乳房に使用されるインプラントの種類は、非常にたくさんあります。
シリコンの袋の中に生理食塩水をいれたもの、液状のシリコンを充填したもの、
グミ状のシリコンを充填したもの、など内容物にもいろいろな種類があります。
シリコンの袋にも、表面がツルツルなものや、ザラザラしたものがあります。
今回、特に問題になっているのは、表面がザラザラした乳房インプラントです。
これまでにも海外では「乳房インプラントを入れた患者さんに悪性リンパ腫が発生した」という報告がありました。
が、乳房インプラントを入れていない患者さんにも悪性リンパ腫は発生しているといったこともあり、
両者の間の関連性については疑問が残っていました。
また発生の頻度には人種差があり、特にアジア人には報告がほとんどなかったのです。
そして、このまま日本では発生がないまま経過してくれれば…、という望みは叶わず
最近ついに日本でも患者さんの発生が報告されました。
今後は日本でも報告は増加するものと思われます。
報告されている悪性リンパ腫とは、
BIA−ALCL(乳房インプラント関連急性大細胞性リンパ腫:乳房インプラントを
長期間にわたって挿入されていた患者さんに、まれに発生する悪性腫瘍)で、
特に表面がザラザラしたインプラントの周りにできる被膜から発生するといわれています。
発生頻度は報告によって差があり、乳房インプラントが入っている患者さん3,000人に1人というものから、
30,000人に1人まで幅があります。
しかしながら現在では、乳房インプラントと悪性リンパ腫の間には、明らかな関連があると考えられています。
一番重要なのは早期発見です。
症状としては、片側の乳房の急激な腫れ、痛み、しこりなどが重要です。
それらを見逃すことなく早期に発見し、適切な治療(被膜を含めたインプラントの摘出)を行えば、
化学療法(抗がん剤)や放射線治療を行わずとも、治療することが可能です。
発見が遅れると転移して、生命を脅かす可能性もあります。
これらを適切に診断するためには、定期的な検診が重要です。
残念なことに日本の美容外科では、乳房インプラントを用いて豊胸手術(乳房増大術)を行った患者さんを、
長期にわたって経過観察することはできていないことが多いように思われます。
神戸大学美容外科では毎月のように他院で入れられた乳房インプラントの摘出手術を行っています。
心配な方は、遠慮なく受診なさってください。
もし可能であれば、最初に手術をしたクリニックから、
使用したインプラントの情報をいただければ、治療にスムーズに入ることができます。
文責:神戸大学病院美容外科診療科長 原岡剛一