医局だより

専門外来

有病者歯科治療



  • 有病者歯科治療

    全身疾患を有する患者さんへ

     当科では、地域の開業医の先生方や病院、介護・福祉施設の先生方と連携し、さまざまな合併症(お口の病気以外の全身の病気)をお持ちの方に対して、大学病院として安全な治療を心がけています。事前に主治医の先生から紹介状を書いて頂き、撮影済みの画像検査(印刷したものでも可)などを持参の上、当科を受診されると治療までの過程がスムーズに進みます。お薬を服用中の方は、必ずお薬手帳(薬剤情報提供書)や薬の説明書を持参の上、当科を受診下さい。

    • 抜歯など観血的処置(外科処置)は当科で行っておりますが、合併症をお持ちであっても、安全に歯科治療(歯の根の治療、詰め物・かぶせの治療、入れ歯の治療など)ができると当科が判断した場合は、かかりつけの歯科診療所に治療を依頼することがあります。

     近年、歯科医療の現場でも超高齢社会の影響を受け、いくつかの基礎疾患を有し、複数の内服薬を服用している患者さんが増加しています。 過去に当科で、処置時に入院が必要となった基礎疾患は、高血圧、心疾患(不整脈、弁膜症、冠動脈疾患など)、肝障害、脳血管障害(脳梗塞など)、腎障害と多岐にわたっていますが、下記に代表的なものを示します。

    • ①抗血栓療法(血液がサラサラになる薬を服用されている)を受けられている方
       外科処置後の副作用として、処置後の出血があります。処置時のみではなく、夜間の出血や翌日に出血することもあります。
       病気としては、心筋梗塞・狭心症・脳梗塞・心臓弁膜症・閉塞性動脈硬化症・不整脈(心房細動)・肺塞栓症・深部静脈血栓症・拡張型心筋症・動脈狭窄症などがあります。特に心臓弁膜症の治療歴がある方や人工弁置換術を受けられたことのある方は、外科処置後に感染性心内膜炎という心臓の弁の病気になってしまうことがあり、処置前にしっかりとした抗菌薬の投与も必要です。
       抜歯に際しては、抗血栓療法の薬の中止や中断は、心原性脳梗塞発症や再狭窄にともなう心筋梗塞や脳梗塞の再発のリスクがあり、発症すると非常に重篤になります。したがって、基本的には、薬は継続したまま抜歯することが望ましいといわれています。ただし、薬のコントロール状況が悪い場合は、かかりつけ内科の先生と相談し、治療をすすめていきます。
      ★抜歯後出血の1例
    • ②高血圧(血圧を下げる薬を服用されている)の方
       外科処置後の副作用として、処置後の出血があります。処置時のみではなく、夜間の出血や翌日に出血することもあります。コントロール不良の場合は、高血圧緊急症(脳など他の器官に影響を及ぼす病態)などが起こることもあります。
    • ③骨粗しょう症(骨を強くする薬を服用されている)の方
       抜歯部位の創が治らない。確率が低いですが、骨髄炎、骨壊死(骨が腐ってくる)が起こる可能性があります。また飲み薬ではなく、整形外科や内科などで数ヶ月に1度の注射の場合もありますので、そのような治療を受けられている方は申し出てください。
      ★抜歯後感染による骨の露出(腐骨形成)の1例
    • ④糖尿病(血糖値を下げる薬を服用されている)の方
       糖尿病により創傷治癒能力が低下しているため、抜歯後感染の可能性があります。また、抜歯後疼痛や抜歯後の炎症で開口障害が出現した場合などでは、その後の食事量が低下し、血糖値を下げる薬を服用してしまうと低血糖になる危険性もあります。血糖コントロールが悪い場合は、かかりつけ内科の先生と相談し、治療をすすめていきます。
    • ⑤リウマチ・自己免疫疾患(免疫を抑える薬やステロイドを服用されている)の方
       創傷治癒能力が低下しているため、抜歯後感染の可能性があります。また抜歯後感染が重症化することがあります。
    • ⑥悪性腫瘍治療中(抗がん剤治療を受けている)の方
       抗がん剤により骨髄抑制が出現している場合には、白血球減少による抜歯後感染や血小板減少による抜歯後出血の危険性があります。また、抗がん剤の副作用で嘔気や嘔吐を認めている場合には、抜歯をすることでさらなる栄養状態の悪化につながることも考えられます。
    • ※なぜ当科(高度医療機関)での治療が必要なのか?
       先に示した通り、歯科観血的処置、つまり抜歯一つにしてもさまざまな合併症が起こる可能性があります。ひとたび合併症が起こると、抜歯後感染では通院回数が増えたり、抗菌薬の長期服用が必要になったり、抜歯後出血では夜間の救急処置が可能な医院を探さなくてはなりません。また、骨壊死が起これば腐骨除去といった外科処置が必要になります。このような合併症出現の危険性を低下させる、また患者さんの不安を取り除くことを目的に、神戸大学医学部附属病院歯科口腔外科では短期入院下の観血的処置を推奨しています。また一人暮らしの高齢者の方・通院が困難な方などの入院についても随時相談させていただいております。入院下での処置を行った後の強い疼痛や出血に対しては、夜間・休日においても当科の当直医が緊急対応させていただきます。

    入院期間

     多くの患者様は、局所麻酔下の外科処置がほとんどであり、1泊2日の入院がほとんどです。複数部位の外科処置や外科処置の経過観察が厳重に必要な場合は、2泊3日以上の入院になります。

    最後に

     人間がより良い食生活を継続させるには、口腔機能の改善・維持が最も重要です。それは、健康な人も、なんらかのご病気(基礎疾患)を持っておられる人も同じなのです。車イスでしか移動できないなどの身体障害のある人や、内科疾患で多くの薬を飲んでおられる方も、観血的処置(抜歯など)も含めて適切な歯科治療をうけることは可能なのです。「えっ、歯を抜くだけなのに入院?それは・・・」というお考えではなく、ご自身の安心のためにご検討をお願いします。