臨床研究の紹介と解説
先天性(遺伝性)疾患とモザイク疾患の遺伝学的診断とマルチオミックス解析
皮膚科領域には500〜1000の様々な先天性(遺伝性)疾患と、さらに身体の一部分だけに症状が現れる表皮母斑などのモザイク疾患があります。本研究では、全エクソーム解析、全ゲノム解析、RNA-seqなどの様々なオミックス解析を駆使して、原因となった遺伝学的変化を明らかにし、正しい診断に基づいた診療と遺伝カウンセリングを行っています。さらに、まだ原因が未知の疾患について、原因となった遺伝学的変化の同定と病態の解明を行っています。
各種の母斑、母斑症、先天性水疱症、角化症(魚鱗癬)、掌蹠角化症、など様々な稀少疾患/先天性(遺伝性)皮膚疾患の診断や治療についてのご相談に対応しています。以下までメールにてご相談ください。
汗孔角化症の病態解明と治療薬開発
汗孔角化症には様々なタイプがあります。円形や環状の皮疹が全身に多発するもの、大きな皮疹が単発するもの、小児期に身体の一部に線状に皮疹が分布するものなど、多種多様です。治療に反応しない強い痒みを伴うことも多く、治療に困ることが多いです。我々は汗孔角化症の病態解明の基礎研究を進めるとともに、あたらしい治療法についての臨床研究を進めています。
汗孔角化症の診断、治療についてのお問い合わせは、メールにてお願い致します。
皮膚がんにおける網羅的遺伝子発現解析とメタボローム解析を用いたバイオマーカーの探索
本邦では、2人に1人が生涯でがんに罹患し、3人に1人はがんで亡くなります。今後がんに対する治療の潮流は、各患者さんのプロファイルを明らかにし、オーダーメイドで治療を選択する個別化医療に移行していくと言われています。そこで本研究では、遺伝子発現解析とメタボローム解析を用いて、皮膚がんの個別化治療に向けたバイオマーカーの探索を行なっています。具体的には、悪性黒色腫、乳房外Paget病、血管肉腫の採取組織、もしくはそのホルマリン固定・パラフィン包埋組織からのサンプルで、次世代シーケンサーを用いた全ゲノムシーケンス・エクソームシーケンス・ターゲットシーケンスを行っています。病期・予後・腫瘍の大きさなどの項目と遺伝子変異の関連について解析しています。さらに、皮膚がん患者血液中の代謝産物の全体像(メタボローム)を解析し、その患者さんの治療経過と照合することで、治療効果予測マーカーなどの探索を行なっています。
汗疱に対するオキシブチニン塩酸塩ローションの効果に関する
個体内対照・非盲検・探索的臨床研究
汗疱は手のひらや足の裏に痒みを伴う小さな水疱や赤みが出てくる病気です。副腎皮質ステロイド剤の外用治療などが行われてきましたが、効果が得られない方も多く、現在有効な治療法は明らかではありません。そこで汗疱を生じている患者さんに、オキシブチニン塩酸塩ローションの治療を行い、その効果や安全性を検討する研究を開始しました。効果が見込めるかどうか、安全性に問題がなさそうかどうかを確認します。結果によっては今後の大人数の患者さんを対象とした研究に結び付き、将来的な汗疱の治療薬の開発につなげたいと考えています。
刺激誘発型の蕁麻疹、アナフィラキシーにおけるアレルゲン同定のための臨床研究
刺激誘発型の蕁麻疹は特定の刺激ないし条件が加わった時に症状が誘発される蕁麻疹です。食物アレルギー、物理性蕁麻疹(寒冷蕁麻疹、温熱蕁麻疹、日光蕁麻疹など)、コリン性蕁麻疹、接触蕁麻疹などがあります。本研究は保険診療の範囲内で原因抗原を同定し得ない刺激誘発型蕁麻疹あるいはアナフィラキシーの患者において、研究的な検査を駆使してアレルゲンを同定することを目的としています。
例えば、日光蕁麻疹は太陽光線の曝露後に、曝露された皮膚に限局して蕁麻疹が生じる病気です。日光蕁麻疹の病態として古くから、血清中に存在する因子が光線照射により変化して自己抗原(内因性光抗原)として働くことが推察されていますが、未だ内因性光抗原の同定はされておりません。当科は日光蕁麻疹などの刺激誘発型蕁麻疹、アナフィラキシー症例のレジストリを構築し、抗原の同定解析を研究しています。
色素性乾皮症(XP)の診療および臨床研究について
色素性乾皮症はDNA損傷修復に関わる因子の機能低下が病因となる遺伝性の疾患です。A~G群とV型の8つの病型に分けられ、全病型で高度の光線過敏を呈し、病型・遺伝子変異部位によっては進行性の神経症状を伴います。XPの可能性が考えられる場合は早期に診断し、必要な紫外線防御対策をできるだけ早期に開始することが重要です。また、皮膚以外の症状も伴うため、当院のXP外来では耳鼻科・リハビリ科・脳神経内科等と連携しながら診療を行っています。
当科ではXPの診療を通してさまざまな研究を行ってまいりました(Ono R, et al. Photodermatol Photoimmunol Photomed. 2016, Nakano E, et al. Exp Dermatol. 2016, Nishigori C, et al. Photochem Photobiol. 2019, Tsujimoto M et al. BMJ Open. 2023)。これからも、臨床研究を通してXP診療の充実・治療法開発へ取り組んでまいります。
XPの診断や診療についてご相談を希望される方は、メールにてご連絡ください。
XP外来の受診を希望される方は、神戸大学の地域連携を通して一般外来の初診(平日午前)のご予約をお取りください。詳しくは専門外来のページをご確認ください。
色素性乾皮症(XP)と診断された方の紫外線対策に関する生活支援
色素性乾皮症は紫外線によって生じた遺伝子の傷を修復するしくみに障害がある遺伝性の病気です。紫外線により強い日焼けを起こすタイプでは、ほんの数分の外あそびでも強い日焼けを起こします。また、同じくらい紫外線にあたると、全ての患者さんで紫外線にあたった部分にシミができます。紫外線にあたる生活を繰り返した場合、XP患者さんは、XPでない人に比べて数千倍、皮膚がんになりやすいとされています。
XP患者さんがどのくらい紫外線にあたらなければ安全なのか、今はわかっていません。しかし、紫外線対策に気を付けることで皮膚がんが予防できることはわかっています。紫外線対策製品の選び方だけでなく、色々な状況の紫外線の強さについて、研究機器を使った測定結果もお伝えしながら、XP患者さんの日常生活がより豊かなものになるお手伝いができればと考えています。
XPの紫外線対策についてご相談希望の方は、メールにてご連絡ください。