微細メッシュによる革新的灌流型三次元細胞培養システムの構築に関する報告書

2023年度 小型自動車等機械振興補助事業
補助事業番号: 2023M-322

この事業は、オートレースの補助を受けて実施した事業です。

1.研究の概要

 日本や世界の死因順位別をみると、心疾患、脳卒中、糖尿病といった生活習慣病に起因した疾患が主要な死因を占める。これらの疾患では、血管内皮細胞の機能障害と免疫細胞の異常活性化による血管障害が共通して認められる。しかしながら、安価でかつ簡便な血管内内皮細胞の機能障害の適切な評価モデル(装置)がないことが、これら病態解明の足枷となっていることに気がついた。そこで本研究により、生体の血管を模倣した培養装置の開発のための基礎データの取得を行った。


2.研究の目的と背景

 これまで広く用いられてきている細胞培養法の「平面培養(シャーレ等の容器に細胞を播き、増やす技法)」では、体内に存在する細胞の形状が大きく変わってしまうため、化合物を用いた代謝や毒性評価などの実験結果がヒト体内で起こる結果に近いかどうかは疑問を呈されているため、より体内に近い細胞の形状で人工組織や人工臓器をラボで作製するための「三次元細胞培養法」の早期確立が求められている。現時点では、複数の三次元細胞培養技術が開発され、大きな実例として細胞を球状に増殖させる「スフェロイド培養法」や人体に無害のゲル上で培養させる「ハイドロゲル培養法」などの新技術があるが、設備投資や使用材料など多額の費用がかかる例が多く、1回あたりの実験コスト上昇など費用面でのデメリットが特に難題である。そこで、共同研究開発を行っている企業にて開発された新しい三次元細胞培養法である「微細メッシュ培養法」に着目した。この培養法は従来の平面培養の設備や技術、手技をそのまま活かせることが大きな利点であり、三次元細胞培養による細胞シートを容易に作製できることが特徴である。このことから、本事業では、生体の血管を模倣した灌流システムを組み合わせた培養システム構築のためのデータ収集と、製品化に向けた試作品の作製を行うことを目的としたものである。


3.研究内容

 試作品作製のため、装置の要求仕様を決定した。その仕様に基づき、「微細メッシュ構造」と「流路デバイス」の作製を行った。その後は、「微細メッシュ構造」と「流路デバイス」を組み合わせ、「灌流メッシュ培養ユニット」とした。 この灌流メッシュ培養ユニットと市販の灌流装置を融合させ、「灌流型メッシュ培養装置」の試作品を作製した。試作品にて血管内皮細胞(HUVEC)が培養できるのかを検証・評価したところ、培養できることを確認できた。


4.本研究が実社会にどう活かされるか―展望

 本事業により、生体内の血管を模倣した「灌流型三次元細胞培養法」の基盤が構築できたことから、今後装置の最適化・改良をすることで、これまでは捉えることが困難だった緩徐な進行による慢性炎症(生活習慣病)に伴う血管内皮細胞障害の病態解明や血管内皮細胞障害の治療標的分子の取得への道が期待できる。


5.教歴・研究歴の流れにおける今回研究の位置づけ

 これまで申請者は心筋梗塞の病態に関与する分子の同定とその生理的役割について研究を行ってきたが、血管内内皮細胞の機能障害の適切なモデルがないことが、これら病態解明の足枷となっていることに気がついた。今回研究成果は、生活習慣病に伴う血管内皮細胞障害モデルをin vitroで再構築したものであり、血管内皮細胞障害の病態解明につながるものである。さらには、病態解明からの血管内皮細胞障害を改善する新たな治療薬の開発に繋げていきたい。


6.本研究にかかわる知財・発表論文等

 該当なし


7.補助事業に係る成果物

 灌流型三次元培養装置


8.事業内容についての問い合わせ先

 所属機関名:神戸大学 大学院医学研究科(コウベダイガクイガクケンキュウカ)
 住所:〒650-0047 兵庫県神戸市中央区港島南町1-5-6 神戸BTセンター3階 306号室
 担当者:長坂 明臣(ナガサカ アキオミ)
 E-mail:akiomi@med.kobe-u.ac.jp