医学系研究科長・医学部長挨拶

医学系研究科長・医学部長
勝二 郁夫
神戸大学医学部の歴史は、昭和19年(1944年)の兵庫県立医学専門学校の設立を起源とし、医学部附属病院は、明治2年(1869年)の神戸病院の設立にまで遡ります。神戸大学医学部は、設立以来現在に至るまで、先端的な基礎・臨床医学研究の推進、豊かな人間性・倫理観と高度な専門知識・技能を兼ね備えた優れた医師・医療人・医学研究者の養成、ならびに兵庫県の地域医療の充実に取り組んできました。この長きにわたる歴史と使命を継承しつつ、新たな時代の要請に応えるべく、このたび、令和8年度より医学研究科と保健学研究科を統合し、新たに『医学系研究科』を設置いたしました。
急速かつ根本的に変容する現代社会、いわゆる「VUCAの時代」―Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)―において、医療や保健を取り巻く社会の課題は、少子超高齢化、感染症パンデミック、環境問題、メンタルヘルス、働き方改革、さらには生成AIをはじめとする技術革新など、ますます複雑かつ多様化しています。これらの課題は、もはや単一の専門分野のみで解決できるものではありません。いま求められているのは、多様な専門知が結びつき、融合し、速やかに社会実装へとつなげる「総合知」の創出です。
本研究科では、「総合知」を、多様な専門知が集い、医療や保健に関わる社会課題の解決と新たな価値創出を力強く、かつ機動的に実践する“知の活力“と定義しました。この理念のもと、博士課程前期課程を統合した「先進生命医科学系専攻」を設置し、バイオメディカルサイエンス、医療創成工学、未来社会医学、健康科学の各領域を横断的に学ぶ教育体制を整備しました。さらに博士課程後期課程には「未来社会医学専攻」および「健康科学専攻」を新設し、専門知の深化と分野間連携のさらなる発展を図ります。「医科学専攻」では基礎医学・臨床医学における深い学術的基盤、エビデンスに基づく科学的思考、疾病の診断・治療に関する高度な専門性により、医療の根幹を支える知識体系を提供します。「医療創成工学専攻」では医学と工学の融合による先進的な医療技術の開発、医療機器・システムの創成により、革新的な医療技術の創出と医療の効率化を推進する専門性を提供します。
本研究科が育成するのは、専門知を深く究めるにとどまらず、それらを結びつけ、自ら課題を設定し、社会実装までを見据えた解決策を構想・実践できる人材です。システム思考やデザイン思考を駆使し、未来像から逆算して「今何をすべきか」を導き出すバックキャスティングの視点を養い、地域社会から国際社会まで幅広く活躍できる次世代の保健医療人を育てることが、私たちの使命です。
私たちは、基礎研究から応用・実装までを包含する広義の保健医療を対象に、「学理と実際の調和」を重んじ、教育研究を推進してまいります。持続可能性とレジリエンス(強靭性)を備え、一人ひとりのウェルビーイング(Well-being)が最大化される社会の実現に向けて、本研究科が担う役割は今後ますます重要になると確信しております。
医学部においては、「人間性・創造性・国際性」を兼ね備えた医師・医療人・医学研究者の育成を理念に掲げ、世界水準の教育研究拠点として挑戦を続けています。本学部の強みは、基礎医学から臨床医学、医工学、保健学に至るまでを包含する総合的な研究体制にあり、異なる専門領域が日常的に交差することで生まれる発見と革新を大切にしています。医学科では、研究医養成プログラムやMD-PhDコースを通じて早期から研究マインドを養い、多くの学生・大学院生が国内外の学会発表や国際誌への論文掲載など、着実に成果を上げています。基礎と臨床を架橋する研究を推進し、次世代医療の創出に取り組んでいます。医療創成工学科では、医・工・ビジネスの融合による医療機器開発教育を展開し、産学官連携のもと革新的医療技術の創出に挑戦しています。保健学科では、多職種協働教育を基盤としながら、グローバルヘルスを含む国際共同教育・研究を積極的に推進し、国境を越えてリーダーとして活躍できる医療専門職・研究者を育成しています。
医療と生命科学は、いま世界規模で連携し発展する時代にあります。地域医療への着実な貢献を果たすとともに、国際水準の教育研究を一層深化させ、世界へ発信する拠点として歩みを進めてまいります。本研究科・医学部から、次世代の医療と社会を切り拓く人材を世界へ送り出すことを使命とし、その実現に向けて教職員一同、全力で教育研究に邁進してまいります。引き続き、皆様のご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。