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「プロフェッショナル」を目指して

若い君たちを勧誘するにあたり、「外科医」とは何かを改めて自問してみた。私個人のことを言えば、至極シンプルなのだが、まさに「ブラックジャックにあこがれて」である。小学生のころに少年チャンピオンで連載されていたダーティーヒーローに、心底あこがれた。そんな単純な動機が結果として今の私を形成している。しかしブラックジャックのイデオロギーはさておき、彼の医療行為を突き詰めるとプロフェッショナリズムの骨頂であると気付かされる。そしてこのことが正に私を少年時代から一貫して外科医にあこがれさせた根幹の部分ではないか。つまり「外科医」はメスを扱うプロフェッショナルである、と。

人の体にメスを入れるということは、同時に人の体に傷をつけることでもある。それだけに時には不幸にして、患者の命を奪ってしまうことさえ経験するかもしれない。しかし、メスのみがその人の運命を劇的に変えうる道具となることも数多く経験するであろう。患者の立場に立つと、自分の体にメスを入れられることは出来る限り避けたいと思っているはずだ。しかしこの患者が手術創をいつの日か「勲章」として語る日が来れば、体と同時にその心にもメスを入れ、治癒させることが出来たといえるのではなかろうか。

21世紀になり、「外科医」の技術進歩によって、今まで治療不可能と言われていた領域に関しても、メスの力で治療可能になったこともしばしば経験する。しかしその一方で薬の進歩と診断学の発達により、メスが必要とされなくなった病も増えてきている。そして何よりも、ほとんどの病はメスの力だけでは解決しえないことも自覚している。

術というものは本来ごくシンプルなことである。大雑把に表現すれば、具合の悪い部分を取り除いたり、別のものと置き換えたりすることである。結局この行為に尽きるのだが、しかし実際にはその過程においていくつもの決断すべき瞬間がある。つまり適応を決定するところから手術はすでに始まっており、また術中にもいくつかのターニングポイントが訪れる。その際、進めるところは大胆かつ繊細に進み、撤退すべきときは潔く撤退する勇気を持つことが「外科医」にとっては肝要である。技術があるがゆえ全体を省みずに場当たり的に手術を行うことは、時に患者を不幸におとしめる。技術的には可能だが、しない方がよいと判断することこそが大切なのである。

言わずもがな、「外科医」は人の体を傷つけた以上、その後の管理は万難を排して遂行せねばならない。そしてその患者が再び立ち上がり、元気な姿で退院するその日まで責任を持つ。当然体力のみならず精神的にもキツイことは多い。ただ「外科医」は独りでやっているのではなく、チームとして一人一人の患者に接していくのである。仲間とスクラムを組み、喜びにも悲しみにもぶつかっていきながら、「外科医」として育っていくのである。

矛盾するかもしれないが、我々自身も「外科医」でありながら、いつの日かメスが無くとも全ての病が治る日がくることを切に願っている。しかし、その日が来るまで我々が「外科医」である以上、メスの力を信じ、極めたい。そしていつの日かブラックジャックになりたい、と。

神戸大学外科学講座の同門会はそんな仲間を待ち望んでいる。さあ、メスの力を信じて「プロフェッショナル」を目指そう。

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