
教科書に残る仕事
基礎研究
皮膚の恒常性維持機構の解明
皮膚の表面は表皮に覆われ、毛包や汗管が開口し、外の世界からの様々な刺激から我々の身体を守るバリアを形成しています。久保(亮)はこれまでに、表皮の角層バリアの質量分析イメージングや(Kubo et al, Sci Rep 2013)、表皮タイトジャンクションバリアとランゲルハンス細胞の相互作用(Kubo et al, JEM 2009)の解明などの研究成果を通じて、皮膚バリアの恒常性維持の仕組み(Yokouchi et al, eLife 2016, Atsugi et al, JID 2020)を明らかにしてきました。神戸大学皮膚科においては、1.表皮に出現した変異細胞が正常表皮を置き換えて成長していく仕組みと、そこに関わる細胞競合機構の解明、2.表皮に開口するエクリン汗腺の構造解明と、汗が関わる疾患の細胞生物学的解析について、福本、久保(亜)、大学院生とともに研究しています。
タイトジャンクションバリアを維持したまま表皮細胞が入れ替わる仕組み:細胞が入れ替わる時に、表皮細胞の扁平ケルビン14面体の形状を利用して、入れ替わった後に消える古いタイトジャンクション(緑色)と、その内側に新しく作られるタイトジャンクション(紫色)の2重のバリアが形成され、バリアを維持したまま細胞が入れ替わる。
遺伝性皮膚疾患の病態解明と治療法開発
皮膚に症状が現れる先天性や遺伝性の疾患は500〜1000あります。我々は全エクソーム解析などの遺伝学的解析を通じて、先天性・遺伝性の疾患について遺伝学的解析をおこない、診療および挙児希望時などの遺伝カウンセリングに役立てるとともに、原因遺伝子や病態メカニズムが未知の疾患の解析を行っています。久保(亮)はこれまでに、長島型掌蹠角化症の原因遺伝子解明(Kubo et al, Am J Hum Genet 2013)、汗孔角化症の皮疹形成メカニズムの解明と新規原因遺伝子の発見(Kubo et al, JID 2019、Saito et al, Am J Hum Genet 2024)などの成果をあげてきました。神戸大学皮膚科においては、1.汗孔角化症モデルマウスの作成と解析、2.コルノイドラメラ形成機構の解析、3.新規皮膚モザイク疾患の同定と病態解明、4.神経線維腫症I型モザイク症例の次世代遺伝リスク評価、などについて、吉岡、久保(亜)、大学院生とともに、慶應義塾大学、国立成育医療研究センタ―、横浜市立大学との共同研究も交えて、研究しています。
日光蕁麻疹における内因性光抗原の同定
日光蕁麻疹は太陽光線の曝露後に、曝露された皮膚に限局して蕁麻疹が生じる病気です。太陽光線には可視光線、UVA、UVBなどがありますが、蕁麻疹反応を誘発する光線の領域は症例によって様々です。日光蕁麻疹の病態として古くから、血清中に存在する因子が光線照射により変化して自己抗原(内因性光抗原)として働くことが推察されていますが、未だ内因性光抗原の同定はされておりません。織田はこれまでにin vitroで内因性光抗原を検出する方法として、好塩基球活性化試験の方法を確立しました(Oda Y et al, JACI in pra 2020)。神戸大学皮膚科においては、日光蕁麻疹症例のレジストリを構築し、内因性光抗原の同定解析を研究しています。
色素性乾皮症の病態解明と治療法開発を目指した研究
色素性乾皮症(XP)はDNA損傷修復に関わる因子の機能低下による遺伝性の疾患です。A~G群とV型の8つの病型に分けられ、高度の光線過敏を認め、病型・遺伝子変異部位によっては進行性の神経症状も伴います。我々はこれまでに疾患モデルマウスなどを用いて病態解明に関連する研究を行ってきました(Nakano E, et al. JID 2014, Kunisada M, et al. JID 2017, Nakano E, et al. JID 2018, Takeuchi S, et al. JDS 2022, Takeuchi S, et al. FASEB Bioadv. 2022)。それらの知見を基盤として現在、辻本らが学内外と共同し新規治療法開発を目指した研究にも取り組んでいます。
色素性乾皮症患者の遮光生活支援に関する機器開発
皮膚が紫外線にさらされると、DNAの決まった塩基配列の部分に歪みができます。健常な人では、DNAの歪みをなおす仕組みを持っていますが、色素性乾皮症(Xeroderma pigmentosum : XP)患者さんはその仕組みが上手く働きません。DNAの歪みが増えると皮膚の癌になる可能性が高まります。XP患者さんは健常な人の2000~10000倍、皮膚の発癌リスクがあるとの報告があります。そのため、XP患者さんは紫外線を徹底的に避けることを目標に毎日生活されています。紫外線の波長ごとの生体への影響と安全性を検討し、光学機器の開発に皮膚科として協力した経験(Yamano N et al. Photo Photo 2020, Yamano N, et al. Photo Photo 2021)を活かして、神戸大学医学部医療創成工学専攻の先生や光学系企業の方々とともに、XP患者さん達の紫外線対策に役立つ機器の開発に取り組んでいます。