研究内容

 

研究概要

ヒトは37兆個の細胞からなる多細胞生物です。役割の異なる多種多様な細胞が複雑に相互作用して生体の恒常性が維持されています。生体内では、個々の細胞の遺伝子発現レベルは周りの環境に応じて変化していくため、生命現象の複雑なダイナミズムを理解するためには、生理的な環境を維持し、解析対象となる細胞の時空間情報を保持した上で、個々の“生きた”細胞の挙動を正確に捉えることが重要です。
私たちの研究室では、低侵襲で深部組織の観察に適した“二光子励起顕微鏡”を駆使して、動物個体が生きた状態で、骨髄、皮膚、肺、心臓、腎臓、肝臓、腸管、脂肪組織など様々な臓器を観察し、“生きた”免疫細胞の挙動を解析しています。本技術を活かして、自己免疫疾患や肺線維症など様々な難治性疾患の発症初期における細胞動態を解析することで、「病気が“いつ”“どこで”“どのようにして”起こるのか」という病態の本質を明らかにしたいと考えています。

 

研究テーマ

1. 生体イメージングによる難治性疾患の病態理解と創薬への応用

2020年より世界的に大流行したCOVID-19は、今なお社会に大きな影響を及ぼしています。COVID-19の病態においても、肺の器質化・線維化が指摘されており、線維化の病態を解明し、それに立脚した治療応用を実現することは、医学的にも社会的にも喫緊の課題です。

生体内の組織修復は、恒常性維持に重要な生体防御反応ですが、修復機構が破綻すると臓器の線維化が引き起こされます。 “組織修復”(生理的な線維形成)と “線維化” (病的な線維形成)の違いを明らかにし、「線維化がなぜ起こるのか」という病態の本質に迫ることができれば、線維症研究の新たな突破口につながるのではないかと考えました。従来の免疫学的解析手法に加えて、生体イメージング、空間トランスクリプトーム、AIなどの最新の数理科学を統合して解析することで、“組織修復”と“線維化”を区別する新規バイオマーカーの同定や創薬標的の創出を目指します。臨床医学教室や製薬企業とも連携しながら、将来の副作用の少ない理想的な線維症治療法を実現し、線維症を克服できる社会を目指したいと考えています。
 

2. 新たな学術連携による生命科学研究の推進と免疫システムの理解

生体イメージングや組織透明化技術、オミクス解析技術などの普及により、生体内の細胞ネットワークの解明や新しい細胞種の同定など、生命科学は著しく進歩してきました。一方で、生体内での生きた細胞集団の挙動が一体どのような“論理“で統制されているのかはいまだ謎に包まれています。そこで、生物学と人文社会科学の双方の視点から生命現象を捉えて、生体内の複雑な細胞社会を理解することを目的として、2022年度より学術変革領域研究(B)「骨イメージングではじめる動的多細胞コミュニティ学」を領域代表として立ち上げました。本研究では、本学術領域を発展させながら、免疫システムの理解にとどまらず、多種多様な細胞の挙動や集団内での意思決定様式を人文社会科学の理論を組み込んで解析し、生体内の多細胞社会を支配する基本原理の解明を目指したいと考えています。