CMX

Emergence Conference「空間解析時代の到来~分子と細胞を”場所”で読む」 抄録

画像
   

(Talk 1) 10:00

上嶋 英介

神戸大学大学院医学研究科 内科系講座放射線医学分野 助教

Eisuke Ueshima

「空間的Transcriptome解析と医用画像の融合:EOB-MRIで読み解く肝癌免疫バリア」
“Integrating spatial transcriptome analysis with medical imaging: EOB-MRI as a non-invasive biomarker of tumor immune barrier in HCC”

空間的Transcriptome解析は、腫瘍内における遺伝子発現分布と相互関係を可視化する強力な技術である。一方、MRIをはじめとする医用画像も、本質的に“空間情報”を基盤としており、両者には高い親和性が存在する。近年、肝細胞癌(HCC)診療では免疫チェックポイント阻害薬を中心とした治療が急速に普及しているが、その効果を規定する腫瘍免疫微小環境を非侵襲的に評価するバイオマーカーの開発は緊急の課題である。我々はMRIがHCCにおける免疫排除型(immune-excluded phenotype)を予測し得るかを免疫染色およびVisium解析を用いて検証した。医用画像が捉える“構造パターン”と、遺伝子発現に基づく“空間パターン”が密接に連動しており、腫瘍免疫バリアを反映していることが示唆された。本講演では、空間的Transcriptome解析の方法論的な詳細は他演者に譲りつつ、医用画像が空間Omicsと高い整合性をもって腫瘍免疫微小環境を読み解く可能性を示し、治療選択に資する新たな視点として提示したい。

(Talk 2) 10:20

上原 慶一郎

神戸大学医学部附属病院病理診断科 講師

Keiichiro Uehara

Xenium in situを用いたヒトiPS細胞由来胃オルガノイドの解析
Xenium In Situ Analysis of hiPSC-Derived Gastric Organoids

空間トランスクリプトーム解析の登場により、組織内の位置情報を保持したまま、単細胞レベルの解像度でRNA発現を評価できるようになった。多様な細胞からなる組織でも、遺伝子発現と局在、細胞間相互作用や腫瘍微小環境を同時に解析でき、臨床病理学的研究の強力な基盤となりつつある。本研究ではヒトiPS細胞から胃オルガノイドへの分化誘導系を用い、組織化過程で生じる上皮下平滑筋分化を検討した。Xenium in situでヒトiPS細胞から胃オルガノイドを経時的に解析したところ、未分化状態から上皮細胞・間質細胞へ分岐しつつ成熟する転写動態に加え、上皮近傍に出現する平滑筋前駆細胞候補の空間配置も追跡できた。このように空間情報を伴う発現解析は、基礎医学研究分野でも有力な解析手法になりうると考えられる。

(Talk 3) 10:40

江本 拓央

神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野 非常勤講師
江本内科循環器科医院 院長

Claudia Moreno

シングルセル解析を用いた腹部大動脈瘤発生機序の解明
Elucidating the Mechanisms of Abdominal Aortic Aneurysm Development Using Single-Cell Analysis

筆者は、シングルセル解析を用いて循環器疾患の病態解明に臨床医の視点から取り組んでいる。なかでも腹部大動脈瘤は、破裂すれば致死的となる重篤な疾患であり、その発症機序の解明と予防戦略の確立が喫緊の課題である。留学先のトロント大学では、タバコ曝露を用いた新規腹部大動脈瘤モデルマウスを確立し、喫煙によって進行する動脈硬化が大動脈瘤形成を促進することを明らかにした。さらに、その中心的メカニズムとして、血管内皮障害を契機に単球が血管壁へ浸潤し、TREM2⁺マクロファージへ分化して蓄積するプロセスが病態形成に深く関与することを示した。帰国後は神戸大学において手術検体の解析を進め、同様の細胞動態がヒトの腹部大動脈瘤組織においても実際に観察されることを示し、ヒトとマウスの統合解析を行って、報告した (Nature Immunology, 2025 May;26(5):706-721.) 。現在は空間トランスクリプトーム解析(Xenium) にも取り組んでおり、併せて紹介したい。

(Talk 4) 11:00

児玉 貴之

神戸大学大学院医学研究科病理学講座分子病理学分野 助教

Takayuki Kodama

FFPE検体を用いたシングルセル解析から導く腫瘍微小環境の不均一性
Discover heterogeneity of tumor microenvironment based on fixed single cell RNA sequencing using formalin fixed paraffin embedded samples

膵前癌病変である膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)はその粘液形質から胃型・腸型・膵胆道型の3亜型に分けられ、後者2亜型の癌化リスクが高い。癌化した場合、膵胆道型は通常型・管状腺癌の像を呈し予後不良となりうるが、腸型は特徴的な粘液癌の像を呈し、比較的予後良好である。日常病理診断から、亜型が予後に関連する機序として腫瘍微小環境、特に線維芽細胞およびマクロファージに着目して研究を行った。 各亜型の代表的なFFPE検体を用いてシングルセル解析を施行し、4種類の線維芽細胞、3種類の単球・マクロファージ、その他好中球、マスト細胞などを同定した。またより多くの症例から組織マイクロアレイを作製し、これらの線維芽細胞や骨髄球系細胞マーカーに対する1次抗体を用いてOpal法による多重免疫組織化学を施行し、組織亜型、遺伝子変異、臨床病理学的因子、予後との関連性を解析している。

(Talk 5) 11:30

田中 庸介

国立がん研究センター研究所 がん創薬研究ユニット 独立ユニット長

Yosuke Tanaka

空間解析が明らかにするがんの起源と脆弱性
Spatial analyses uncover the origins and vulnerabilities of cancer

がんは正常細胞に由来し、多様な細胞集団を形成しつつ微小環境との複雑な相互作用のもとで進展する生体システムであるため、その全体像を把握することは容易ではありませんでした。近年、空間解析技術の進歩により、従来は数万単位の細胞の塊としてしか評価できなかった腫瘍細胞および微小環境細胞を、空間的座標を保持した単一細胞レベルで観察することが可能となりました。これらの技術ががんの起源細胞の同定、進展過程の解明、さらには脆弱性の発見にどのように寄与し得るかを、研究成果を交えて紹介します。

(Talk 6) 16:55

神保 岳大

神戸大学大学院医学研究科腎泌尿器科学分野 客員准教授
GMO学術サポート&テクノロジー株式会社

Takehiro Jinbo

GPUによる空間的遺伝子発現解析の高速化

空間トランスクリプトミクス技術の進歩により、1サンプルあたりの細胞数は数十万から数百万規模へと 急速に拡大している。この大規模データに対し、PCA、UMAP、クラスタリング、差次的発現解析といっ た標準的な解析パイプラインをCPUで実行すると、各処理に数十秒から数分を要する。UI/UXに関する応 答時間の研究によれば、10秒を超える待ち時間はユーザーの注意を逸らし、作業効率を著しく低下させ る。実際、解析者は待ち時間中に別作業へ移行し、完了後に解析状況を理解し直す必要が生じる。

本発表では、数万細胞のマウス脳データを用いたベンチマークにより、GPUアクセラレーション(Nvidia 社 rapids-singlecell)の有効性を示す。結果として、前処理からクラスタリング・差次的発現解析までのパイ プラインでCPU 827秒に対しGPU 7.2秒と、114倍の高速化を達成した。特にUMAP(51秒に対し0.5秒で92倍)、差次的発現解析(287秒に 対し0.9秒で326倍)で顕著な効果を確認した。GPUの導入コストについては、クラウドの時間課金やアカ デミック向けスパコン利用により軽減可能である。GPU活用は空間的遺伝子発現解析のインタラクティブ な探索の効率化を実現する鍵となる