小児科研究部門
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小児科学

石河先生のニューヨーク留学便り


石河先生のニューヨーク留学便り  2024.01.22 
 こんにちは。先日無事に本帰国しました。留学中に一時帰国する機会がなかったため、日本で生活するのはおよそ3年ぶりです。アメリカと比べて日本は設備やサービス等あらゆる点で良き届いているため、帰国直後は気持ちが落ち着かない感じがありました。時折アメリカの大雑把さを懐かしく感じますが、慣れ親しんだ土地での生活はやはり居心地が良いです。

 さて、今回が最後の留学体験記となりますので、留学生活全般を振り返ろうと思います。
 以前にラボのことをご紹介したことがありましたが、私はDr. Michael GoligoskyとDr. Dong Sunの研究室でポスドクとして働いてきました。留学開始時には、私に加えてインド人とリビア人のポスドクがいたのですが、二人とも途中でラボを去ってしまい、最後の一年間は、私一人になりました。留学先としては珍しいケースかと思われます。同じラボの仲間と一緒に研究を進めていく環境ではなく、ボスと一緒に実験系を組み立てて研究を行っていきました。そのため、大きなプロジェクトの一端を担うスタイルではなく、私個人で完結することが多かったので、研究時間を自分で好きなように調整することができた点や、ボスが私の意見を尊重してくれた結果、興味のあることを優先できた点においては非常に恵まれていました。帰国前には、新たに短めの論文を投稿まで漕ぎ着けることができました。また、隣のラボにいたイタリア人、アルゼンチン人、インド人達と家族ぐるみで親密に付き合うことができ、家族全員にとって貴重な経験ができました。

 私は神戸大学小児科では腎臓グループに所属していますが、留学先のテーマは私にとって新しいものでした。このような環境の中で感じたことは、例え全く知らない分野であっても、飛び込んでしまえば、学ぶにつれて興味深く感じることは必ず見つかる、ということです。そして、これまでの自分の知識と何かしら接点を持つことはできますし、新たな視点が生まれることもあります。これから臨床に戻るにあたって、患者さんの診療に直接的な繋がりを持てるかは分かりませんが、この視点を活かすことができるように、自分の中で模索しながら頑張っていこうと思います。

 生活面に関しては、留学先がニューヨークであったことは私にとって非常に有意義でした。様々な言語やアクセントが飛び交うニューヨークの街には、どんな民族をも受け入れる雰囲気があります。真のダイバーシティを肌で感じました。その一方で、世界情勢が悪化した際には、政治的・宗教的な分断が頻繁に生じる街でもあります。私がニューヨークに滞在した3年間は、米軍のアフガニスタン撤退、ウクライナ侵攻、パレスチナ・イスラエル紛争と、世界情勢が常に緊張していた時期であったため、デモ隊の暴徒化や衝突、ヘイトクライムは日常茶飯事でした。また、友人の母国が戦争に巻き込まれた時にはかける言葉が見つからず、非常に胸が痛みました。ニューヨーク生活を通して、日本にいた頃とは比べ物にならないくらい世界情勢に敏感になり、自分事として考えるようになりました。

 また、生活全般において大なり小なりトラブルはつきものでした。頻繁に自宅のWi-Fiや水道管が故障したり、ご近所との価値観の相違で苦労しました。その度に英語で交渉しなければならず、言語的にマイノリティーな自分は不利だと感じざる負えない場面も多々ありました。しかし、それら一つ一つのハードルに向き合い何とか解決の道筋を見出していく中で、語学力や度胸が付いたように感じます。さらに、マイノリティーの立場に置かれたからこそ見える景色がありました。苦労する私達家族に優しく手を差し伸べてくれた人々は数知れず、たとえそれが通りすがりの赤の他人であったとしても、人の心の温かさを感じる機会が数多くありました。近年日本でも外国籍の方々が増えていますが、そのような方々がマイノリティーとして異国で生きていく上での苦労を想像すると、何か自分にできることはないものかと考えさせられます。

 経済面では、円安に加えて記録的なインフレにより、生活費の工面は容易ではありませんでした。私の場合には研究室から給料を頂いていましたが、日本の2~3倍の物価のニューヨーク生活では、それだけで生活していくことは非現実的でした。そのため、留学3年目に上原記念生命科学財団の海外留学助成リサーチフェローシップに選んでいただき、生活費のための助成金を頂いたことは非常に助かりました。

 留学を考えておられる若手の先生方に向けてお話させていただくと、大雑把な言い方ではありますが、研究留学の動機はどのようなものでも良いと思います。海外で研究したい、忙しい臨床から少し離れたい、日本以外の国で生活したい、など何でも良いと思います。その気持ちを持ち続けて、是非留学にトライしてもらいたいと思います。そして、その希望を心に秘めておくのではなく、声に出してください。そうすると、同じ志を持つ人との出会いや、思わぬ人との繋がりがあったりします。この留学体験記で紹介してきたことは、どちらかというと留学生活のポジティブな面が多いですが、ここに書いていない苦労話はたくさんあります。そのようなことも含めて、様々なことをお話しできるかと思いますし、助成金に関することも少しばかりアドバイスができるかと思いますので、気軽にお声がけいただければと思います。

 この3年弱の間、慣れない土地での生活に四苦八苦しながらも前向きに毎日を楽しんでくれた家族には感謝しています。妻は、好きな英語にどっぷり浸かれる環境が気に入ったようで、育児を通して知り合った現地のママ友との交流や、ゴスペルサークルでの活動を楽しんでいました。生後8か月でニューヨークに渡った息子は、1歳から3歳まで継続してナーサリースクールに通い、多様なバックグラウンドを持つクラスメイトや先生との触れ合いを経験しました。家族一人ひとりにとってかけがえのない時間でした。渡米当初は頼れる人が近くにおらず、気持ちが内向きになりかけることもありましたが、その都度話し合い協力し合う中で、家族の絆は深まったと感じます。大変なことも多かったけれど何とかなった、良い経験だった、と今でも妻と時々振り返ります。

 最後になりましたが、留学先を紹介してくださった飯島先生、留学を後押ししてくださった野津先生、神戸大学小児科の先生方に心より感謝いたします。有難うございました。今後も神戸大学小児科医局の一員として精進して参りますので、宜しくお願い申し上げます。
 

アメフト

■ニューヨークの四季
(左上)春。桜祭りが行われて、ニューヨークにいながら日本の春を感じることができました。
(右上)夏。日差しは強いですが、暑すぎず過ごしやすい夏でした。芝生の上で息子と駆け回ったことは懐かしい思い出です。
(左下)秋。9月11日にはツインタワーを象徴する青色の光が夜空に映し出されます。長年現地に住んでいる方々からその日の様子を聞く機会もあり、これ程までに事件を身近に感じたことはありませんでした。
(右下)冬。雪は年に数回積もりました。私の幼少期と比べて関西で雪が降ることは少なくなったので、息子と久しぶりの雪遊びを楽しみました。
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石河先生のニューヨーク留学便り  2023.12.07 
 こんにちは。12月に入り、ニューヨークの街はクリスマスが近づくにつれて、一年で最も華やかな雰囲気に包まれています。雪は降らないまでも、朝方に氷点下まで冷え込む日が多いですが、近所の家の前に飾られているクリスマスのイルミネーションを見ると、暖かい気持ちになります。

  留学生活では日本といる時と比べて、格段に家族と過ごす時間が増えました。平日であっても夕方に息子と一緒に公園へ遊びに行くことも多くありました。そのため、日本とアメリカの文化の違いなど、子育てを通じて感じる場面が多々ありました。今回はその中のいくつかを紹介しようと思います。

  一般的に欧米社会は子供に優しいと言われていますが、その通りだと実感しました。例えば、電車の中で子どもが泣いていても、周りの大人が一緒にあやしてくれたり、「私の息子も小さい時には色々と大変なこともあったよ」などと話しかけてくれたりします。日本でも子どもに優しい方はたくさんいますが、知らない者同士だと、声を掛けづらい風潮があると思います。公共の場で子供が騒いで周囲の人に迷惑をかけないようにしなければと必死になることもなく、周囲の寛容な雰囲気に助けられたことは幾度となくありました。

  また、アメリカで過ごしていると、「謙遜する」という文化がないことに気づかされました。日本の場合、自分の子どもが褒められると、「そんなことないよ。」と謙遜することが一般的かと思いますが、「ありがとう。私もそう思うわ。」と答えることが多いと感じました。“I am proud of my son/daughter” というフレーズは会話の中で頻繁に耳にします。これを聞いた子どもは自分に自信を持って成長できると思いますし、良い文化だと感じました。

  今回の留学生活では、子どもを通じて、たくさんの方との出会いがありました。私の住んでいる地域は、ニューヨーク駐在の家族が多く住んでいるため、日本では交流の機会のなかった金融、商社、国連など様々な業種の方と親交を深めることができました。夏にはバーベキュー、秋には果物狩りなど家族ぐるみで付き合う仲間もでき、ここでの出会いはまさに貴重な財産となりました。異なるバックグラウンドを持つ人たちとの交流を通して、新しい世界を知り、自分の視野を広げることができました。

  息子は3歳過ぎで帰国することとなり、将来ニューヨークでの生活をどれだけ覚えているかは分かりませんが、親としては異文化の中での生活を通して感じたことを息子に伝えていけたらと思います。
 

アメフト

(左)寒い冬はアメフトの季節でもあります。アイビーリーグのイェール大学とハーバード大学の試合を見に行きました。
(右)マンハッタンのロックフェラーセンターにあるクリスマスツリーです。今年のツリーはニューヨーク州北部から運ばれてきました。
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石河先生のニューヨーク留学便り  2023.10.23 
 こんにちは。10月半ばが過ぎ、朝晩が冷え込むようになりました。ニューヨークでは徐々に葉が色づき始め、街ではハロウィンの飾り付けを楽しむことができます。今回は先日参加してきた学会について書きたいと思います。留学を開始して2年半が経ちましたが、現地開催の学会への参加は初めてでした。思い返してみると、パンデミックの影響で多くの学会がオンライン開催となり、学会会場へ足を運んだのはほぼ4年ぶりでした。

 参加した学会の名前はVascular Biology 2023で、NAVBO (North America Vascular Biology Organization)という北米地域における血管に関する基礎研究の学会です。ロードアイランド州のニューポートで開催されました。ロードアイランド州はあまり馴染みのない州かと思いますが、ニューヨークから東へ車で3時間半ほどの距離にある大西洋に面した州で、アメリカ50州の中で面積が最小です。ニューポートはその名の通り港町で、別荘が建ち並ぶ避暑地として有名です。ちなみに、幕末に黒船で日本へ来航したペリー提督の出身地だそうです。

 「Vascular Biology」と一言でいっても、血流動態に関連した血管生理学の内容から、ヒト血管オルガノイドを用いた病態解明、リンパ管の内皮細胞に関する研究など非常に幅広い分野で構成されています。臨床と直接的に関連した研究も少なからずあり、臨床をやってきた身としては入り込みやすい内容でした。患者さん由来の検体を用いて、Genotype-Phenotype-Correlation(遺伝子型-表現型の相関)を同定した上で、治療に対する反応性を検討し、個別化医療に繋げていく取り組みがいくつか行われていました。基礎研究の現場ではやはりシングルセル解析が圧倒的に強力なツールになっていることを強く実感しました。

 私自身は論文となっている内容に関連して、新しく得られた実験データをメインに発表してきました。血管内皮グリコカリックスの経時的変化を観察するために、マウスにcranial windowを取り付けて、脳表面の血管の画像を撮影して、ソフトウェアで解析するというものです。ポスターでの発表だったのですが、その後オーラルにも選ばれて、7分間のshort presentationをする機会をいただきました。質疑応答の際にもっとスムーズなディスカッションが出来るように改善すべき点がありましたが、基礎研究者の前でプレゼンをすることができ、非常に良い経験となりました。ポスター前での質疑応答は夜9時から10時という遅い時間にあり、あまり人が来ないのではないかと気にしながら行ってみると、ワイン片手にディスカッションが行われて、大賑わいでした。オーラルでの発表と同日にあったので、発表を聞いて足を運んでくれた方もいて、多くの研究者の方と話をすることができました。今後の研究の目的のために何が必要かという建設的なコメントや現時点で考えておくべき問題点など指摘をいただき、自分の中で整理することができました。ただ、留学期間が残り少なくなってきているので、できることを選んで進めていく必要がありそうです。

 Vascular Biologyは300人ほどの規模で、学会の中では大きい規模ではないと思います。だからこそ、研究者同士の繋がりが非常に強く、キャリア形成の面でも非常に重要な学会だと感じました。朝食や昼食時には、round tableといって、若手研究者が様々なラボのPI(principal investigator)と話をする機会が設けられています。また、企業と若手研究者を繋ぐ企画も実施されていました。基礎研究の学会は、若手にとって進路選択に重要な位置付けであり、その意味合いは臨床メインの学会よりも大きいのではないかと感じました。また近年、冊子での抄録集が廃止され、アプリ上でスケジュールや抄録を確認することが増えてきていますが、今回の学会でも事前にアプリをダウンロードしていきました。驚いたことに、アプリ上で参加者全員の名前の一覧を見ることができ、連絡を取りたい人にチャットやメールができる機能がついていました。顔写真やプロフィールを載せることもでき、まさに顔の見える繋がりだなと感じました。

 11月上旬にはフィラデルフィアでアメリカ腎臓学会(American Society of Nephrology)が開催されます。私も参加する予定で、神戸大学の先生方と久しぶりにお会いできることを楽しみにしています。
 

ロードアイランド州のニューポート

(左)ロードアイランド州は別名Ocean Stateと呼ばれており、風光明媚な海岸線が続いています。
(右)ポスター前にて
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石河先生のニューヨーク留学便り  2023.08.31 
 こんにちは。8月下旬になり、朝晩は涼しく秋の気配を感じます。今回は久しぶりに研究をテーマに書きたいと思います。
 先日、渡米以来続けてきた研究の論文が "American Journal of Physiology - Heart and Circulatory Physiology " からpublishされました。タイトルは "Liposomal nanocarriers of preassembled glycocalyx expeditiously restore endothelial glycocalyx in endotoxemia" です。血管内皮グリコカリックスは血管内皮細胞の管腔側表面を被覆する構造体で、血液凝固、血管透過性、血管トーヌスの制御、白血球の接着や遊走の調整など重要な役割を果たしています。敗血症ではグリコカリックスの脱落による血管内皮細胞障害を伴い、宿主生体反応の制御不全により多臓器不全に至ります。今回、グリコカリックスの構成成分を挿入したリポソーム(Liposomal nanocarriers of preassembled glycocalyx: LNPG)を敗血症モデルマウスに投与した結果、LNPGが血管内皮細胞と膜融合し、グリコカリックスを修復、再生し、内皮細胞機能を改善させ、生存率を改善することを示しました。

 敗血症に限らず、様々な疾患で障害される血管内皮グリコカリックスに関して、Pub Med検索ではここ10年ほどで論文数が格段に多くなってきており、そのメカニズムのみならず、治療ターゲットとしても近年注目されています。トピックとなっている分野での研究に従事できたことは幸運であったと思います。グリコカリックスの構成成分であるSyndecan-1をリポソームに挿入するというアイデアは私が研究室に来る以前からあり、途中からプロジェクトに参加しました。グリコカリックスのみならず、リポソームについての知識をほとんど持ち合わせてない状態で研究を開始したので、最初は非常に大変でした。渡米して1年目にグリコカリックスに関連した総説を書かせてもらい、知識をインプットする良い機会となりました。LNPGを作成する段階ではin vitroの実験があるものの、多くの実験はマウスを用いたin vivoで行われました。実験条件が整えば、あとは繰り返し行えば良いのですが、このLNPGを用いることは世界初の試みですので、投与量や投与回数といった実験条件を設定することに多大な時間を費やしました。失敗の連続で3ヶ月たっても何も進展がないということもあり、正直辛い日々もありましたが、何とか形にすることができ良かったです。今回の論文ではLNPGの有効性を示したもののlimitationが多いので、それを埋め合わせる実験を現在行っています。今回の論文は雑誌10月号の中でEditorial focusに選ばれ、エキスパートによる本論文に対するミニレビューが掲載され、今後の研究の励みになりました。

 研究絡みで、トーマス・エジソンの話を書こうと思います。ニューヨーク州の隣、ニュージャージー州には、エジソンの自宅や研究施設がThomas Edison National Historical Parkとして残されており、先日行ってきたのですが、なかなか面白かったので少しばかり紹介したいと思います。

 エジソンといえば電気を発明した偉い人、という印象しかなく、子どもの頃に自伝を読んだ記憶はありますが、細かいことは覚えていませんでした。私の勝手な想像に過ぎませんが、発明家は一人で黙々と実験を行なっていたのだろうと思っていました。しかし、エジソンの凄さは、発明を一人でするのではなく、組織で行うことにあったそうです。エジソンは29歳の時に研究所を構えました。自前の研究所を持ったことで、仕事の生産性と効率が格段に上がり、蓄音機などを発明していきました。そして、その後白色電球を発明します。研究所の豊富な資金をもとに、研究所の技術者たちが多くのサンプルを作り、実験を繰り返したそうです。そして、エジソンは研究者としての素質だけでなく、経営者としても手腕を振います。電球の発明にとどまらず、街中に灯りを照らす電灯システムを事業化して、より多くの利益を生むことで、資金を獲得して次の研究に繋げようとしました。

 この施設では、当時の研究室がほぼそのままの状態で残されています。これまで知らなかったエジソンという人物に感銘を受けたとともに、発明の裏にあるエピソードを知ることができました。私もエジソンのように、とまではいかなくても、どんな環境にいようが常に先を見据える姿勢は大事だなと感じた一日でした。
 

トーマス・エジソン

(上)当時の研究所。当時は最先端で、非常に優秀な技術者が働いていたようです。
(左下)発明した白色電球
(右下)電球を掲げるエジソンの像
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石河先生のニューヨーク留学便り  2023.05.31 
 先週、私が所属する生理学教室のシンポジウムが昨年に引き続き開催されました。神経生理学、循環生理学、血管生理学など様々なラボから修士課程や博士課程の学生およびポスドクが発表しました。こちらで研究を開始してから2年が経ち、データが増えたこともあり、ストーリー性を持ってこれまでの研究をまとめて発表することができました。発表に向けて英語のアクセントなど入念に練習したつもりでしたが、発表後に録画された自分の発表を見返してみると、改善すべき点がまだまだ多いことに気付かされました。しかし、別の分野の発表者とより積極的に議論する機会が増えた点に関しては成長を感じました。

 さて、今回はニューヨークにおける日本文化について書きたいと思います。近年、訪日外国人の増加と共に、海外で日本文化の人気が高まっているようですが、ニューヨークに来てからその点を身をもって感じています。中でもアニメなどのサブカルチャーは非常に人気があります。本屋や図書館には"Manga" コーナーが広々と設けられ、キャラクター柄の服を着ている子どもたちを頻繁に見かけます。つい先日、タイムズスクエアでアニメの人気キャラクター(ガンダム、ワンピースなど)のイベントが開催されていたそうです。また、5月中旬にはセントラルパーク沿いでJapan Paradeが開催されました。私は残念ながら参加できなかったのですが、お神輿や武術の披露など非常に賑やかなイベントだったそうです。

 ニューヨークでは春から夏にかけての週末に、Japan Fesが開催されます。今年は様々な場所で計20日間も開催され、Ramen ContestやKonamon Contestも同時に行われるようです。私も昨年の夏に一度Japan Fesに行ってみました。歩行者天国となった通りに屋台が立ち並び、焼きそばやたこ焼き、焼き鳥などの食べ物、ヨーヨー釣りなど、雰囲気は日本のお祭りさながらでした。日本のお祭りと一番異なる点は値段です。食べ物のボリュームは日本とさほど変わりませんが、たこ焼き6個で12ドル、お好み焼き16ドルなど、円安を考慮して計算するもの嫌になるような値段でした。それでも日本らしいの夏を味わい、良い思い出となりました。祭りの参加者の中にはちらほら日本人も見かけましたが、大半が日本文化好きのニューヨーカーでした。このような方々は気さくに私たちに気さくに話しかけてきてくれて、日本文化に興味を持ったきっかけを聞いてみると、アニメや漫画という答えが多かったです。そして、それをきっかけに日本語の勉強を始めたり、茶道や武道にも興味を持ち始めたという人たちもいて、サブカルチャーの影響の大きさを実感しました。

 もちろん日本食も人気があります。中でも、ラーメンはRamen Contestが行われるほど人気で、街中で日本発のラーメン屋も数多く見かけます。ちなみにニューヨーク市だけでも一蘭は3店舗、一風堂は5店舗もあります。値段は1杯15-20ドルほどで、税金やチップを入れると日本円で3000円近くします。さすがにラーメン1杯にこれほど払いたくないので、ニューヨークに来てから一度しかラーメン屋に行っていません。ラーメン屋といっても、おつまみから寿司、日本酒まで提供されていて、内装も綺麗で、小洒落たレストランという印象です。ちなみにニューヨーカーには醤油や塩ではなく、豚骨ラーメンが人気のようです。最近では日本酒も人気で、つい先日、ニューヨーク近郊に獺祭の蔵元である旭酒造の酒蔵がオープンしました。車で1時間ほどの距離なので、機会があれば訪れてみたいと思っています。

 既に帰国してしまったのですが、隣のラボに大の日本好きのイタリア人女性がいました。中でもジブリと漫画のNANAが好きで、私が知らないことをたくさん教えてくれました。この春にイタリアで修士課程が修了したとメールをもらったのですが、その修了記念として日本へ旅行するそうです。来年、旅行するようなので、ぜひ関西へ来た時には案内できたらと思っています。

 日本文化がこれほどまで受け入れられていることには驚きと同時に、日本人として誇りを感じます。日本で暮らしていると当たり前に思っていたものが、海外の人の目には珍しく、新鮮に映るのだと改めて感じます。また、アメリカで生活していると、和食の素晴らしさを再認識します。旬の食材を調理し、美しく盛り付け、さらには栄養バランスも考慮されている和食は、唯一無二の文化でしょう。海外に出たことで客観的に日本の良さを実感し、今後海外の人々に自信を持って紹介できるよう日本文化の教養を深めたいと感じています。
 

Japan Fes

(左)Japan Fesの様子です。
(右)日本のレコードを販売しているお店もありました。
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石河先生のニューヨーク留学便り  2023.03.20 
 こんにちは。この冬、ニューヨークは記録的な暖冬でした。12月、1月に雪がちらつくことはあったものの、まとまった雪は降らず、2月1日になりようやく積雪が観測されました。これは1869年に統計を取り始めて以来、最も遅い積雪だったそうです。そして、1月は全ての日で例年の平均気温を上回るという、記録的な月でした。ようやく2月になり、冬らしい気温になったものの、昨年に比べると寒さを感じることは少なく、子どもにとっては外で遊べる機会が増えて、過ごしやすい冬でした。

 早いもので渡米してから2年が経ちました。この時期は医療保険の更新、確定申告など事務的な手続きをしなければなりません。そして、車に関しても、自動車保険の更新や1年毎の車検、2年毎のナンバープレート登録の更新を忘れずにしなければなりません。今回は生活に欠かせない「車」をテーマに書こうと思います。

 日本では2年毎(新車の場合は初回は購入3年後)に車検が必要で、その度に10万円程度の出費となり、高いなという印象でした。ニューヨーク州での車検は "Car inspection" と呼ばれ、1年に1回の頻度で必要なものの、検査自体は日本と比べると簡素化されたもののようです。自動車整備工場に車を持ち込むと、1時間程度で終了し、値段はオイル交換を含めて80ドル程度です。検査が終了するとフロントガラスに次回の検査期限が書かれたステッカーが貼られます。この Car Inspectionの更新漏れは罰金の対象になるので注意が必要です。

 マンハッタンなどの都市部に遊びに行く時、子どもを連れてニューヨーク地下鉄に乗ることは治安面で不安なので、車を使うことが多いです。街中には多くの有料駐車場がたくさんありますが、予約なしで入ると1時間30ドルなど、とんでもない高額な値段になってしまいます。しかし、"Best parking" などのアプリでは、事前に予約することができ、かなり格安で駐車できますし、駐車場を探す手間を省くことができます。最近ではこの有料駐車場を使わずに、無料の路上駐車をすることが多いです。都市部の道路には路上にコインパーキングが設けられていることが多く、縦列駐車された車がびっしり並んでいます。日本で縦列駐車をすることは滅多になかったので、コツを掴むまで時間がかかりましたが、アメリカ人の縦列駐車のスキルは総じて高いように感じます。コインパーキングでも、上限時間が決まっていたり、駐車不可の時間帯があったりするので注意が必要ですが、日曜日は上限時間なく、料金無料のことが多いので、そこを狙って日曜日の朝から出掛けることが多いです。路上駐車スペースを探す時、びっしり並んだ車の列の中に不自然に空いているスペースには大抵、消火栓があります。消火栓の前後15フィート(約4.5メートル)は駐車禁止となっているので注意が必要です。仮に駐車した場合、違反チケットをもらうほか、火事などで消火栓が必要になった場合には消防隊に車の窓を割られて、ホースを車の中に通されてしまうようです(Google検索すると写真が出てきます)。

 駐車違反に関して、かなり厳しく取り締まっている印象です。コインパーキングを使う時、日本では最後に支払いますが、アメリカでは駐車開始時に25セントで支払うことが主流なので、あらかじめどれくらいで戻れるのかを考えておく必要があります。食事のためにコインパーキングに駐車していて、予想以上に時間が長くなってしまって、車に戻ると違反チケットを取られていたことがありました。最近では支払いをアプリでできることが多く、駐車時間の延長もアプリを通じてできるので、きちんとすればよかったと後悔するも遅く、罰金10ドルを支払いました。少なくとも私の住んでいる地域では、駐車違反に限らず、スピード違反や一時停止の無視なども日本と同じくらい取り締まっている印象です。もちろん日本と同じように覆面パトカーもあります。日本では覆面といえば白いクラウンというイメージですが、NYの覆面パトカーは黒いフォードの車が多いものの、SUVからセダンまで様々で、一見普通の車と見分けがつきません。(見分けが付いたら、覆面の意味がないですが。)駅前の交差点付近に止まっている普通の乗用車の中を見てみたら、警察官がいて驚いたことがありました。

 免許取得時の講習で学んだのですが、仮に運転中に警察に捕まった時に注意することは少し日本と異なります。車を止めた後、車を降りずにハンドルに手に置いて警察官が来るまで待ちます。とにかく抵抗する意思がないことを示すことが大事だそうです。警察官が運転席の横まで来た後、ダッシュボードからものを取り出したい時には、取り出すことの了解を得る必要があります。何も言わずに取り出す動きをすると、銃を取り出そうとしていると勘違いされて、銃を向けられる可能性があるそうです。

 アメリカで運転していて思うことは、皆スピードを出す、基本的に車間距離が狭い、指示器を出さない人が多い、ということです。ただ、歩行者に対しては非常に親切で、道路を渡ろうとしているとほとんどの場合は止まってくれます。これまでトラブルなく運転できているので、残りの期間も安全運転を心がけていこうと思います。
 

Vasaloppet

(左)私が乗っているHONDA CR-Vです。そろそろ10年が経つ中古車ですが、故障なく順調に走ってくれています。写真はクリスマスツリーを運んだ時のものです。
(右)暖冬とはいえ、時々訪れる寒波の時(今年は2回)にはマイナス15度くらいまで冷え込み、噴水が凍ってしまうほどの寒さです。
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石河先生のニューヨーク留学便り  2023.01.11 
 明けましておめでとうございます。日本がドイツとスペインを破り、盛り上がったサッカーワールドカップが終わり、あっという間に新年となりました。隣のラボにはサッカー好きのアルゼンチン出身の方がいて、優勝後には喜びを爆発させていました。近年アメリカではサッカー人気が急上昇していて、4大スポーツ(アメフト、野球、バスケットボール、アイスホッケー)に食い込む勢いとも言われています。2026年にはアメリカでサッカーワールドカップが開催されるため、さらに人気が高まると予想されています。

 さて今回はホリデーシーズンの話題を書きたいと思います。ホリデーシーズンとは一般的に11月最終木曜日のThanksgiving Dayの連休からクリスマス休暇を含めた年始までの期間を指します。
Thanksgiving Day のルーツは1620年にまで遡ります。ピルグリムたちが自由を求めて新大陸に辿り着いたのち、食べ物に困り苦しんでいたところ、原住民のネイティブアメリカンに助けられました。そして、その翌年に無事に豊作を迎えることができ、お祝いしたことが起源と言われています。伝統的にこの日は家族や友人と集まり、七面鳥を食べながら過ごします。帰省する人も多く、日本のお正月のような雰囲気を感じます。Thanksgiving Day 当日、米国に永住されている大学の日本人研究者の方のご自宅に招かれ、4家族ほどでご馳走を囲みながら賑やかにディナーを楽しみました。七面鳥はグレービーソースとクランベリソースを添えて食べることが一般的なようです。七面鳥はよく食べる鶏肉よりも淡白な味わいなので、このような個性の強いソースが合います。2歳の私の息子はお肉よりもクランベリーソースが気に入ったようで、ソースばかり食べていました。

 Thanksgivingの連休が終わると、街は一気にクリスマスの雰囲気になります。クリスマスの挨拶といえば、"Merry Christmas" だと思っていたのですが、私の周りでは聞いたことがありません。キリスト教徒の方同士であると、"Merry Christmas" を使っているのかもしれませんが、アメリカの中でも多くの人種や宗教の人が集まる地域では、"Happy Holiday" を用い、お店の人や友人たちとの別れの挨拶として頻繁に使われます。

 今年はせっかくなのでアメリカらしい体験をしようと思い、隣のコネティカット州までクリスマスツリーを自分たちで切りに行ってきました。下の写真のように、農場一面にもみの木が広がっていて圧巻の風景でした。受付でノコギリを借り、自宅の飾るスペースなどを考慮して好みの一本を選びます。もみの木と言っても種類は様々で、葉の形や色、香りなどが少しずつ違います。どれを切っても値段は均一でした。木の外側は比較的柔らかく調子良く切れますが、芯に近づくにつれてだんだん固くなり、想像以上の力仕事で、寒い日でしたが軽く汗をかきました。その後、下の写真にあるような機械に通すと一瞬で木がロープで縛られ、係の人に手伝ってもらいながら車の上に乗せて固定しました。その後、自宅で木の幹を固定する土台に乗せ、縛っていたロープを解くと、フワッともみの木の香りが部屋中に広がりました。表現が難しいですが、木の蜜のような甘い香りで、飾った初日は香りが部屋に充満しすぎて酔いそうでした。忘れてはいけないのが水やりです。切り立ての木は1日に2-3Lほどの水を吸います。しかし時間が経つにつれて吸いは弱くなり、年が明けた今ではほとんど水を吸わなくなってしまいました。日本ではお正月前にクリスマスツリーを片付けることが多いかと思いますが、欧米ではクリスマスから12夜を迎える1月6日頃まで飾られます。イエス・キリストが誕生した日が12月25日、東方の博士たちがイエスのもとを訪れ、誕生を世に明らかにした日が1月6日で、エピファニー(公現祭)といわれるお祝いの日です。生木のクリスマスツリーは自治体がゴミの日に回収してくれるので、1月6日以降になると道路脇には使用後のツリーを大量に目にします。この光景を見る度に、ホリデーシーズンが終わってしまった一抹の寂しさを感じます。

 留学期間は3年間となり、あと1年余りこちらで勉強する機会をいただきました。2024年3月に帰国の予定です。本年も宜しくお願いいたします。
 

Vasaloppet

(左上)Thanksgiving Dayにマンハッタンで行われる恒例のMacy'sパレードに行ってきました。キャラクターの巨大なバルーンが次々と登場する賑やかなお祭りです。孫悟空など日本のアニメのキャラクターもあり、大歓声が上がっていました。
(右上)もみの木が延々と広がるファームでした。
(右下)この機械に通すと一瞬にして木がロープで縛られ、持ち帰り用になります。
(左下)クリスマス後もまだまだ楽しんでいます。
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石河先生のニューヨーク留学便り  2022.11.14 
 こんにちは。11月6日(日)にサマータイム(Daylight Saving Time)が終わり、日が暮れる時間が早くなりました。夏の間は、仕事から帰ってきた後に子どもと外で遊ぶ日が多かったですが、今は17時頃には暗くなり冬の訪れを感じさせます。アメリカ(一部の州を除く)ではサマータイムがあり、3月の第2日曜日の午前2時に時計の針を1時間進め、11月の第1日曜日の午前2時に時計を1時間戻すので、"Spring Forward, Fall Back" というようにして覚えるそうです。最近、この時間の変更を廃止しようという動きがあり、今年3月に連邦議会上院で可決されました。これから下院を通過して、大統領が署名すれば、一年中サマータイムになります。1年に2回、人工的に時間を調整することで、睡眠障害などの身体的影響や交通事故の増加といった社会的問題が生じていることが理由です。私自身、この日曜日には「あれ、まだこんな時間か」という軽い時差ボケを感じました。一方で、一年中サマータイムにすると、12月や1月に朝の通学の時間帯が暗くなってしまうため、安全面での問題もあるようで、現在議論されています。

 少し前になりますが、10月末にはハロウィンのイベントが各地で開催されました。私の住んでいる街でも、子どもから大人まで思い思いの仮装をして、パレードが行われていました。私の息子は宇宙飛行士の格好をしたのですが、なかなか好評でした。子供たちはジャックオランタンの入れ物を持って、お店の前で配っているお菓子をもらい大興奮でした。ハロウィン当日は仮装をして小学校やナーサリーへ登校することが一般的です。ちなみにアメリカでは、ハロウィン以外にもPajama Day(パジャマで登校する日)やCrazy Hair Day(奇抜な髪型で登校する日)というユニークなイベントがあります。子どもたちに、学校は楽しい場所だと感じてもらい、登校を促す意味では良いイベントだと思います。アメリカの子供たちは、"Trick or Treat" と言ってお菓子をもらっているのかと思いきや、きちんと言っている子どもはほとんどおらず、お菓子をもらい、そそくさと別のお菓子スポットへと向かって行きました。最近では、"Trunk or Treat" といって、トランクにハロウィンの装飾を施した車をパーキングに並べて、そこで子どもたちにお菓子を配るというイベントが流行っています。近所の家やお店を訪問するのと違い、子どもたちにとっては一つの場所でまとめてお菓子がもらえ、また見知らぬ家に入らなくて済み、安全性が高いことが人気の理由だそうです。

 さて、研究面での近況を書きたいと思います。9月から大学、大学院の新学期が始まり、それに合わせて、生理学教室の大学院生やフェローによる論文抄読会や外部講師によるレクチャーが再開しました。私がこちらへ来て以来Zoomでの開催でしたが、この9月からは対面で行われています。対面の方が議論は活発になり、学ぶことが多いため、対面でのやり取りは良いなと実感する日々です。大学内でのマスク着用義務は夏頃に撤廃され、今では屋内でもマスクをしている人を見かけません。

  昨年から取り組んでいた研究内容をなんとかまとめることができ、論文を投稿しました。無事アクセプトされた際には研究内容を紹介できたらと思います。現在、私の所属しているラボの同僚はリビア出身の女性のポスドクだけで、一般的な留学先としては小規模かと思います。その分、ボス含めチームで研究に取り組んでいくという一体感があります。私と同僚は、別の研究テーマがあるのではなく、一つのプロジェクトを分担していて、彼女が主にin vitro、私がin vivoとex vivo 実験を担当することが多いです。実験では思い通りに進まないことも多いですが、そんな時には一つ一つの手技やプロトコールを見直すことが勉強になりますし、自分がネガティブデータだと思っていたことが、後々振り返ると実は正しかったということもあります。留学生活においてはうまくいかないことが多々ありますが、落ち込みすぎず、なんとかなるだろうという心の余裕を持っておくことが大切なのだろうと思います。これからもポジティブな姿勢で研究生活を続けていこうと思います。
 

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(左)昔の鉄道の支線を使ったトロッコ列車に乗って、紅葉を楽しみました。
9月から10月にかけて朝晩冷え込む日が多かったせいか、今年の紅葉は色が濃く、非常に綺麗でした。
(右)アメリカではあちこちに野球場があり、子供から大人まで楽しんでいます。
ア・リーグのホームラン記録を塗り替えたNYヤンキースのアーロン・ジャッジのユニフォームを着ている人を多く見かけます。
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石河先生のニューヨーク留学便り  2022.09.15 
 アメリカでは9月第1週の月曜日はLabor Dayの祝日で、その後に新学期が始まる学校が多く、大学のキャンパスにも学生が戻ってきて賑やかになりました。私はこの連休中、近くの山にハイキングをしたりして過ごしました。ニューヨークといえども、都市部から少し車を走らせると大自然が広がり、週末にはリフレッシュすることができます。今回はニューヨーク州の紹介をしたいと思います。

 ニューヨークといえばマンハッタンのイメージですが、「州」としてのニューヨークはとても広く、北には五大湖がありカナダに接していて、ナイアガラの滝もニューヨーク州にあります。ニューヨーク「市」は州の南東部に位置していて、都市部より北の地域はUpstate New Yorkと言われています。地図で見ると、州のほとんどの地域がUpstateということになってしまいます。ニューヨーク市から北へ車を走らせると、ハドソン川沿いに個性的な小さな街が点在しています。ハドソン川や周辺の雄大な風景に魅せられて、ニューヨーク市から移り住むアーティストも多く、ギャラリー巡りを楽しむことができます。個人的には、Dia Beaconというモダンアートの美術館があるBeacon(写真左上)という街がお気に入りです。ちなみにニューヨーク州の州都はさらに北に行ったところにあるアルバニーという人口10万人ほどの街です。

 ナイアガラの滝への道中、マンハッタンから車で4時間ほど走ったところに、文字通り指のように細長い湖が連なっているFinger Lakesと呼ばれる地域があり、延々と続くなだらかな起伏の山と澄んだ湖の風景が広がっています(写真右上)。この地域の中心となる街、Ithacaにはアイビーリーグの一つであるコーネル大学があります。アイビーリーグとは、ハーバード大学などアメリカ北東部に位置する名門私立大学8校の総称で、ニューヨーク州にはコロンビア大学とコーネル大学があります。これまでアイビーリーグの大学のキャンパスをいくつか訪れましたが、歴史を感じさせる趣のある校舎に、美術館や教会などもあり、キャンパス一帯が一つの街のような贅沢な作りになっています。世界最高峰の大学のキャンパス内を歩いているだけで、賢くなった気がしてしまいます。コーネル大学にも立派な美術館に加え、川や滝、渓谷まであり、その広さには驚きました。Ithacaは学生の活気に満ちた街で、周辺は自然に囲まれているので、誘惑が少なく、集中して勉学に励むには最適な場所かと思いました。

 さらに州内を北西へ進むと、五大湖の一つであるオンタリオ湖、そしてナイアガラの滝があり、カナダとの国境をなしています。友人から「ナイアガラの滝は世界三大瀑布の中でも規模が小さめで、南米イグアスの滝の方が桁違いに凄い」と聞いていたのですが、実際に滝を目の前にすると、流れ落ちる水量と轟音に恐怖さえ感じるほどの迫力でした。もはやイグアスの滝がどれほどの迫力なのか、想像もつきません。ナイアガラの滝では、写真(右下)にも小さく写っていますが、滝つぼまで船で行くことできるという面白い体験もできます。

 マンハッタンの東にはロングアイランドという、文字通り東西に細長い島があります。島を横断するには車で2時間半ほどかかる、大西洋に浮かぶ大きな島です。ロングアイランドは古くから別荘地としても知られており、大富豪の豪邸が立ち並んでいて、写真(左下)のように海を望むロケーションの邸宅が現在では一般公開されています。異次元の豪華さに驚きの連続でしたが、ここまで豪華にする必要があるのかと首を傾げてしまうことも多く、成功すれば莫大な富を得られるというアメリカ社会の一端を見ているような気がしました。そして、ロングアイランドはワインの生産でも有名です。州内でのワイン生産はFinger Lakesの周辺でも盛んに行われていて、ニューヨーク州はアメリカ全体の生産量の第3位ですが、1位のカリフォルニア州の生産量が全米シェア90%と圧倒的に多く、ニューヨークはたった3%ほどだそうです。ニューヨーク州のワインはカリフォルニアと気候が異なるために味が違うそうなのですが、私はワインに関して全く詳しくないので無理に解説することは控えております。

 このようにニューヨーク州には、コンクリートジャングルと言われるマンハッタンだけではなく、雄大な自然も楽しめるところです。あと1ヶ月も経たないうちに紅葉の季節がやってきて、その後、長い長い冬がやってきます。今のうちにアウトドアを存分に満喫しておこうと思います。
 

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(左上)ハドソン川沿いにあるBeaconの街並み
(右上)コーネル大学から見た、Finger lakes地方の風景
(右下)アメリカ側から見たナイアガラの滝
(左下)ロングアイランドの豪邸からみる風景
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石河先生のニューヨーク留学便り  2022.07.21 
 こんにちは。ニューヨークは気温が30度を超える日が続き、夏真っ盛りです。7月4日はアメリカ独立記念日でした。街はお祭りムード一色で、記念日を祝う花火が各地で打ち上げられました。ニューヨーク市でも大規模な花火大会が催された他、Nathansというファストフードチェーンが主催するホットドック早食い大会といういかにもアメリカらしいイベントが行われました。ちなみに女性部門では日本人とアメリカ人のハーフの方が10分間に40個のホットドックを食べて優勝したそうです。

 さて、今回はアメリカで子育てをして感じたことをお話ししたいと思います。  現在1歳11ヶ月の息子は、昨年9月から週1回ナーサリースクール(プリスクールのような所)に通っています。多くのスクールは2歳からですが、幸運にも自宅から徒歩圏内のスクールに1歳児クラスが開講されており、全く口コミがなかったため多少緊張しましたが、折角の機会なので入園を決めました。ニューヨーク州の義務教育は日本の幼稚園年長にあたる歳から始まります。それ以前のプリスクールのほとんどが私立で教会が運営している所が多く、息子のスクールもプロテスタント系の教会が母体となっています。

 1歳児クラスは保護者の参加が必須のため妻が付き添っていますが、クラスメイトのほとんどが親ではなくナニーが付き添っています。ナニーは、一時的に子供の世話をするベビーシッターとは違い、朝から夕方まで子供と過ごしながら世話やしつけをする方のことで、中には家に住み込んで食事や洗濯、買い物から子供の寝かしつけまで行うナニーもいます。家族同然といった感じでしょうか。地域差はありますが、ニューヨークの多くの世帯が夫婦共働きの一方、日本ほど産休育休制度が整っておらず、集団保育施設も多くはないため、個人的にナニーに子供を預ける家庭が多いようです。更に、子ども1人での外出や、12歳以下の子どもだけの留守番を禁止する条例があることもナニー・ベビーシッター文化が普及する一因のようです。

 カリキュラムは歌・お絵描き・絵本の読み聞かせ、校庭での運動等で、先生と保護者が一体となってクラスを盛り上げます。ナニーを含めた保護者同士の仲も深まり、子供だけでなく妻にも良い友人が出来たようで喜んでいます。こちらの英語教育を体験して面白いと感じたのが、動物の鳴き声の表現方法についてです。牛は「モーモー」でなく「ムームー」、ニワトリは「コケッコッコー」でなく、「クワックワデュルデュー」、羊は「メーメー」でなく「バーバー」、馬は「ヒヒーン」でなく「ネイネイ」、猫は「ニャーニャー」でなく「ミャオミャオ」と表現されます。同じ動物の鳴き声でもこれほどまでに感じ方が異なるというのは興味深いと感じました。中学から英語教育を受けた私にとって、乳幼児期の英語の絵本や童謡に触れることは新鮮な驚きの連続です。

 ところで、アメリカの誕生日パーティー事情をご存じでしょうか。アメリカでは、親が子供の誕生日会を主催し、友人達を多く招待して盛大に祝います。クラスメイト全員を招待した結果20人程の規模になることもあるようです。開催場所は家や公園に加えて、ショッピングセンターなどにある貸し切りパーティー会場のこともあるようです。息子も何度か友人の誕生会に招待してもらいました。公園の備え付けテーブルに、アメリカらしくピザやカップケーキが沢山並べられ子供たちは大喜びでした。その場でケーキとプチギフトを、そして後日ご丁寧にthank you カードまで頂き至れり尽くせりでした。普段は平日の子育てをナニーに頼んでいてもその日は仕事を休む親が多いようです。人によっては大型トランポリンやプールをレンタルしたり、大道芸人を呼んで盛り上げることもあるらしく、親の力の入れようには驚かされます。

 ニューヨークという土地柄もあって、子育てを通じて様々な人と出会いました。夫婦で出身国が異なるケースも多く、この国の家族は文化的多様性に富んでいます。また、養子を迎えた家族も珍しくありません。初対面の時に「わが子と私にBiologicalな関係はないの」と説明されますが、そのような事情を最初からオープンにするのが当たり前な環境は素晴らしいと思います。しかし、このように多様性に満ちた社会でありながら、依然として特定の人種に対する差別が無くならないのは日本でも報道されている通りです。幸運にも、この国で出会った人達はアメリカにルーツのない私達を温かく受け入れてくれました。異文化での生活においては大なり小なりトラブルが付き物ですが、困った時はいつも快く救いの手を差し伸べてくれました。人の温かさが身に染みた数々の経験を経て、これからの時代を生きるにあたり、単に語学力を磨くにとどまらず相互理解の重要性を我が子にも自分自身にも言い聞かせていきたいと思います。
 

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最近、自宅近くの動物園(ブロンクス動物園)によく行きます。自然が多く残された広大な土地に飼育されているため、動物を近くで見られない時が多いですが、動物にとっては檻の中よりもこのような環境の方が格段に良いでしょう。この写真には鹿が小さく写っています。
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石河先生のニューヨーク留学便り  2022.05.31 
 こんにちは。先週、大学では卒業式が行われ、アカデミックガウンを着た卒業生やその家族が喜びを分かち合い、キャンパスはすっかりお祝いムードでした。学期末ということで、先日生理学教室に所属する大学院生やポスドクによる研究発表会がありました。昨年はZoomでの開催でしたが、今年は対面形式での発表でした。まだ学会発表ができるほどのデータはまとまっていませんが、学内のシンポジウムなので進行中のプロジェクトの発表でも良く、なんとか形にして発表することができました。

 今回は所属しているラボや血管生理学で用いる実験の紹介をしたいと思います。
現在、私はDr. Michael GoligorskyとDr. Dong Sunの2人のボスのもとで研究しています。Dr. Goligorskyは長年にわたる研究生活におかれて、動脈硬化や糖尿病などにおける血管内皮細胞障害のメカニズム、血管内皮細胞におけるストレス誘発性早期老化(Stress-induced premature senescence)、慢性腎不全における内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell)の機能不全などを幅広く数多くの研究に取り組まれ、近年は血管内皮グリコカリックスの研究をされています。週1回のラボミーティングでDr. Goligorskyに進捗状況を報告して指導をいただいていますが、実験の手技的な面についてはDr. Sunから直接指導を受けています。Dr. Sunは中国出身のM.D., Ph.D.で、主に血管内皮細胞における一酸化窒素(NO)のシグナル伝達、またシグナル機能不全における血管内皮細胞の代償メカニズムなどをテーマにされていて、マウスやラットを用いた生理学的な機能解析実験を得意とするラボです。

 少し前にDr. Sunのラボで作成された、マウスの腸管膜動脈を用いた実験を紹介した動画があるので、宜しければご覧ください。(https://www.youtube.com/watch?v=NsB4a6w5B6w)血管は腸管膜を剥離することで比較的容易に単離することができ、1個体から10サンプル以上を得ることが出来ます。バッファーの中で血管の両端を極細ガラスピペットに括り付けることで、ex vivoの実験環境を作り出すことができます。この動画では紹介されていませんが、ガラスピペットの外側にチューブを繋ぎ、チューブ内の水面の高低差により血管内に流れを作り、NO産生に必要なずり応力(Shear stress)を考慮した実験系を作成することもできます。単離した動脈で実験を行う最大のメリットは、神経やホルモンの影響を排除して「シンプル」に血管内皮の生理学的観察ができることです。この血管を免疫染色やウェスタンブロットに用いることもでき、免疫染色は現在取り組んでいる実験の一つです。100µmレベルを扱い、正確な技術と器具のデザインが必要となる実験ですので、この系を行うことができるラボは世界的に見ても決して多くありません。今後、現在の研究をもう少し深めるために、動画にあるような血管拡張能を測定する予定です。

 また、精巣挙筋を用いた微小循環の観察は血管生理学で広く用いられている手技の一つです。精巣挙筋を切り開き、精巣や精巣上体を取り除いて展開することで、平面上に広がる血管の走行を観察することができます。精巣挙筋を温度管理したバッファーに浸すことで、数時間に渡って安定した循環を維持することができ、蛍光顕微鏡を使った経時的変化の観察など、様々な目的に対して用いることができます。こちらは2ヶ月ほど前から取り組んでいる手技で、ようやく再現性がしっかり得られるまでになりました。

 このように、現在取り組んでいる血管生理学の実験の醍醐味としては、薬物投与など介入した結果、目に見える形でダイナミックな変化が得られることです。バッファーの温度、血管にかかる圧など多くの因子を正確に調整するため、再現性が乏しい時や想定外の結果が得られた時にはその度に原因の検証をする必要があり、また手技獲得にも一定の時間を要するので、思うように研究が進まないことも多々あります。例えば、精巣挙筋を展開する時、テンションをかけすぎると血流が低下してしまいますが、テンションをかけないと顕微鏡のフォーカスが合わず、その塩梅が非常に重要であったりします。その一方、全ての過程で満足いく手技を実行でき、有用な結果が得られた時には達成感があり、さらにモチベーションが高くなります。学生時代、どちらかというと生理学より生化学の方が好きだった私ですが、新たな分野に身を置くと、その分野で先人が築き上げてきた英知に触れ、面白さに気付くものだと改めて実感しています。これからもチャレンジ精神を忘れずに頑張っていきたいと思います。

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(左)ニューヨーク州の隣、ニュージャージー州にあるプリンストン大学。まるで中世のお城を思わせる校舎や美しく手入れされた植物園などキャンパスとは思えない素敵な大学でした。

右)アインシュタインはアメリカ移住後、プリンストン大学に在籍していました。キャンパスの近くに晩年を過ごした自宅が現在も保存されています。


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石河先生のニューヨーク留学便り  2022.04.19 
 ニューヨークではようやく長い冬が終わり、1週間ほど前に桜の見頃を迎え、今は少しずつ葉桜になってきています。渡米前、しばらく桜を見られないのかと思っていたのですが、私の住んでいる地域では公園や庭など色々な場所に植えられていて、桜はアメリカ人にも親しまれているようです。

 渡米から1年が経ちました。アメリカでは日本以上にスマートフォン一つでできることが多いように感じます。今回はこの「デジタル化」に関するエピソードをいくつか紹介したいと思います。
 Amazonはアメリカ人の生活に欠かせない存在となっていて、Amazon専用の配送トラックをあらゆる所で目にします。私も渡米間もない頃には、「何でも」揃っているAmazonを重宝しました。日本でAmazon Primeは月額500円ですが、アメリカではつい先日2ドル値上がりして14.99ドルと高めです。日本と比べていい加減なことが多く、時々郵便物までも紛失してしまうアメリカですが、驚くべきことにAmazonの荷物は非常に正確に、そして早く届きます。ただし、日本のようにインターホンを鳴らして受け渡すということはなく、一軒家の場合は玄関先にポンと置かれて(投げられて)、その写真を添えて配達完了メールが送られてきます。受け渡しの時間を節約し、また不在時には再配達をする必要がないので企業側にとって非常に効率的だと思いますが、玄関先に荷物が置かれているため時々紛失(盗難)があるようです。また、雨の日に荷物が濡れないように軒下に置いてくれるとは限らず、ダンボールの中までビショビショになっていることもあります。「ちゃんと荷物を置いておいたから、あとは依頼主の責任で!」という具合で、日本にはない感覚です。他にも、渡米後すぐにベッドのマットレスが届いた際、重すぎて一人で2階まで運べそうになかったので配達員に手伝ってもらえないかと尋ねると、「1階の玄関に運ぶまでが私の仕事だ。それ以上はできない」の一点張りで、手伝ってもらえませんでした。こちらもいかにもアメリカらしいエピソードだと感じました。

 渡米前に、「アメリカはクレジットカード社会だから、現金を使うことはほとんどない」と聞いていたのですが、まさにその通りでした。私はいまだにコインを出されても、即座に何セント硬貨か言い当てる自信はありません。アメリカで現金がほとんど使われなくなった理由として、偽札対策や強盗被害のリスク軽減などがあるそうです。また、カフェやハンバーガーチェーン、レストランでは事前にオンラインでオーダーして店に取りに行くシステムが日本よりも普及しています。事前にオーダーすることで、店側としては人件費削減や注文取り間違いの防止になりますし、客側としても自分のペースで注文できて、待ち時間を減らせるので良いかもしれません。一方で、このようなオンライン決済やデジタル化の行き過ぎに歯止めをかける動きもあります。ニューヨーク市では2年ほど前に、レストランや小売店が現金での支払いを拒否してクレジットカード払いに限ることを禁止する法案が可決されました。これは銀行口座やクレジットカードを持たない方たちの不利益にならないようにすることを目的としています。多様性あふれるアメリカでこのようなことが議題になることは非常に重要だと感じます。

 話を変えて、研究面でこの1年を振り返ってみたいと思います。今思えばつい先日のことのように感じますが、最初の3ヶ月間は実験の準備に時間を費やしました。大学設備の使用や動物実験を行うための手続きや講習の受講を行い、また研究テーマである血管内皮グリコカリックスについて総説や実験に関連する論文を読みながら、研究計画を考えていました。その後、6月末あたりから本格的に実験を開始して、Sidestream dark field imagingや生体顕微鏡、レーザードップラー流速計など研究に必要な機材を実際に使用して、マウスを用いて練習を重ねました。以前にこの体験記にも書きましたが、半年を経てようやくスタート地点に立ったという印象でした。もちろん、そこからすんなりと結果が出るわけはありません。グリコカリックスというとても脆くダメージを受けやすい血管内皮細胞の構造物の取り扱いに非常に苦戦しました。ネガティブデータが続き、なかなか先が見えない日々が続いている間に年が明けて、ようやく少しずつ論文につながるかもしれないデータが出始めて、今に至ります。この一年、ボスに言われたままに手を動かして少しずつ研究を前に進めてきた感じで、もう少し自分の考えをもとに計画を立てて実験を行うことができたらよかったということが反省点です。これからの一年はこの反省をバネに貪欲に頑張っていこうと思います。次回はもう少し詳しくラボでのエピソードについて書きたいと思います。今回はこのあたりで失礼します。

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アブルックリン植物園にある日本庭園です。
桜が見事に花を咲かせていて、ニューヨークにいながらも日本を感じられる絶好の機会でした。


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石河先生のニューヨーク留学便り  2022.02.28 
 渡米してそろそろ1年が経とうとしています。ニューヨークの四季を体感しましたが、冬の冷え込みは予想以上でした。最高気温が氷点下の日が続き、時折襲ってくる寒波ではマイナス15度くらいまで冷え込み、暴風雪で外出が困難な時もありました。気持ちよく散歩できる日が少ないですが、2月中旬から最高気温が10度を上回る日があり、ようやく長い冬の終わりが見えてきたように感じます。

 私には現在1歳半になる息子がいます。生後8ヶ月の時にこちらに来てから健診や予防接種を受けているのですが、日本と異なる点や驚いたことがいくつかあったので、ご紹介したいと思います。
 日本の1歳児健診では血液検査を行いませんが、こちらでは血中鉛濃度を測定するために必須となっています。築100年近くにもなる住宅が多いこともあり、古い家の壁のペンキが剥がれて落ちたカケラを口に入れたり、古い水道管を通った水を飲むことで乳幼児が鉛中毒になることがあるようです。今から40年ほど前に鉛を含む塗料の使用はすでに禁止されていますが、水道管を含めて改善されていない場所が多くあることから、未だに社会問題の一つとなっています。賃貸住宅の契約時には入居者に対して、この物件は鉛に関して問題ないという証明を提示することが義務付けられています。私の住まいは大丈夫なようで、息子の検査結果も問題ありませんでした。アメリカでの小児医療では、鉛中毒を鑑別診断に挙げることが少なくないのかもしれません。

 予防接種についてもいくつか日本とアメリカで異なる点があります。日本でのみ定期接種となっているのはBCGと日本脳炎です。反対に、アメリカで定期接種になっているのはA型肝炎、髄膜炎菌、インフルエンザ、ムンプス(MMRワクチンとして接種)です。A型肝炎は1歳と1歳半での2回接種、髄膜炎菌は11歳以降に接種します。A型肝炎は日本ではあまり馴染みがないですが、アメリカでは時々冷凍食品などが原因となってアウトブレイクが起きているようです。ちなみに、成人がかかりつけ医でインフルエンザの予防接種を受ける場合、保険適応となることが多いので助かります。アメリカではインフルエンザの予防接種を薬局で受けることができます。州によって異なりますがアメリカの薬剤師は予防接種をすることができるので、薬局での接種が可能になっているようです。当たり前ですが、国が違えば衛生環境も医療制度も色々と異なるものだなと身に染みて感じました。

 渡米して間もない頃に、自宅近くの小児科でかかりつけ登録をしました。その際、ナースからの問診で、「家に銃は置いてあるか?」と聞かれたと妻が言っていました。家に銃がある場合には、鍵をかけて保管しておくようにと指導があるのだと思いますが、アメリカらしさを感じました。ただ、子どもが誤って発砲して死傷者が出る痛ましい事件が時々起きています。市民が犠牲となる銃乱射事件も相次いでおりバイデン政権は銃規制の強化を進めていますが、自らを守るために銃を持つ権利を主張する声も根強くあり、解決の糸口がまだまだ見えない問題です。

 最後に少し余談ですが、健診の時に息子の心音を聴診した後に、ドクターが ”Beautiful“ と言ったと妻から聞きました。私の感覚では、「Beautiful = 美しい」と一対一対応していて、我が息子の心音はそれほど美しいのかと感心してしまいそうになりましたが、よく調べてみると、物事が整っていたり揃っている場面でも、”Beautiful” が使われるようです。まだまだ知らないニュアンスがあるのだなと痛感しました。私が日本で乳児健診を行う時にはさすがに ”Beautiful” を使わないと思いますが。

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アメリカ政府が無料で配布しているCOVID-19抗原検査キットが郵便で届きました。
1ヶ月ほど前にオンラインで申し込みました。市場価格で1箱15ドルくらいするキットが2箱(検査4回分)届きます。


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石河先生のニューヨーク留学便り  2022.01.14 
 明けましておめでとうございます。クリスマス休暇が終わり、1月3日からラボに戻り実験を再開して、日常が戻ってきました。大学ではクリスマスが近づくにつれて皆それぞれのタイミングで休暇に入り、徐々にキャンパスから人気がなくなっていきました。クリスマス当日はほとんどの店が休みとなり、人や車通りが少なく、まるで日本の元日のような雰囲気でした。クリスマス後には私も休暇をもらうことができ、ロサンゼルスに留学している研修医時代の友人と共に、ニューヨークを観光してリフレッシュすることができました。

 12月は例年と比べて暖かかったようですが(私にとっては寒いとしか感じませんでしたが)、1月に入りようやく本格的な冬が到来し、最高気温が氷点下の日には外に短時間いるだけで体の芯まで冷えてしまいます。そして、時折雪が積もるようになりました。夜間の積雪予報があると、夕方から道に融雪剤が撒かれ、積雪後は除雪車が通り、ほとんどの道は朝にはすっかり車が通れるまでに整備されていました。効率の悪さを時々感じるアメリカにおいて、この手際の良さには正直驚きました。車のタイヤをスタッドレスに履き替える人はほとんどいないようで、雪道にも対応しているオールシーズンタイヤがこの地域の標準装備になっており、私の中古車も購入時からこのタイヤが装着されていました。除雪されるとはいえ雪道走行は危険を伴いますし、先週の積雪の際には大学が休校になりリモートでの仕事が推奨されました。このため明らかな大雪予報が出ている時には実験計画を調整する必要があります。また雪かきに関することですが、一戸建てに住んでいる場合、ニューヨークでは雪が止んだ後24時間以内に自宅前の歩道を除雪しないと、罰金が課せられます。警察が雪かきの有無を見回りしていることはないようですが、通行人からの通報がしばしばあるようですし、雪かきを怠った家の前で通行人が足を滑らせ転倒したりすると、その家主の責任となってしまいます。私は先日アパートメントに引っ越したので、幸い雪かきをしなくてすみました。

 大学での話題を少し書きたいと思います。少し前ですが、生理学教室での抄読会が無事終わりました。発表する論文に関して特に決まりはないのですが、臨床系の論文で発表している人はおらず、必然的に自分の研究テーマ周辺の基礎系の論文となります。Figureの一つ一つを自分の言葉で説明できるまで理解し、引用文献に目を通し、スライド作成をすると、それだけで丸々1週間ほど経っていました。英語での発表自体は何度も練習すれば何とかなりますが、質疑応答に苦戦し、正しく英語が聞き取れずに見当違いの応答をしてしまい、苦笑いを誘うこともありました。生理学教室の教授陣の前で質疑応答含めて1時間程度発表したことは非常に良い経験となりました。

 また、現在取り組んでいた実験の一つにマウスの腸管膜動脈を用いた免疫染色がありますが、治療群において条件設定に難渋したため、ボスと相談の結果、Ex vivoでの実験に変更することとなりました。ここ3ヶ月ほど中心となっていた実験なので、良い結果を出せず悔しい気持ちがありますが、この過程で色々な手技を獲得することができたので、ポジティブな気持ちで次に進んでいきたいと思います。

 話題が色々と飛んでしまいますが、最後にCovid-19について書きたいと思います。日本でもニュースで話題になっているかと思いますが、アメリカではオミクロン株が猛威を奮っており、年明け1月4日には1日の感染者数が108万人と桁違いの感染者数でした。これは年末年始にかけての陽性者数のデータが一挙に報告されたという側面もありますが、人口800万人のニューヨーク市だけでも1日4万人ほど報告されています。アメリカではCVSなどの薬局チェーン店でも検査を受けることができ、少し前までは簡単に受けることができましたが、現在どこも予約困難です。ニューヨーク市では歩道や公園などあらゆる場所に臨時の検査所が多数設置され、迅速抗原検査に加えて場所によってはPCR検査を無料で受けることができ、どこも長い列ができています。よくここまでの検査体制を整えることができるなと本当に感心してしまいました。まだまだ先がはっきり見通せない状況が続きますが、皆さまくれぐれも気をつけてお過ごしください。

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(左)すっかり雪景色となった自宅近くの駅前広場です。パウダースノーなので、雪だるま作りには向いていません。
(右)ニューヨーク植物園でTrain Showが開催されています。温室の中にニューヨークの街並みが再現され、植物の間を縫って鉄道が走ります。写真にあるように建物は全て木など植物から作られていることに驚きました。寒いため外で遊ぶことが出来ない時期に子供たちにとって最高のイベントですが、大人もしっかり楽しめました。


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石河先生のニューヨーク留学便り  2021.12.10 
 12月に入り、朝方は氷点下まで冷え込むことが多く、時折雪が散らつきます。ニューヨークの本格的な冬はこんなものではないと周りの人たちに言われ、少々恐れています。しかし街はすっかりクリスマスムードで、暖かい雰囲気に包まれています。

 今回はアメリカでの引越しについて、書きたいと思います。もう引っ越したのかと驚かれる方がいるかと思いますが、渡米直後の慌ただしく限られた時間の中で探した前の家は少々不便なことが多く、より便利な住環境を求めて引っ越すことにしました。また、アメリカで引越しするという面白さや留学中に複数の街に住むのも良いかという考えもありました。

 アメリカでは日本のように引越し業者に頼むことは少なく、自分達で荷物の搬送を行うことが多いです。アメリカでは多くの場合、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジやオーブンといった大型家電は住宅に備え付けてあるので、運ぶ必要がなく助かります。アメリカ人に倣いトラックを借り、近所の日本人の方に手伝ってもらい、自分達で全ての荷物を運搬することとしました。19.95ドルからトラックレンタル!という宣伝文句のU-HAULを選びました。U-HAULはこの業界をほぼ独占しているようで、車を運転していると頻繁にこのレンタルトラック見かけます。ただし19.95ドルでトラックを借りられるわけではなく、適切な大きさのトラックを選び、車両保険を追加して、レンタルする時間、予想される走行距離(1マイルにつき1.99 ドル加算)を入力すると、見積もり価格はどんどん上がっていきます。家具を包むための布、荷台といった引越しに必要なものをレンタルし、最終的に100ドルほどになりましたが、業者に頼むことに比べると断然安いです。

 レンタルにあたって事前にネットで免許証の情報などをアップロードしておきます。当日U-HAULに着くとトラックの鍵を渡されて、「君のトラックはこの並んでいるトラックの中のどこかにあるから自分で探して!それじゃ、気をつけて!」と言われただけで、トラックの使い方の説明や注意事項など全くなく拍子抜けでした。トラック運転に関して全くの初心者なので周りをしっかりと確認しながらノロノロ運転をしていると、気がつけば後ろに車の列ができていましたが、お構いなく自分の安全を第一にノロノロ運転を継続しました。アメリカの道は広く、郊外では歩行者や自転車をほとんど見かけないので走りやすいですが、トラックにはルームミラーはなくその他にも死角が多いので、難しさを感じました。つまり、U-HAULのトラックは運転に慣れていないドライバーが多いので、車の運転中に見かけるとなるべくこのトラックには近寄らないようにすることが賢明かもしれません。

 今回借りたトラックは1から2ベッドルームの引越し用で、荷物が少なめの私たちには大き過ぎたかなと思いましたが、いざ荷物を詰め込んでいくとギリギリでした。当たり前ですが荷台での荷物の配置は非常に重要で、いかにかさばらず搬送中に崩れないようにする工夫が必要で、自分達で引越しをする場合、案外ここが難しかったです。大は小を兼ねると言われるように、これで良いかなと思った一つ大きめのトラックを借りることが良いかと思います。翌日の筋肉痛は辛かったですが、事故なく引越しを終えることができ、非常に良い経験ができました。

 話は変わりますが、アメリカ国内でのCOVID-19の感染者数は日本と桁違いで、最近さらに増えて1日10万人以上です。ただし街の雰囲気は変わりなく、皆いたって普通に生活している様子です。ニューヨーク市では市の職員に対するワクチン接種義務化に続き、民間企業従業員に対しても義務付けることとなりました。また5歳から11歳の児童についても、飲食店などの屋内施設の利用や感染リスクの高い課外活動に参加する際に接種を義務付けることが決まりました。かなり思い切った決断だと感じましたが、人口密度が非常に高く、ニューヨークへは世界中から人が集まってきますし、過去最悪であった昨年春の状況を経験しているゆえだと思います。アメリカでは11月中旬からワクチン3回目接種の対象が18歳以上の全員に拡大されたので、私もつい先日に接種してきました。新たな変異株について詳しいことが分かっていない状況ですし、これからも気をつけて過ごしていきたいと思います。

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レンタルしたトラックです。U-HAULの宣伝をしているわけではありません。


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石河先生のニューヨーク留学便り  2021.10.27 
 こんにちは。秋らしい天気が続く中、ニューヨーク州ではそろそろ紅葉の見頃を迎えようとしています。最近では最低気温が10度を下回る日があり冬の訪れを感じさせることもありましたが、今年は10月初旬まで比較的暖かかった影響で、紅葉の見頃は例年より2週間程度遅いようです。

 4月から働き始めて、あっという間に半年が過ぎました。今回はこちらでの研究生活についてお話しします。
この半年を振り返ってみると、何か大きな実験結果が得られたということはなく、手技の獲得に多くの時間を費やしてきました。まずはマウスを用いた実験です。私はこちらの研究室に来るまでは動物実験をしたことがなかったので、文字通りゼロからのスタートでした。麻酔や薬物投与、内頸静脈カテーテル留置、灌流固定といった手技を学び、最近では免疫染色目的に腸管膜動脈を単離したり、腎臓の毛細血管をin vivoで可視化したりしています。まだ多くの実験においてコントロールをどのように設定するかという段階なので、これからも試行錯誤が続きそうです。また生理学教室ということもあり、血管動態を捉えるためにレーザードップラー血流計やSide stream dark flow imageという方法を用いています。名前さえも聞いたことがない機器を前にして右往左往していた最初の頃と比べると扱いに慣れてきて、ようやくスタートラインに立ったという実感ですので、これから少しずつでもポジティブなデータを出せるように頑張っていきたいと思います。

 1週間の始まりは月曜日午前中にあるラボミーティングです。パワーポイントを事前に作って発表するというものではなく、口頭で進捗を報告してディスカッションを行い、1週間の実験計画を修正します。最近はProf. Goligorskyの共同研究者であるProf. Dong Sunのもとで研究を進めています。私の同僚であるインド人のResearch Assistantは他の複数の研究室に所属しているため一緒に働く時間は少なく、またリビア人のポスドクの方は産休に入られたので、現在はProf. Sunの研究室に実質部下は私一人という状態で、マンツーマンの指導を受けながら実験を行なっています。そのような環境なので実験は一人で黙々と行うことが多く、昼食時に他の生理学教室の研究者たち(イタリアからの留学生が多い)と話をすることは息抜きになります。多国籍な環境がゆえに様々なアクセントの英語が飛び交います。

 生理学といっても非常に幅が広いので一概に言えないかもしれませんが、実験に必要な器具に関してカスタムメイドなものが多いように感じます。前述の通り、マウスの腎臓を背部からのアプローチで露出させ、Intravital microscopy(生体顕微鏡)を用いてin vivoで観察する実験を行なっているのですが、顕微鏡観察のために腎臓を固定(不動化)する必要があります。その際、腎臓がすっぽりと入り動静脈や尿管が通る部分には切れ込みがある、一般的にKidney cupと言われる小さなカップを使用しますが、丁度いいサイズのものは現在市販されていないため自分で作成しかありません。そこで3Dプリンターを使いました。3Dデザインなど出来るのかと初めは疑問でしたが、最近では簡単に操作できる3D設計図作成ソフトが数多くあり、ソフトの使い方をYou Tubeで学んで設計図を作成し、オンラインで注文すると1週間ほどで届きました。今回使った初心者用フリーソフトのTinkercadは直感的にサクサク使うことができ、小学校高学年であれば想像力を働かせながら遊び感覚で立体を作成できるので、良い教育教材になるのではと感じました。

 現在、来週にある生理学教室の抄読会の準備に追われています。質疑応答を含めて1時間弱ほどなので、しっかりと準備をして臨みたいと思います。

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ハロウィーンの季節です。
スーパーマーケットには日本では見かけることがない様々な種類のカボチャが並んでいます。
試していないので、味は分かりません。


 

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ニューヨーク州北部には多くの自然が残っており、紅葉を楽しめます。
写真はハドソンリバーにかかる世界一長い歩行者専用の橋(約2km)です。
かつて鉄道用として建設されたのですが、廃線後に歩行者専用と橋として生まれ変わりました。
今から130年ほど前に建設されたということに驚きました。


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石河先生のニューヨーク留学便り  2021.09.17 
 こんにちは。9月に入り、朝夕の寒暖差が激しい日々が続いています。日本は台風シーズンですが、この時期米国東海岸にはハリケーンが到来します。メキシコ湾周辺で発生するハリケーンは北勢するにつれて徐々に勢力を弱めることが多いのですが、2週間ほど前のハリケーンはニューヨーク州近辺に甚大な大雨被害をもたらしました。幸い私の家や周辺地域に大きな被害はありませんでしたが、ハリケーンの威力を痛感させられた出来事でした。

 さて渡米から半年が経ち、先日ようやく自動車免許を取得しました。今回は米国の車事情についてお話します。
 米国では州政府が独自に法律を定めているため、交通ルールや運転免許の取得方法も州によって異なります。私はこれまで日本で取得した国際免許証を使って運転していましたが、ニューヨーク州では住居を構えてから30日以内に州の免許に切り替えなければいけません。しかし、COVID-19の影響による試験枠の縮小で、州の免許を取得するまでに半年ほどかかってしまいました。

 免許取得までのステップは日本のそれと大きく異なり驚きの連続でした。まず初めに筆記試験を受けました。通常であれば最寄りのDMV(Department of Motor Vehicles)に行って試験を受けるのですが、パンデミック以降はネットでの受講になっています。時間は無制限で、知らないことがあれば調べること(カンニング)が可能でした。合格後にDMVに行き、簡単な視力検査にパスすると運転練習許可証(Learner Permit)が発行されました。これは、21歳以上の運転免許所持者が同乗した場合にのみ路上練習が出来るというものです。つまり日本のようなドライビングスクールの教官ではなく、家族や知人と一緒に路上練習をすることになります。ただ私は国際免許証のルールに従って、車の購入日から一人で運転が可能でした。

 Learner Permitを取得後にドライビングスクールで5時間の学科講習を受けました。これもオンライン受講なのですが、5時間という長さはなかなか苦痛でした。この後にいよいよ路上試験です。日本と違い試験場には車が用意されていないため、自分で車を手配しなければならず、試験場までの運転にも免許保持者の同行が必要でした。そこで私はドライビングスクールの人にお願いしました(有料)。路上試験の内容は、発進、右左折、縦列駐車、3ポイントターン(1回でUターンできない道幅で、途中で一度バックをして方向転換する)などで、10分ほどで終わりました。2ヶ月前までは試験終了後に試験官からすぐに結果を伝えられたそうですが、試験者と試験官との間で結果を巡って口論になることがあったため、試験日の夕方にネットで結果が開示される方式に変わりました。路上試験で発進の際に目視をしましたが、目視を怠ったとして減点されていました。しっかり目視している事を大袈裟にアピールすべきだったのでしょうが、このような減点が口論の火種になるのだろうと感じました。何はともあれ、無事に免許を取得できました。

  路上試験を受ける前に車関連の英語表現を調べたのですが、知らなかったものが多く非常に勉強になりました。Pull out=車を発進させる、Pull over=脇に寄せる、Pull up behind that car=あの車の後ろにつける、などの熟語に使われるPullは馬車の時代の名残だそうでかなりのトリビアでした。また、アクセル=Gas pedal、ハンドル=Steering wheel、フロントガラス=Windshield、バックミラー=Rearview mirror、ボンネット=Hoodであり、日本で使用される単語は和製英語であることを知りました。まだまだ知らないことばかりです。

 アメリカは道幅が広く自転車や歩行者が少ない点で日本よりも運転しやすいです。クレイジーな運転をするドライバーを時折見かけますので注意が必要ですが、多くのドライバーはマナーよく譲り合いながら運転しているように感じます。ただ皆スピードを出します。日本の警察車両は緊急時以外には必ず制限速度を守りますが、こちらではゆうに制限速度オーバーで走っているので思わず苦笑いしてしまいました。左ハンドルでの運転に慣れてきましたが、これからも気を緩めずに安全運転を心がけていきたいと思います。

 

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Labor Dayの3連休を使って、車でワシントンD.C.に出かけました。写真は国立航空宇宙博物館(別館)です。子供の頃、宇宙飛行士を夢見た私にとって、実際に使用されたスペースシャトルには感動しました。


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石河先生のニューヨーク留学便り  2021.08.03 
 こんにちは。7月に入り30度越えの蒸し暑い日々が続きましたが、最近は比較的過ごしやすい天気が続いています。アメリカでは3月から11月までサマータイムが導入され、時計を1時間進めます。この時期は20時半くらいまで明るく、金曜日の夕方に近くの公園で開かれる無料のジャズライブに行くことが最近の楽しみの一つです。元々アウトドア派ですが、日本にいる時よりも屋外で過ごす時間が増えました。からりと晴れた空に、青々と茂る芝生が広がり、ニューヨーク郊外の夏の景色を気に入っています。今が一番いい季節だと地元の人々が言いますので、経験したことのないニューヨークの寒い冬が楽しみである反面、少しばかり恐れています。

 今回はアメリカに住んで感じた住宅事情についてお話します。現在の家は戸建てですが、1階に家主家族、2階に私の家族が住んでおり、アメリカでしばしば見かけるタイプの住宅です。共通の扉を入り中で1階の玄関と2階の玄関に分かれているので、頻繁に家主と出会い、また家主家族の話し声が聞こえるので(反対に私たちの声も聞こえているそうです)、一般的な戸建て住宅と比較してプライバシーがないかもしれません。それでも、家のメンテナンスなどで困った時にはすぐに尋ねることができますし、英会話の機会も増えるので、良い環境だと思っています。この家は、築81年(1940年築!)という日本ではなかなか考えられない古い建物ですが、アメリカでは築年数が長いほどそれだけ頑丈だという信用に繋がるそうです。

 また、多くの家が芝生や木々に囲まれているため、庭で生き物を多く発見します。これまでに自宅の庭でリスや野ウサギを見かけました。その反面、家の中に虫が多く出ます。築年数を考えるとどこかの隙間から入ってきているのだと思いますが、5月頃にはアリに悩まされました。息子が何らかの虫に刺されることが続き犯人探しをするとアリが疑わしく、ホームセンターに行くと数多くのアリ駆除の用品が売られていて、この近辺の人たちも悩まされていることが分かりました。虫関連でいうと、この地域では野生のマダニによって媒介されるライム病に気を付けなければなりません。日本ではほとんどの症例が北海道で報告されていて、ライム病を引き起こすマダニは近畿地方では標高1500mを超える山間部にしか生息していないので、実際に診療する機会はほとんどないと思われますが、こちらのサマーキャンプでは子どもの皮膚のマダニチェックがあったりするそうです。

 上述の通り、ニューヨークの夏は比較的過ごしやすいですが、エアコンは必須です。しかし、私の家には備え付けのエアコンがなく、壁に取り付ける場所もありませんでした。この場合、エアコンを窓に取り付けます。このタイプは他の家やアパートでも多く見かけます。窓は上下に開くタイプが主流で、窓の下枠と窓の間にエアコンを挟み込むだけのシンプルなもので、エアコンの半分は外に出ています。日本のエアコンのような高性能なものではなく、ゴーゴーと豪快な音をたてながら部屋を涼しくしてくれています。この他にも、テレビの接続や排水溝トラブルなど色々と困ったことがありましたが、問題が発生する度に家主や知人の助言などを参考にしながらに一つ一つ解決していくことがちょっとした楽しみでもあります。

 一方で、アメリカの住宅で良かった点を挙げるとするとオーブンです。大きなオーブンが標準設備になっている家が多く、Thanksgiving Dayでの七面鳥料理のようにオーブンを使った料理が多いです。我が家では日本でオーブントースターを時々使用する程度でしたが、オーブン料理の手軽さと出来上がりの美味しさに惹かれ、肉や魚料理の他にピザなど様々な料理に挑戦しています。メリットデメリット双方あるアメリカの住宅ですが、何事もポジティブに捉えて楽しもうと思います。

 

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金曜日夕方に開催されるライブの様子です。


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石河先生のニューヨーク留学便り  2021.06.28 
 6月に入り蒸し暑い日が増え、一気に夏らしくなりました。5月の最終月曜日はMemorial Dayの祝日でした。ちょうど暖かくなり学校が夏休みに入る時期であるので、アメリカ人にとって夏を告げる日のようです。Memorial Dayとは戦没将兵追悼記念日で、兵役で犠牲になった軍人を追悼する日です。公園や公共施設周辺にその地区出身であった戦没者の名前が記された碑が並び、アメリカ国旗が掲揚されます。アメリカの1年間の祝日は意外にも少なく、日本の祝日が16日あるのに対して、連邦政府が定めている祝日は10日(+ 4年に1度の大統領就任式の日)です。

 つい先日、Juneteenthと呼ばれる奴隷解放記念日(6月19日)が連邦政府の祝日として新しく制定されました。アメリカで新たな祝日が制定されるのは、キング牧師の誕生日が祝日となった1983年以来だそうです。アメリカの奴隷解放と言えば、リンカーンによる1863年の奴隷解放宣言が有名ですが、この時はまだ南北戦争真っ直中であり、実際に全米で奴隷解放を達成できたのは、連合軍がテキサス州で黒人に奴隷解放を宣言した1865年6月19日です。それ以降この日がJuneteenthと呼ばれる記念日になりました。ただ、連邦政府の祝日となっても最終的には各州で祝日にするか否かを判断するそうです。留学先であるNew York Medical Collegeはユダヤ系の大学であるので、ニューヨーク州の祝日以外にユダヤ教の祝日もあり、その祝日がどのような日であるか調べるうちに、ユダヤ教に関する知識が深まりました。

 5月末に生理学教室の研究発表会がありました。大学の生理学部門は血管生理学、神経生理学、放射線生理学など8つほどの教室に分かれています。発表会では、修士・博士課程の大学院生やポスドク、研究員が10分程度の発表を行った後、意見交換を行いますが、昨今の状況からZoomでの開催となりました。私はまだ発表するデータがないので、これから行うイメージングの概要を発表することとなり、血管内皮やグリコカリックスについて理解を深める良い機会となりました。オンライン開催とはいえ、ずらりと教授陣が並ぶ中で緊張しましたが、なんとか質疑応答まで終えることができました。私は神経生理学や放射線生理学に関してほとんどバックグラウンドがないため、臨床絡みではない基礎研究の英語での発表を理解することは難しくもありましたが、大変有意義な発表会でした。発表が終わり一段落したので、Laser Doppler Flowmetryなどを実際に使い始め、免疫染色を行なったりしています。上手くいかないことが多いので、試行錯誤を繰り返している内に時間だけが過ぎていってしまいますが、少しずつでも前に進めるよう頑張っていきます。

 先日、18歳以上のニューヨーク州民の70%が新型コロナウイルスのワクチンを少なくとも1回接種したことを踏まえ、州知事が様々な規制を解除すると発表しました。これによりイベントの収容人数、飲食店やジムなどにおける規制は任意となりました。スーパーマーケットや電車、大学施設では未だにマスク着用が必須ですが、屋外では7割程度の人がマスクなしで歩いていて、街も活気付いてきた印象です。制限解除となった日に、マンハッタンでは花火が上がり野外コンサートが開かれ、新型コロナウイルスを克服したことを祝うお祭りムードが満載だったそうで、これもアメリカらしい一面かと思いました。変異株が広がっている地域もあり、中長期的にはどのようになるか心配ではあります。とはいえ、貴重な海外経験ですので、研究に精を出し、また家族との時間も大切にしたいと思います。

 

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普段使っている研究室。奥にあるクリオスタットは神戸大学小児科研究室にあるものと
同じタイプなのですぐに慣れ、最近は頻繁に使用しています。


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ブルックリン地区の様子。
パンデミック以前の様子は分かりませんが、賑わっていました。



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石河先生のニューヨーク留学便り  2021.05.18 
 渡米して2ヶ月が経ちました。最高気温が20度を超える日が続き、過ごしやすい季節になってきました。平日の1日の流れ、また1週間の流れが決まってきて、生活にも慣れてきたかなと感じます。今回は留学先であるNew York Medical Collegeやその周辺環境などについて、書きたいと思います。

 ニューヨークと聞くと、マンハッタンの摩天楼やセントラルパークが思い付きますが、大学はマンハッタンから40kmほど北に位置しており、郊外の街です。Westchester County(郡)という地域で、マンハッタンまで電車で30〜40分という立地ということもあり、マンハッタンに通勤する方々が数多く住んでいます。教育や住宅環境を考えて、子供連れの日本人駐在員の方も多く住んでいます。私は大学まで車で20分ほどのEastchesterという街に住んでいますが、Westchesterの中のEastchesterと若干紛らわしいです。Eastchesterは典型的なアメリカの郊外の街という雰囲気ですが、少し車で進むと、途轍もないほど大きな家が立ち並ぶエリアもあり、アメリカの社会構造を物語っているような感じがします。

 今回、New York Medical CollegeのProf. Michael Goligorsky’s Labに留学しています。Prof. Goligorskyは飯島先生がご留学されていた時のボスで、今も現役で生理学教室の教授をされています。私の研究テーマは血管内皮に存在する「グリコカリックス」です。血管内皮グリコカリックスは血管内皮細胞表面を被覆する糖蛋白や多糖類からなる構造体で、血管透過性の調節、白血球の接着や遊走の調節、血管内血栓の抑制などの重要な働きをして、敗血症、糖尿病、高血圧、急性/慢性腎不全など様々な病態に関与しています。マウスを使い、様々な条件下でのグリコカリックスの可視化や血管内皮機能を生理学的に評価していく研究です。動物実験講習が終わり、実際にマウスに関する手技を一から学び、今度の実験計画を練っているところです。まだまだ準備段階ですが、初めての分野であり一つ一つが新鮮に感じます。Prof. Goligorskyのもと、インド人とリビア人の研究者とともに働いています。皆、それぞれの国で医師としての勤務経験があり、こじんまりとした研究室ですが、国際色は豊かです。実験手技から必要な器具まで分からないことばかりですが、いつも気さくに教えてもらい、有難いです。

 先週、ワクチン2回目(ファイザー)を接種してきました。ニューヨーク州のHPからワクチン接種の予約を行い、集団接種会場で接種しました。接種会場に到着すると、まず予約表のチェックがあり、会場に入ります。自動検温後、おそらく医療関係者ではない方(ボランティアらしい方もたくさんいます)により、必要書類が全て揃っているかの確認や現在の症状についての簡単な問診があり、クリアすると接種会場に辿り着きます。体育館は20〜30ほどのブース(イメージとしては小児科専門医の面接会場)に区切られており、最終の本人確認後、ワクチン接種を受け、別の大部屋で15分間待機して、症状がなければ勝手に退出するという流れでした。全てが終わるのに30分程度で、とてもスムーズでした。接種翌日に少し倦怠感がありましたが持続せず、大きな副反応はありませんでした。つい先日、報道でもありましたように、アメリカではワクチン接種完了者は公共交通機関などを除き、屋外屋内を問わずマスク着用義務がなくなりました。しかし、アメリカ全体の感染者数は減少傾向にあるものの1日3万人ほど確認されていますし、しばらくは今まで通りマスクをつけた生活を続けて、感染対策を怠らないようにしていこうと思います。

 

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ワクチン接種会場です。郡の多目的体育館のようなところです。



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石河先生のニューヨーク留学便り  2021.04.14 
 渡米して1ヶ月が経ちました。今は研究に必要な研修をオンラインで受講しながら、ラボのメンバーの研究を見学しています。COVID-19のパンデミック最中での留学となり、手続きの面などで不便なことも多かったですが、今回はこの特殊な状況に焦点を当てて、書きたいと思います。

 米国に留学された先生方が体験記に書かれていますが、ビザの取得(今回はJ1ビザ)に必要な書類の中にDS-2019というプログラムスポンサーである大学が発行するビザ適格証明書があります。留学担当の事務の方と連絡がなかなか取れず、DS-2019が届いたのが1月25日でした。その後、DS-160というビザ申請書類を記入して、米国領事館でのビザ面接予約を取りますが、COVID-19の影響で面接枠が大幅に縮小されており、最短で予約できた2月23日に面接を受けました。1日の面接枠は8人程度と通常と比べてかなり少ない状況でした。出発予定日が迫る中、ビザが届くか心配であったのですが、ビザ申請件数も少ないこともあってか、3日後に郵送され、ビザに関しては比較的余裕を持って出発することができました。

 今回は渡航にあたり、COVID-19のPCR検査で陰性証明が必要でした。羽田空港で検査(自費診療)を受け、無事陰性証明を獲得でき、3月12日に渡米しました。渡米後はニューヨーク州が定める隔離が必要となります。10日間の自主隔離、もしくは渡米4日目のPCR検査で陰性であれば隔離解除となります。渡米翌日にNew York State, Dept of Healthから電話がかかってきて、それから毎日テキストメッセージが届き、発熱や咳嗽など何かしら症状があれば「1」、なければ「2」と返信するシステムでした。早く生活基盤を整えたかったので、PCR検査を受けることとしました。迅速抗原検査は薬局や診療所など様々な所で無料で実施されていますが、PCR検査は有料で75ドルから150ドル程度と値段に幅がありました。抗体検査も好きな時に同程度の金額で受けることができるようでした。検査費用が一番安いところで検査を受け、結果判明には数日かかると言われましたが、検査翌日にテキストメッセージで陰性だと結果が送られてきました。添付されたURLから登録番号を入力すると陰性証明書がPDFで表示されます。一応、Dept of Healthにテキストメッセージでこの旨を伝えましたが、特に返事はありませんでした。そして、「STOP」とメッセージを送ると、翌日から症状確認のメッセージは届かなくなりました。文字通り、「自主」隔離だと感じました。

 この自主隔離期間があったので、通常のようにすぐに住宅の契約、車の購入ということができません。住宅については、日本にいる時からzoomでのオンライン内覧(仲介会社の方が実際に物件の中に入り、見せてもらう)をしましたが、予想より早く自主隔離が解除されたので、実際に現地に出向き、内覧して決めました。2週間ホテルを取っていたのですが、ちょうどチェックアウトをする日に入居することができました。車の購入については、渡米2日目にこちらもzoomでやりとりをして、なるべく早く購入したいこともあり、実際に車を見ることなく契約しました。契約に関しても、書類の送付や署名などは全てオンラインでのやりとりのため、担当の方に対面でお会いしたのは納車日でした。なんでもオンラインでしようと思えばできてしまうことへの驚きの連続でした。

 街を歩いていても、マスクの着用率はほぼ100%です。この点に関してはアメリカの地域によってかなり差があるらしいのですが、ニューヨークでは昨年春の大流行以来、皆かなり気を付けているとのことです。ただ、未だにニューヨーク州だけでも1日7000人ほどの新規感染者が出ており、まだまだ収束に向かっているとは言えない状況です。しかし、4月1日から州をまたぐ移動後の自主隔離が解除され、ワクチン接種証明またはPCR陰性が必要ですがNYヤンキースは20%の観客を入れ始めるなど、少しずつですが生活が元に戻りつつあります。ワクチンは4月6日から16歳以上の全ての成人が対象になり、格段に広がっています。大学でも1回接種した人が増えてきており、私もそろそろ接種できそうです。

 今週末には妻と息子が到着する予定ですので、新たな生活が始まるなという感じです。 これから定期的に報告させていただければと思います。宜しくお願いいたします。

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基礎研究棟が入る建物です。ニューヨーク郊外の街にあり、自然に囲まれた立地です。


 

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先週末にようやく時間が出来たので、友人と桜を見に行ってきました。今がちょうど満開です。



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