戸田達史教授(神経内科学分野/分子脳科学)が、平成24年度第14回時実(實)利彦記念賞の受賞者に決定しました。受賞理由は、パーキンソン病および福山型筋ジストロフィー遺伝子の同定と病態解析です。戸田教授は、脳と骨格筋が障害される日本に多い福山型筋ジストロフィー原因遺伝子フクチンを同定し、本症が数千年前の一人の祖先におきたレトロトランスポゾン変異による初めての疾患であること、糖鎖修飾に関連すること、アンチセンス核酸を用いた治療の可能性を見いだしました。また確実なパーキンソン病疾患感受性遺伝子としてαシヌクレインを同定し、さらに患者数千人規模のゲノムワイド関連解析を行い、4つの遺伝子を明らかにするとともに、稀な遺伝子変異(rare variant)としてゴーシェ病遺伝子変異が確実なパーキソンリスクであることを明らかにしました。このようにヒト神経疾患をベースにした遺伝学的解析、病態解析に戸田教授は大きな実績をもつことが、今回の受賞につながりました。
時実利彦博士(1909-1973)は、東京大学医学部脳研究施設の初代施設長として多くの生理学者を育成するとともに、上行性網様体賦活系による大脳皮質の意識レベルの維持など、大脳皮質の高次機能について大きな研究成果を上げられました。また岩波新書「脳の話」をはじめとする多数の啓蒙書を執筆されました。わが国の脳研究のさらなる発展を希望されたご遺族が1989年、公益信託時実利彦記念脳研究助成基金を設立されましたが、その主な事業として毎年1ないし2名の研究者に時実利彦記念賞を贈呈しています。