっても異なることが明らかになりました。この日本語版は、帝人ファーマの資料として自由に使用して頂けるようになっており、今後先端巨大症治療において重要なツールになると考えています。私達が日常診療で聞きにくいことや患者さんが言いにくいこともきちんと拾い上げることが出来ます。

<Topics>

平田悠先生が下垂体機能低下症における甲状腺ホルモン補充療法のRationaleについて報告しました。

Median-lower normal levels of serum thyroxine are associated with low triiodothyronine levels and body temperature in patients with central hypothyroidism. Eur J Endocrinol. 2015 173(2): 247-56.

 下垂体機能低下症における甲状腺ホルモン補充療法においては遊離T4レベルを正常上限付近を目標にするとされていますが、その根拠は明らかではありませんでした。平田先生は病棟を担当しながら臨床研究を行い、遊離T4レベルが正常中間値以下の場合には遊離T3レベルの低下、体温の低下を認めることを報告しました。この研究はレボサイロキシン補充量調節において重要な意義を持っています。

<Topics>

隅田健太郎先生、山本雅昭先生が先端巨大症の病態、治療について、福岡秀規先生がクッシング症候群の病態について報告しました。

Efficacy of combined octreotide and cabergoline treatment in patients with acromegaly: a retrospective clinical study and review of the literature. Endocrine J. 2013 60: 507-515

The prevalence of acromegaly in hospitalized patients with type 2 diabetes Endocrine J. 2015 62: 53-59

D-dimer as a significant marker of DVT in Patients with Subclinical or Overt Cushing’s Syndrome. Endocrine J. 2014 61: 1003-1010

The prevalence and associated factors of colorectal neoplasms in acromegaly: a single center based study Pituitary. 2015 18: 323-351

The prevalence of renal cyst in acromegaly. Internal Med. 2016 in press

 隅田先生は、先端巨大症におけるオクトレオチドとカベルゴリン併用療法の有用性について自験例とともにレビューを行い報告しました。最先端の欧米におけるセミナーでも引用され注目されています。また糖尿病グループとの共同研究で入院された2型糖尿病患者の中には先端巨大症がこれまで考えられていたよりも高頻度に存在することを報告しました。山本先生は自験例57例の先端巨大症において過形成ポリープ38.6%、腺腫31.6%,大腸癌5.3%と高頻度に合併しており、GH分泌量と関連していることを報告しました。福岡先生はコルチゾール自律性分泌を認めた症例において、深部静脈血栓症の頻度、D-ダイマーのカットオフ値について報告しました。

<Topics>

坂東弘教先生が抗PIT-1抗体症候群の発症機序、下垂体自己免疫についての新たな病態IgG4関連下垂体炎について報告しました。

Involvement of PIT-1-reactive cytotoxic T lymphocytes in anti-PIT-1 antibody syndrome. J Clin Endocrinol Metab. 2014 Jun 17:jc20141769.

The prevalence of IgG4-related hypophysitis in 170 consecutive patients with hypopituitarism and/or central diabetes insipidus and review of the literature. Eur J Endocrinol. 2013 170:161-72

Autoimmune hypophysitis: new developments. Handb Clin Neurol. 2014 124:417-22

A diagnostic pitfall in IgG4-related hypophysitis: Infiltration of IgG4-positive cells in the pituitary of granulomatosis with polyangiitis. Pituitary. 2015 18 722-730

 坂東先生は、井口先生の指導のもと自己免疫関連下垂体疾患について積極的に基礎および臨床研究を行い、私達がこれまで報告した新たな疾患概念「抗PIT-1抗体症候群」の発症機序の一部を解明しました。後天性にGH, PRL,TSHを欠損し、PIT-1発現細胞に対する自己免疫によって生じる抗PIT-1抗体症候群では、PIT-1に特異的に反応する細胞障害性T細胞が存在しその発症機序に関わっていることが明らかになりました。坂東先生はこの仕事でThe 7th International Congress of the GRS and IGF Travel Grantを受賞しています。また最近IgG4関連疾患が多くの領域で注目されていますが、私達はIgG4関連下垂体炎について世界で有数の症例数を集積し、その病態とともに下垂体機能低下症の原因としてまれではないことを報告しました。坂東先生はこの研究で第23回臨床内分泌Update 優秀演題賞を受賞しました。

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西沢衡先生、松本隆作先生、村脇あゆみ先生が成人GH分泌不全症における新たな合併症NAFLD/NASHに対するGH治療の効果、その機序について報告しました。

Nonalcoholic fatty liver disease in adult hypopituitary patient with growth hormone deficiency and the impact of growth hormone replacement therapy. Eur J Endocrinol. 2012 167: 67-74

Essential roles of growth hormone (GH) and insulin-like growth factor-I (IGF-I) in the liver. Endcrine J. Review 2012 59: 955-962.

Long-Term Effects of Growth Hormone Replacement Therapy on Liver Function in Adult Patients with Growth Hormone Deficiency. Growth Hormone and IGF-I Research. 2014 in press

 西沢先生、村脇先生は、以前私達が報告した成人GH分泌不全症に合併しGH治療によって改善したNASHの症例(Gastroenterology 2007)が一般的にあてはまるのかを明らかにする臨床研究を行い、成人GH分泌不全症においては年齢、性別、BMIをマッチさせたコントロールに比較して有意にNAFLD/NASHが多く、GH治療によって組織学的にも改善することを報告いたしました。このことにより世界で初めて成人GH分泌不全症の新たな合併症としてのNAFLD/NASH雅明らかになりました。また松本先生はGHの2年間にわたる長期効果についてその有効性を報告しました。さらに西沢先生はその機序についてGHが肝臓においてIGF-Iを介してミトコンドリア機能改善、酸化ストレス軽減により作用することを報告しました(BBRC 2012)。これらについて高橋がレビューで概説しています(EJ 2012)。そして西沢先生はIGF-Iが線維化の鍵となる星細胞を新たな機序で調節することを見出しました(Manuscript in submission)。西沢先生はこれらの仕事でThe 6th International Congress of the GRS and IGF Travel Grantを受賞しています。

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高橋路子先生が神戸大学医学部附属病院栄養管理部副部長、特命講師に就任しました。

 高橋先生は、3人の子育てと臨床、研究を両立させてきましたが、栄養管理部長宇佐見先生を始め、皮膚科錦織先生など多くの先生のご支援のもと副部長に就任いたしました。管理栄養士さんなど多くのスタッフとともに病院のNEST(Nutrition&Electrolyte Support Team)で活躍しています。

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山本雅昭先生が飢餓時におけるGH抵抗性の機序にサーチュインであるSIRT1が関与していることを報告しました。

SIRT1 regulates adaptive response of growth hormone-insulin-like growth factor-I axis under fasting conditions in the liver. Proc Natl Acad Sci USA. 2013 110: 14948-53

 山本先生は、飢餓時や低栄養時に生じるGH抵抗性の機序として、サーチュインの1種であるSIRT1がGHシグナルに重要なSTAT5を脱アセチル化することによりシグナルを抑制し、IGF-I産生を低下させる新たな機序を報告しました。寿命調節に関わるサーチュインが低栄養時の適応現象のひとつとしてGHシグナルを抑制することは、寿命の制御機構を考える意味でも興味深い結果で、神戸新聞やNHKでも取り上げられました。また山本先生はこれらの仕事で第38回日本神経内分泌学会学術集会 若手研究奨励賞、The 6th International Congress of the GRS and IGF Travel Grantを受賞しています。山本先生は2014年8月よりMelmed研究室に留学しさらに研究を発展しています。

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福岡秀規先生がMelmed labでクッシング病の新しい治療法の可能性を報告しました。

EGFR as a therapeutic target for human, canine, and mouse ACTH-secreting pituitary adenomas. J Clin Invest. 2011 121(12):4712-21.

 クッシング病は治療に難渋することもまれではありません。福岡先生は下垂体の世界的エキスパートであるMelmed研究室で留学中に、EGF受容体がクッシング病の新たな分子標的になりうることを報告しました。帰国後さらに発展し、患者さんに届けることができるよう吉田先生とともに研究を進めています。

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グループのメンバーが受賞いたしました。

 隅田健太郎先生がENDO2011 abstract award、第38回日本神経内分泌学会学術集会トラベルグラント、山本雅昭先生が第38回日本神経内分泌学会学術集会若手研究奨励賞、平成22年度神戸大学医学部優秀学術論文賞、福岡秀規先生が第84回日本内分泌学会学術総会若手研究奨励賞、高橋が第6回GRS-IGF-I国際学会 Plenary lecture、第2回日本抗加齢研究奨励賞、第一三共生命科学研究振興財団研究奨励賞を頂きました。受賞は結果としてついてくるものですが、研究の意義を認めて頂いたという点で大変嬉しいものです。これを励みにさらに努力、発展して頂きたいと思います。

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福岡秀規先生がLAより帰国しました。

 福岡先生は、内分泌グループで学位取得後、LAのProf. S Melmedのラボで下垂体腫瘍に対する新しい薬物療法に関する研究を行っていました。そして2011年9月1日より特定助教として帰国し、糖尿病内分泌内科においてすでに活躍しています。 福岡先生はこの留学中の仕事で、日本内分泌学会若手研究奨励賞を受賞いたしました。

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高橋路子先生が新規アディポカイン、ケマリンの糖代謝における役割を報告しました。

Takahashi M et al. Chemerin regulates β-cell function in mice. Scientific Reports 2011, 1, 123

 Hormone-oriented research を目指して、もう10年以上前に新規ホルモンの同定と機能解析のプロジェクトを立ち上げました。その中で同定した新しいアディポカイン、ケマリンについてようやくその生理作用についての報告を行うことが出来ました。ケマリンは、私たちが3T3L1脂肪細胞の分化とともに強く発現してくる未知の分泌蛋白として他の3つのグループとともに独立して同定しました(FEBS letters, 582, 573, 2008)。発見した当初は機能、性質は全く未知で名前もついていない状況でしたが、手探りの解析を続け、今回ケマリンが糖代謝に重要なアディポカインであり、特にβ-細胞機能を調節していることを明らかにしました。ここに至るまでに、ケマリンがケモカインの仲間であるという報告、アディポカインとしての報告を先行され名付け損なうなど、いくつかの苦難もありましたが、ノックアウト、トランスジェニックマウスを作成し地道に解析を進めて今回代謝における重要な役割を報告いたしました。ケマリンはβ-細胞機能だけではなく、肝臓糖新生、筋インスリン感受性を調節しており糖代謝に本質的に関わっていると考えています。担当した高橋路子先生は、子育てと研究を両立させながら、マウスのグルコースクランプやラ氏島の単離実験など難しい実験に粘り強く取り組み、信頼できるデータを得ることが出来ました。チャレンジングなプロジェクトにもかかわらず共同研究に携わって頂いたたくさんの先生方に感謝申し上げます。とりわけ内分泌グループのメンバーの皆様、機能解析でお世話になった洪さんのグループの皆様、免疫組織学的解析でご助力頂いた北澤理子先生、理研の清成先生のグループの皆様、また貴重なご助言を頂いた清野教授とその研究室の先生方に心より御礼を申し上げます。現在ケマリンの代謝調節におけるさらに重要な役割や病態との関連を見いだし、様々な角度から研究を進めています。この論文は注目の論文として取り上げられました。
http://www.natureasia.com/japan/srep/highlights/srep00123.php
高橋路子先生はこの研究で日本糖尿病学会プレジデントポスターを受賞されました。さらにケマリンが褐色細胞機能を調節する新たな機構を見出しました(Manuscript in submission)。

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後天性下垂体機能低下症を引き起こす新たな疾患概念「抗PIT-1抗体症候群」を報告しました。

新規の多腺性自己免疫症候群(APS: Autoimmune Polyglandular syndrome)

Yamamoto M et al. Adult combined GH, prolactin and TSH deficiency associated with circulating PIT-1 antibody in humans. JCI 2011, 121(1), 113

 私たちは、後天性にGH,PRL,TSH分泌が特異的に障害された3例を経験し、その病態について解析を行ったところ、血清中に抗PIT-1抗体を同定しました。PIT-1は下垂体で発現している転写因子で、PIT-1遺伝子異常では先天性にGH,PRL,TSH分泌が特異的に障害されます。 本例ではいずれも成人期以後に中枢性甲状腺機能低下症を契機に発見され、GH,PRL測定感度以下TSH低値で、前葉ホルモンのプロファイルは先天性PIT-1遺伝子異常症と酷似していました。さらに一例の病理所見では、下垂体前葉のPIT-1,GH,PRL, TSH発現細胞が消失しており、下垂体・副腎・甲状腺・膵臓にリンパ球の浸潤を認めました。抗PIT-1抗体に加えて多彩な自己抗体(マイクロゾーム抗体、抗胃壁抗体、抗GAD抗体)を認め、多腺性内分泌臓器障害と合わせてAPS関連疾患と考えられましたがこれまでのいずれのものとも異なり、新たなAPSとして‘抗PIT-1抗体症候群’と名付け報告しました。本症候群においてはPIT-1発現細胞に対する特異的免疫反応が原因となった可能性が考えられました。 転写因子に対する免疫寛容の破綻によって生じた疾患はこれまでに報告がなく大変ユニークなものであると同時に、これまで原因不明であった下垂体機能低下症の一部を説明しうる新たな疾患概念が提示されました。 この論文は最初の症例に遭遇してから8年がかりの報告になりました。竹野先生、井口先生による抗PIT-1抗体の発見までの苦闘とそれを引き継いだ山本先生の頑張り、難しい免疫染色で結果を出して頂いた佐野先生、共同研究者の慈恵医大東條先生のグループの先生方、杢保クリニック杢保先生のご協力によってまとめることができました。さらに新規の疾患概念を提唱するということで論文になるまでにも悪戦苦闘の連続でした。ひとつの謎が解けるとさらに謎が深まり、現在はこの症候群の原因、メカニズムについて様々なアプローチで研究を進めています。またこの症候群を経験して、後天性中枢性甲状腺機能低下症の中に潜在性に存在している可能性や他にも同様の機序で生じている病態がないかどうかについても検索を進めています。この論文は神戸新聞でも取り上げられ、新たな疾患概念としてNature Reviews in Endocrinology 2011 5月号 (2011, 7, 255)でもご紹介頂きました。山本先生はこの論文で神戸大学優秀論文賞を受賞されました。

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Eviさんが博士号を取得しました。

Handayaningsih et al. Reactive oxygen species play an essential role in IGF-I signaling and IGF-I-induced myocyte hypertrophy in C2C12 myocytes. Endocrinology 2011, 152(3), 912

 インドネシアからの国費留学生Evi  Handayaningsihさんが努力の成果をEndocrinologyに発表し、学位を取得されました。この論文は、IGF-Iのシグナル、筋肉肥大作用に酸化ストレスが重要な役割を果たしていることを明らかにしたものです。酸化ストレス(ROS)には、DNAや蛋白を傷害し、糖尿病、動脈硬化、心不全、神経変性疾患などの原因として密接に関わっているネガティブな側面がよく知られています。その一方で少量のROSは、レドックス制御を介して増殖因子シグナルを調節するなどの生理的な意義が存在していることが示唆されていました。今回、ROSがIGF-I受容体レベルでIGF-Iに対する感受性を増強し、さらにIGF-Iによる筋肥大に必要であることを示しました。この結果はROSのポジティブな側面を明らかにするとともに、IGF-I作用に重要な働きをしていることを初めて提示しました。運動すると局所のIGF-I産生が刺激されると同時に酸化ストレスも増加します。今回の結果から、この酸化ストレスがIGF-I作用を増強し運動による筋肥大を起こしている可能性があるかもしれないと考えています。Eviさんにおいては異国の地で様々な困難がありましたが、周りからのサポートを得ながらそれらを乗り越えてきました。来られたときから大きく成長し、多くのことを学んだ経験を帰国後も生かしていって頂きたいと思います。Eviさんは本論文に関連した研究でアクロメガリー賞を受賞されました。

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