AWSのクラウド、生成AIを活用した「医療MaaS」開発で医療へのアクセシビリティ向上を目指す「神戸医療DXモデル」を国内外に展開
2025年10月2日
国立大学法人神戸大学大学院医学研究科ならびに神戸大学医学部附属病院(以下、神戸大学)は本日、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWS ジャパン)と、超高齢社会および地域の過疎化による通院困難者の増加や地域医療格差など、日本が直面する医療・社会課題の解決に向けて、教育・研究・医療分野にわたる包括連携協定を締結したことを発表します。本連携では、クラウドや生成AIといった最先端のテクノロジーを世界で提供するAWSの幅広いサービスを活用し、革新的な医療アクセスソリューションの構築を通じて、「医療MaaS」(Medical Mobility as a Service)の開発を中心とした医療DXを加速します。

神戸大学は神戸市と共に内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金」の支援を受け、「神戸未来医療構想」*1のもと、革新的な医学研究と先進医療の開発を推進しています。医療機器の実証拠点となるリサーチホスピタルを設置し、医療現場のニーズに基づいた医療機器の開発や、医工連携人材の育成ならびに、人工知能(AI)や再生医療、遺伝子治療などの分野にも注力し、医療機器開発の相互連携システムを構築することで、神戸経済の活性化や市民福祉の向上に貢献することを目指しています。
今回の包括連携の中心にある「医療MaaS」は、国内の先行事例を踏まえつつ、神戸大学が目指す独自の次世代医療インフラです。特徴は、人(患者や医療スタッフ)・モノ(検体や薬)・データ(検査や健診情報)が、自宅から病院、在宅でのケアまでをひと続きの流れとして切れ目なく行き来できる仕組みです。神戸大学はAWSと共に、「移動」を単なる交通ではなく、医療に必要な人・モノ・情報の連続的な受け渡しと捉え、病院に人を集める医療から、人に医療が寄り添う医療への転換を目指します。
医療は今後、画一的な治療から一人ひとりに合わせた個別化医療へと大きくシフトします。その実現には、教育・研究・診療・社会実装が切れ目なく循環する共創のプラットフォームが欠かせません。神戸大学は、市民・自治体・企業と連携し、本人同意/最小取得/目的適合/説明可能性の原則に基づく信頼の設計(ガバナンス)のもと、異なるデータを個人起点で統合します。これにより、現場での学びが教育に還り、教育で培った力が研究を進め、研究成果が地域の暮らしに実装されるという、「学びと現場の往復運動」を加速させます。
この構想の実現により、通院が難しい方の移動支援や状況に応じた医療機関の提案、薬の受け渡しの効率化といった日常の利便性向上につながります。さらに、神戸発の革新的医療技術の創出、地域をつなぐ新しい医療連携、行政・企業と協働した健康づくりプログラムへと広がっていきます。つまり、単なるアプリやサービスではなく、人・モノ・データが信頼を基盤としてつながる「神戸医療DXモデル」として、社会の基盤機能そのものを再設計する挑戦です。
神戸大学はAMED AIMGAIN*2に採択され、「超個別化医療」の実現に向けたを自動化・省人化の基盤技術開発を進めています。本連携では、AWSの各種クラウドサービスを組み合わせた医療データの管理・活用システムの検討を進め、国内にとどまらず、AWSのグローバルインフラストラクチャを活用したグローバル展開も視野に入れています。特に、高齢化や医療アクセス課題を抱えるアジア諸国に向け、「神戸医療DXモデル」の展開を目指します。神戸大学の医療技術とAWSのグローバルネットワークを組み合わせることで、各地域の医療ニーズや規制に適応した「医療MaaS」プラットフォームの展開を実現していきます。
神戸大学は、神戸市と医療に至る前段階の「予防的な取り組み」でも連携します。デジタル技術を活用したスマートシティの取り組みとして、地域住民同士のつながりや交流を促進し、健やかな生活を支える仕組みを構築します。具体的には、地域活動のマッチングや地域住民の交流などを検討し、医療と生活の両面で『つながり』を再生することを目指します。
本連携において神戸大学は、AWS ジャパンとともに、HIPAA*3に準拠した高度なセキュリティを備えたAWSクラウド環境を活用したセキュアな医療データプラットフォームの実現と「hinotori」*4や「SCOT」*5を統合したフルオート・ホスピタルの基盤技術確立に注力しながら、神戸市とも連携して「医療MaaS」という新しい概念を実現し、日本の医療の未来を切り開いていきます。
また神戸大学は、スポーツメディカル分野において先進的な取り組みを展開しています。ヴィッセル神戸やコベルコ神戸スティーラーズなど、多くのプロスポーツチームのチームドクターとして知見を蓄積してきました。この経験を活かし、神戸大学がもつ多様な過去のメディカルデータを活用した革新的な予防医療と早期復帰プログラムの開発を進めています。
この取り組みをさらに発展させるため、神戸大学はAWSのクラウドテクノロジーを活用し、アスリート向け医療データ統合プラットフォームを構築します。このプラットフォームでは、Amazon Simple Storage Service (Amazon S3)による堅牢なデータ管理基盤の上に、最新の生成AIテクノロジーを実装します。これにより、選手一人ひとりの身体特性や競技特性に応じた競技パフォーマンス予測や、リアルタイムでの傷害リスク評価を実現します。
さらに、神戸大学は医学部での研究成果を活かし、収集したデータを用いて競技特性に応じた傷害予防プログラムの開発や、復帰プロトコルの最適化にも取り組みます。これらの取り組みを通じて、神戸大学はデータサイエンスとスポーツ医学を融合した新たな研究領域を確立し、スポーツ医療の発展に貢献してまいります。
神戸大学とAWSジャパンは、アントレプレナーシップを備えた次世代を担う人材育成においても連携します。具体的には、神戸大学生を中心とした関西圏の若手人材に対し、最先端のクラウドテクノロジーを活用した実践的な教育プログラムを提供する。これにより、起業家精神を持ちデジタル社会をリードし、新しい価値を創造できる人材の育成を目指していきます。
本連携の主な協力事項は以下の7つの分野に及びます。
(1)医療DXの推進- 次世代医療システムの研究開発(「医療MaaS」の実現)
- フルオート・ホスピタルの実現
- 患者データの統合管理システムの構築
(2)スポーツメディカルイノベーションの推進
- アスリート向け医療データ統合プラットフォームの構築
- 怪我予防のための早期警告システムの構築
- AIを活用した競技パフォーマンス予測システムの開発
(3)高度な研究基盤構築
- 医療画像診断・解析AIシステムの開発
- 臨床データ/研究データの安全な保管・分析システムの開発
- 生成AIを活用した、倫理申請・研究計画策定業務の効率化
(4)医学教育のデジタル転換
- メタバース空間を活用した臨床実験前シミュレーション教育の充実
- クラウドサービスのスキル習得
- AIを活用した患者問診教育の質向上
(5)国際共同研究の促進
- グローバル研究データ共有基盤の構築
- 国際共同研究のクラウドプラットフォーム整備
- 多施設臨床研究支援システムの開発
(6)地域医療連携の強化
- 地域医療機関とのデータ共有システム構築
- 救急医療情報ネットワークの整備
- 海外患者の受け入れ態勢整備
(7)メディカル・アントレプレナーシップの育成
- AWS企業支援プログラムとの連携
- 医療系スタートアップインキュベーション施設の設置
神戸大学は2023年4月にフューチャー株式会社と医学研究科および附属病院におけるDX推進に関する共同研究契約を締結しており、医療現場の業務効率化と品質向上に向けた取り組みを進めてまいりました。今回のAWS ジャパンとの包括連携協定の締結においては、さらなる相乗効果により、神戸大学における医療DXをいっそう加速させてまいります。
神戸大学医学部附属病院長の黒田良祐教授は、AWS ジャパンとの連携にあたり、次のように述べています。
「医療を取り巻く環境が大きく変化する中、一人ひとりに最適化された超個別化医療の実現が求められています。当院では、『医療MaaS』の構築による医療アクセスの向上と、スポーツメディカル分野におけるイノベーション創出に特に注力しています。
私は長年、ヴィッセル神戸やコベルコ神戸スティーラーズなど、多くのプロスポーツチームのチームドクターを務め、トップアスリートとも密接に関わってきました。その経験から、アスリートの医療データを活用した予防医療や最適なコンディション管理の重要性を実感しています。
今回のAWS ジャパンとの包括連携協定により、私たちが推進している『神戸未来医療構想』をさらに加速させることができると確信しています。特に、これまで培ってきた医療技術とAWSの最先端クラウドテクノロジーを組み合わせることで、『医療MaaS』プラットフォームの構築や、スポーツ医学におけるデータ駆動型の治療・予防システムの開発が可能となります。
神戸大学医学部附属病院は、この連携を通じて、超個別化医療の実現とスポーツメディカル分野におけるイノベーション創出に貢献してまいります」
また、同じく神戸大学大学院医学研究科長・神戸大学医学部長の村上卓道教授は、AWS ジャパンとの連携にあたり、次のように述べています。
「医学教育・研究において、神戸大学が注力する『医療MaaS』の実現に向けたデジタル技術への対応と、スポーツメディカル分野におけるイノベーションを推進できる次世代医療人材の育成が急務となっています。加えて、本連携は、神戸大学がこれまで培ってきた基礎医学から臨床応用に至る幅広い研究シーズを世界へ展開する絶好の機会でもあります。本連携により、AWSの先進的なクラウドテクノロジーを教育・研究現場に導入し、超個別化医療の実現に向けた世界最先端の人材育成プログラムを展開できると考えています。
特に注目すべきは、『医療MaaS』プラットフォームの研究開発基盤の整備と、スポーツメディカルデータの統合・分析システムを活用した実践的な教育プログラムの構築です。生成AI基盤を活用することで、学生や若手研究者たちが、個々の患者に最適化された医療サービスの研究や、アスリートの競技パフォーマンス向上・怪我予防に関する先進的な研究に携わる機会を創出できると期待しています。
また、神戸市との『神戸未来医療構想」を通じて進めている医工連携の取り組みに、AWSのテクノロジーが加わることで、『医療MaaS』の実装に向けた教育・研究環境が一層充実します。これにより、研究科として教育と研究の循環を加速し、革新的な医療技術の社会実装を担うリーダーを育てる体制を強化します。
神戸大学大学院医学研究科ならびに神戸大学医学部は、この連携を通じて、研究・教育・社会実装の三位一体による医学の進化を牽引し、超個別化医療の実現をリードする研究者・医療人材の育成と、『医療MaaS』およびスポーツメディカルイノベーションの研究開発の両輪で、次世代の医療発展に貢献してまいります」
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社 常務執行役員 パブリックセクター 統括本部長 宇佐見 潮は次のように述べています。
「AWS ジャパンは、神戸大学との包括連携により、『医療MaaS』の実現と最先端の医学教育・研究基盤の構築を支援してまいります。AWSは、世界200以上の国と地域で展開する医療機関・研究機関向けクラウドサービスの実績と、HIPAA等のグローバル基準に準拠したセキュリティ体制を活かし、神戸大学の先進的な医療構想の実現に貢献します。
特筆すべきは、Amazon Bedrockと適切なAWSのデータ管理・分析サービス群を組み合わせた『医療MaaS』プラットフォームの構築です。これにより、医療機関への効率的なアクセスから診療予約まで、シームレスな医療サービスの提供を実現します。さらに、Amazon SageMakerを活用した予測モデルにより、患者一人ひとりに最適な医療機関や移動手段の推奨を可能にし、医学生や研究者は実データに基づいた医療アクセス最適化の研究に取り組むことができます。
また、スポーツメディカル分野では、AWS IoTサービスを活用してアスリートの生体データをリアルタイムで収集・分析し、Amazon QuickSightによる高度な可視化と洞察を実現します。収集されたデータはAmazon S3に安全に保管され、Amazon SageMakerを用いた怪我の予測モデルの開発や、パフォーマンス最適化の研究に活用されます。この先進的な環境を教育現場にも展開することで、次世代の医療人材がデータドリブンなスポーツ医学を実践的に学べる場を創出します。
さらに、AWS Academyのカリキュラムを医学教育に統合することで、クラウドとAIの実践的スキルを備えた、次世代の医療イノベーターの育成を促進します。
AWS ジャパンは、この包括連携を通じて、イノベーションの共創パートナーとして、神戸大学の教育・研究・医療における先進的な取り組みを包括的に支援してまいります」
以上
*1 神戸大学を中心とした医療機関、研究機関、企業、自治体などが連携し、医療機器分野におけるイノベーションを創出することを目指す取り組み
*2 AMEDでは、産学連携による研究開発を支援する取り組みの一つとして「革新的医療技術研究開発推進事業(産学官共同型)」(英語名:Alliance program for Innovative Medical/healthcare research by Government-Academia-INdustry Collaboration 略称AIMGAIN)を実施。本事業は、複数の企業と複数のアカデミア(大学等)が連携し、基金(国費)と民間資金からなる複数年度(最大5年間)のマッチングファンドによる研究開発を実施し、その研究成果を企業による医薬品、医療機器開発等につなげることを目的とする
*3 1996 年に制定された HIPAA (Health Insurance Portability and Accountability Act) は、米国の労働者が転職または失業したときに医療保険を保持しやすくすることを目的とする法律。また、電子医療記録の導入を促進し、情報共有の向上によって米国の医療システムの効率と質を向上させることも目的とする。AWS は、HIPAAの対象となる事業体とその事業提携者が、安全な AWS 環境を活用して、保護された医療情報を処理、管理、および保存できるようにしている
*4 神戸医療産業都市を拠点とする株式会社メディカロイドが開発した、神戸未来医療構想の中核となる手術支援ロボット
*5 治療空間全体をシステム化したスマート手術室「SCOT: Smart Cyber Operating Theater(スコット)」