神戸大学大学院医学研究科腎泌尿器科学分野

Division of Urology, Department of Surgery Related, Kobe University Graduate School of Medicine

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専門外来のご案内

腹腔鏡外来

腹腔鏡下手術とは

一般に手術は皮膚にメスで切開を入れ、体内の臓器に対して切除などの処置を行うものです。一例を挙げれば腎臓を摘除するためには20~30cmの皮膚切開が必要です。一方腹腔鏡下手術は、体内の臓器に到達するために一カ所が約1cmのトロカーと呼ばれる管を数本用いて行うもので、腎臓を摘除するためには普通4本の管を用いれば可能であり、皮膚の切開創は大幅に小さくなります。

長所

皮膚の切開創が小さいということは、筋肉組織の損傷も小さいということで、術後の痛みが格段に少なくなります。そのため手術の次の日に歩くことがそう苦痛なく行え、食事開始も早くなります。仕事を含めた通常の生活に戻るまでの時間も普通の手術に比べると約1/3~1/2になり、美容的な意味でも非常に有利です。

また腹腔鏡下手術は、内視鏡をトロカーと呼ばれる管から入れて体内を観察しながら手術をするため,普通の手術より拡大した視野が得られるため精密な操作が行える利点があり、出血量も非常に少なくなります。術後の感染の面でも傷が小さいことは非常に有利です。

短所

この手術を行う場合、通常の手術と違い体内操作を行うスペースを作るために炭酸ガスを用います。そのため血液の中の炭酸ガスが増える合併症が起こります。しかし現在の麻酔法の発達により手術に差し障りは通常ありません。上記のように内視鏡で拡大した視野が得られる一方その視野以外の所が死角になる欠点があります。また通常の手術だと術者の手の触覚が武器として有効ですが、この手術は細く長い鉗子を体外から入れて処置をするため触覚が得られません。そのため一気に剥離することなどはできず、手術時間は長くかかります。一般に出血は少ないのですが、もし他臓器や大血管を損傷した場合対処が難しくなり、通常の手術に変更する場合があります。

当科の腹腔鏡下手術

国内の泌尿器科で本格的に腹腔鏡下手術が始まったのは1992年頃ですが、当科でも同年から本手術を開始しました。最初は骨盤内リンパ節郭清術や精索静脈瘤に対するものでしたが、現在では副腎・腎・尿管・前立腺など泌尿器科で扱う主要な臓器に対する手術は、出来うる限り腹腔鏡下手術で行うようになっています。

主な適応疾患

副腎疾患-副腎の良性腫瘍

(原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫など)

通常左側ならトロカーは3本、右側は4本用います。摘除した副腎腫瘍は通常摘出用の袋に入れてトロカーの穴から体外に摘出できるためこれ以上の傷が残りません。

腎疾患-良性疾患(無機能腎、水腎症など)
悪性疾患(腎細胞癌、腎盂癌など)

良性疾患の場合摘除した腎臓は袋の中に入れ、その中で細切して取り出します。一方悪性疾患の場合は取り出した臓器を綿密に調べる必要があるため、そのままの形で取り出します。この為、最後に約5cm程度の皮膚切開を行います。

尿管疾患-良性疾患(腎盂尿管移行部狭窄症、尿管狭窄症、尿管結石など)
悪性疾患(尿管癌など)

一般に尿管癌や腎盂癌の場合、腎臓と尿管および膀胱の一部を全て摘除する必要があるため皮膚切開は上腹部と下腹部の2箇所(合わせると30cm以上)になります。しかし腹腔鏡下手術の場合、下腹部に腎臓を取り出す傷(5~6cm)とトロカー4本のみで手術ができるので、非常に良い適応です。

前立腺疾患-前立腺癌

前立腺の良性疾患の代表は前立腺肥大症です。これは30年以上前から尿道から内視鏡を入れて行う手術(TUR-Pという)で行われているため腹腔鏡下手術の出番はありません。

早期の前立腺癌の場合、現在下腹部を切開して行う恥骨後式前立腺全摘除術が一般的ですが、出血が比較的多いことや骨盤の一番奥にあるために手術が難しいなどの欠点があります。腹腔鏡下手術はこれらの欠点を解消するために開発されました。前立腺を摘出する傷(3~4cm)とトロカーは5本用いて行います。当科では250症例以上を行っており、通常の手術と比較して術後回復は約1/2に短縮できることを証明しています。

精巣疾患その他-

腹腔内停留精巣
精巣腫瘍のリンパ節郭清術
精索静脈瘤手術など

〔担当:日向 信之〕