専攻の概要

はじめに

長寿社会を迎えた日本において健康寿命に対する国民の期待は高まっており、次世代の成長産業としての国産医療機器開発は非常に重要です。しかしながら現在、国内で使用されている高度管理医療機器の大半は欧米製で、毎年1兆円程度の貿易赤字が生じています。よって、国産医療機器の開発体制整備は社会的要請事項であり、ものづくりの基礎となる工学的な素養と医学の基礎知識を併せ持つ創造的開発人材の育成や、日本型の医療機器開発エコシステムの構築が求められています。

そのためには、最も創造性が必要な医療機器初期開発の分野において、「創造の基礎となる工学及び医学の基礎知識を習得し、医療機器の開発チームに実際に所属しながら、実践経験の中で医療機器の開発力を鍛錬する」教育が必要不可欠です。

以上のことを実践する医工融合型の新教育組織として、神戸大学大学院医学研究科に医療創成工学専攻博士課程前期課程及び博士課程後期課程を2023年4月に新設予定です。

日本の医療機器開発の現状

近年、日本の医療機器開発力は低下して国際競争力を失っています。世界の医療機器の市場規模は2020年で4000億米ドル近くであり、国別では日本はアメリカに次ぐ世界第2位の規模となるが、中国やアジア諸国の急追を受け、拡大傾向の世界市場において日本の地位は相対的に低下してきています。

このことは特に世界の医療機器開発の主戦場である高度管理医療機器クラスV(=不具合が生じた場合、人体へのリスクが比較的高いと考えられるもの)及びクラスIV(=患者への侵襲性が高く、不具合が生じた場合、生命の危険に直結する恐れのあるもの)の分野において顕著です。

欧米の企業に技術開発で遅れを取り、国内の医療機器開発会社がこの領域から実質的に撤退した結果、国内で使用されている高度管理医療機器の大半は欧米製となって毎年1兆円近くの貿易赤字が生じています。

これらの状況や次世代の成長産業としての役割の重要性に加えて、国民の健康寿命への期待も高まっており、高度管理医療機器の開発体制整備とそれを実現するための人材育成は社会的な要請事項となっています。

養成する人材像

高度管理医療機器の開発を進めるにあたって不可欠なのは、患者目線や医療現場目線でニーズを察知・理解し、多職種で構成されたチームのリーダーとなって医療機器開発を推進できる創造的開発人材です。新たに設置予定の医療創成工学専攻では、複数学問領域から学生を受け入れ、「医療機器開発を主導することができる創造的開発人材」を医療現場に密着した実践の場において養成します。