神戸大学大学院医学研究科腎泌尿器科学分野

Division of Urology, Department of Surgery Related, Kobe University Graduate School of Medicine

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腎移植

腎移植Kidney transplantation

「腎移植」は、腎不全患者さまにとって優れた治療です。

神戸大学 泌尿器科では1985年から「腎移植」を行なっています。腎臓内科、小児科、麻酔科、肝胆膵外科、感染症内科、移植医療部、レシピエントコーディネーター、薬剤部、栄養管理部と連携し、「腎移植」における「チーム医療」を構築することで、多くの腎不全患者さまに「腎移植」治療を受けていただくことができるようになりました。生体腎移植(夫婦間腎移植、先行的腎移植、血液型不適合腎移植、クロスマッチ陽性腎移植、高齢夫婦間腎移植)、献腎移植(心停止下腎移植、脳死下腎移植、膵腎同時移植、肝腎同時移植)に対応しております。

神戸市はもちろん、兵庫県全域にお住まいの方、あるいは県外からの患者さまも多数当院で腎移植を受けられています。詳細をご希望の方は以下をご参照のうえ下記にご連絡ください。

神戸大学 泌尿器科・移植医療部 電話をかける
「腎不全」と「腎移植」
「腎移植」の実際
神戸大学での腎移植

「腎不全」と「腎移植」

まず「腎臓」とはどのような臓器か、「腎不全」とはどんな病気かを解説したうえで、「腎移植」とはどのような治療か、「腎移植」を受けるとどうなるか、を説明します。

「腎臓」はどんな臓器?

「腎臓」は、「そらまめ」のような形をした尿を作る臓器で、腰のあたりに左右1個ずつあり、大きさは握りこぶしくらい、重さは120~200gくらいです。

「腎臓」の働きは尿を作って体の外に出すことによって、体の中にある余分な水分、塩分や老廃物を、体の外へ出す働きをしています。他にも様々なホルモンを分泌することで、血圧を調整したり、血液の成分である赤血球を作ったり、骨を丈夫に維持したりしています。

「腎不全」はどんな病気?

「腎臓」の働きが悪くなることを「腎不全」といいます。「腎不全」の原因となる病気は、「糖尿病」「高血圧」「糸球体腎炎」「多発性嚢胞腎」「先天性尿路奇形」などがあります。また、ゆっくりと長い時間をかけて「腎不全」が進行する病気を「CKD; 慢性腎臓病」と呼びます。

「CKD」が徐々に進行して最終段階になると「末期腎不全」になります。余分な水分や老廃物が体内にたまることで、息苦しさ、むくみ、貧血、吐き気などの症状が出てきます。この状態からさらに進行しても治療をしなければ、いずれは命を落とすこととなります。

「腎不全」の治療 
~「血液透析」と「腹膜透析」~

「末期腎不全」になった方は、体に溜まった血液中の老廃物や余分な水分などを、体の外に出す何らかの治療が必要です。このような治療を「腎代替療法」と言いますが、「腎代替療法」には、「血液透析」や「腹膜透析」という「透析療法」、もしくは「腎移植」があります。

「血液透析」や「腹膜透析」は、腎臓の働きのうち一部しか補えないため、長期間経過すると動脈硬化などの合併症が出てきます。このような合併症がなるべく出ないようにするためには、しっかりと水分・食事の制限を行い十分な透析療法を行うことが重要です。このため、日常生活でさまざまな時間的、行動的な制限を受けることになります。ただし、日本の透析療法は非常に優れているため、きちんと水分や食事の管理ができ、透析療法に十分な時間をかけることができる人であれば、かなりの長期間元気でいることができます。

「腎不全」の治療 
~「生体腎移植」と「献腎移植」~

「末期腎不全」のもうひとつの治療として「腎移植」があります。「腎移植」とは、機能不全におちいった自分の「腎臓」の代わりに、誰かから「腎臓」を提供してもらって手術で体内に移植する、という治療です。人間の体には2つの「腎臓」があります。家族や親族から、その2つある「腎臓」のうち片方を提供していただく場合を「生体腎移植」、亡くなられた方の善意で、2つある「腎臓」を2名の「腎不全」患者さまにそれぞれ1つずつ提供していただく場合を「献腎移植」と言います。

「腎不全」の方が「腎移植」の手術をうけて、その「腎臓」が順調に機能すると、健康な方と同じように尿が出て、血液中の老廃物や余分な水分や塩分がしっかり排出されます。 「透析療法」と比べると、食事の制限や生活の制限が少ないなど、さまざまな点で有利なことが多く、また同じ年齢で透析を始めた方と比べると寿命も長くなります。

拒絶反応と免疫抑制剤

ただし、移植した「腎臓」は、たとえ家族からいただいたのであっても、もともとは自分の臓器ではありません。ただ単に移植手術で体内に入れただけでは、せっかくいただいた大切な「腎臓」は「拒絶反応」を起こして働きを失ってしまいます。なぜかというと、我々人間の体にはもともと、細菌やウィルスなど体にとって有害なものを「異物」と認識して攻撃し排除する「免疫」という働きが備わっているからです。「腎移植」で他人の「腎臓」が体内に入ってきた時に、「免疫」の働きで「異物」と認識し攻撃してしまうと「拒絶反応」が起こります。「拒絶反応」が起こると、移植した「腎臓」は機能を失い、再度「腎不全」の状態となってしまいます。

「拒絶反応」が起こらないようにするためには、体内に入ってきた「腎臓」を「異物」と認識して攻撃しないように、「免疫」の働きを少し弱める必要があります。「免疫」の働きを弱める薬を「免疫抑制剤」といいます。「腎移植」をしたあとは、移植した「腎臓」が働いている限り、生涯にわたって「免疫抑制剤」を飲み続け、「腎臓」を守ってあげないといけません。

ただし、「免疫」の働きが弱まりすぎると、細菌などが体内へ入ってきた時にこれを「異物」と認識し排除することができなくなる、つまり「感染」に対する防御力が落ちてしまいます。そこで、移植した「腎臓」は「異物」と認識しせず、いっぽう細菌などが体内へ入ってきた時はしっかりと「異物」と認識し防御できるよう、「免疫抑制剤」の量をちょうど良い効き具合になるように調整することが重要です。

腎移植を受けると

「腎移植」を受けると、今まで「透析療法」を受けていた方は、「腎不全」による体調不良が改善します。具体的には、食欲が出てきたり、痒みがなくなったり、よく眠れるようになったり、肌の色がきれいになったりして、爽快な気分になった、という方が多いです。また食事の制限や水分の制限もかなり緩和されるので、喉が渇けばほぼ好きなだけ水を飲めるようになります。

また「透析療法」による時間的制限や行動制限もなくなるため、生活の質が向上します。たとえば「血液透析」を受ける場合は、週に3回、1回4時間、病院に通院して透析を受ける必要がありますが、「腎移植」をしたあとは、1~2か月に1度の通院のみでよくなりますし、数か月後すれば通学、通勤も普通に出来るようになります。半年~1年くらいすれば普通に運動もできます。海外旅行なども自由に行けますし、妊娠・出産を希望する女性では、「腎移植」を行うことで妊娠率が上がり、安全な出産・妊娠が可能になります。

「腎移植」を受けると、今まで「透析療法」を受けていた方は、「腎不全」による体調不良が改善します。具体的には、食欲が出てきたり、痒みがなくなったり、よく眠れるようになったり、肌の色がきれいになったりして、爽快な気分になった、という方が多いです。また食事の制限や水分の制限もかなり緩和されるので、喉が渇けばほぼ好きなだけ水を飲めるようになります。

ただし「腎移植」を受けたからといって決して「腎不全」が治るわけではなく、一部の方は10年〜20年〜30年、と経過していく中で、「拒絶反応」を含むさまざまなことが原因で、移植した「腎臓」の働きが低下してしまうことがあります。せっかくいただいた「腎臓」をできるだけ長持ちさせるため、先ほど説明した「免疫抑制剤」の投与量調整やしっかりした服薬管理、感染症の予防、高血圧、糖尿病、肥満など生活習慣病の管理、癌検診などを定期的に行う必要があります。

そのため、1~2ヶ月に1度は定期受診して、採血検査や尿検査を行い、「免疫抑制剤」の投与量調整などをきめ細やかに行い、体重や血圧、血糖値などもしっかり把握して管理を行うことが非常に重要です。

また、「腎移植」は比較的大きな手術です。ご高齢の方や長期間血液透析をされている方、糖尿病の合併症が高度な方などは、体力的に「腎移植」の手術に耐えきれない可能性もあります。例えば心臓の働きが極端に悪い場合など、無理をして「腎移植」をすることで手術中や手術後に命を落とすような事態になりかねません。検査の結果、全身の状態が「腎移植」の手術に耐え切れない可能性がある場合は、「透析療法」のほうがその方にとっては合っていると判断し、「腎移植」をお断りさせていただくこともあります。

「腎移植」の実際

このように、「腎不全」の方にとっては非常に優れた「腎移植」ですが、「腎臓」を提供してくださる方がいないと始まらない治療です。ここでは、「腎移植」を希望される方々について、「生体腎移植」を受けるための条件や、「腎臓」を提供していただくための条件、そして「献腎移植」についての説明をします。

「生体腎移植」腎臓を提供する人
(ドナー)

「腎移植」という治療の最大のハードルは、「腎臓」を提供してくださる「ドナー」(腎提供者)がいないと治療ができない、ということです。「生体腎移植」の場合、「ドナー」(腎提供者)は親族(6親等以内の血のつながった親族と、配偶者を含む3親等以内の配偶者側の親族)に限られます。

また「ドナー」(腎提供者)は、自分自身で「腎臓」を提供すること決めたことが大前提で、かつ健康体であること、手術が安全に受けられること、そして手術後の生涯にわたり「腎臓」が1つとなっても2つあった時と同じように不自由なく生活を続け、寿命を全うするまで元気に暮らしていけることが保証される、と判断された成人に限られます。その判断基準は日本移植学会、日本臨床腎移植学会の「ドナーガイドライン」として下の図の通りで定められています。

ただし、この「ガイドライン」に定められた基準を厳格に満たすことが絶対条件とすると、腎臓を提供できる方が極端に少なくなってしまいます。そこで「マージナルドナー基準」というやや範囲を広げた基準があります。その中では、1.年齢は80歳以下、2. 血圧は高圧剤を飲んで130/80以下にコントロールされていること、3. GFRは70ml/min/1.73m2以上、7. 糖尿病であっても内服薬のみの治療でHbA1cが6.5%未満にコントロールされており糖尿病性腎症がないこと、などを条件に、リスクを充分説明のうえ納得された場合は腎臓の提供は許容される、とされています。

「生体腎移植」腎移植を受ける人
(レシピエント)

「腎移植」を受ける人のことを「レシピエント」と言います。「日本移植学会のレシピエント適応基準」では、1) 保存期腎不全も含めて末期腎不全であること、2) 全身感染症がないこと、3) 活動性肝炎がないこと、4) 悪性腫瘍がないこと、とされています。

少しシンプルすぎる気もするので、もう少しかみ砕いて説明します。
1) についてです。これは、腎不全患者さまのなかでも、腎不全が進行して「末期腎不全」となっており、すでに「透析療法」を受けている方、あるいは近い将来「腎移植」「透析療法」いずれかを受けなければ、生命が維持できなくなる可能性が高い方しか、腎移植は受けられないという意味です。

2)、3)、4)についてです。「腎移植」は「拒絶反応」が起こらないようにするための、「免疫抑制剤」を一生飲み続ける必要があります。「全身感染症」「活動性肝炎」「悪性腫瘍」は、「免疫抑制剤」を飲むことで急激に進行する可能性があるため、これらの病気にかかっている方は腎移植を受けられないということになります。もちろん、過去にこのような病気になったことがあっても、完治していれば「腎移植」を受けられるようになることもあります。

また、「ガイドライン」には記載がありませんが、「腎移植」を受けるためには、手術に耐えられるだけの体力が必要ですし、腎臓をもらう人とあげる人の「相性」も需要です。この「相性」のことを「組織適合性」と言います。「ドナー」(腎提供者)の「腎臓」が「レシピエント」(腎移植を受ける人)の体内に移植された時に、まれに「免疫抑制剤」を飲んでいても、非常に強い「拒絶反応」が起こってしまうことがあります。腎提供者の細胞に対して、腎移植を受けた人の「免疫」がどの程度反応するかを、「組織適合性検査」または「クロスマッチ検査」といいます。「クロスマッチ検査」にひっかかると、程度にもよりますが「腎移植」をしない方がよいことがあります。

これらのことを調べて判断するために、腎移植を受ける前には比較的たくさんの検査を受けてもらわないといけません。もともと「腎不全」という「臓器不全」を抱えた状態の方が、「腎移植」という大きな手術を受け、手術が終わると「免疫抑制剤」という体の抵抗力を落とす薬をあえて飲まないといけないわけですから、見切り発車で手術に望むことはとても危険なため絶対に避けなければなりません。ただし、痛みを伴うような検査はほとんどないのでご安心ください。

「献腎移植」登録について

「献腎移植」を希望される方は、「日本臓器移植ネットワーク」に「献腎移植」登録を行う必要があります。また、手続きを行う際に「生体腎移植」を受ける方場合とほぼ同様の検査を受ける必要があります。なぜなら「献腎移植」は通常緊急手術として行われるためです。つまり、仮に臓器提供があり「レシピエント候補」として選ばれた際は、その日のうちに入院して手術を行う、ということもあるため、手術のために必要な検査を全て行うための充分な時間がありません。そのため、いつ「レシピエント候補」として選ばれてもいいように、登録の段階で検査を済ませておくということです。

しかし、日本では臓器提供が欧米やアジアの諸外国と比べると少ないという現状があり、「献腎移植」を希望して「日本臓器移植ネットワーク」で登録を行っても、希望通りに腎移植を受けられる方は、登録されている方の中で50~100人に1人程度(正確には2019年は登録者数12505人のうち230人)、その1人も登録してから平均約15年(正確には2019年は14年9ヶ月)待っていた、という事実があります。

ただし、登録を行わない限り「献腎移植」は受けられる可能性はゼロです。また「レシピエント候補」として選ばれるための基準は、登録してからの期間、組織適合性、居住地域で決まっています。つまり登録を行ってから年月が経つほど、「献腎移植」を受けられる可能性は高まるとも言えるので、「献腎移植」を希望される方はなるべく早めに登録をしたほうがよいと言えるでしょう。神戸大学で献腎移植登録されている方のなかでも、毎年2~6名程度の方が献腎移植を受けられています。

また未成年の腎不全患者さん、特に16歳未満の方は、選択基準が優遇されているため、登録をしてから2〜3年、早ければ1年以内に「献腎移植」を受けられることもあり得ますので、希望のある方はなるべく登録をしたほうがよいと思います。

「腎移植」の手術

「ドナー」(腎臓提供者)、「レシピエント」(腎移植を受ける人)とも、検査が全て終わって腎移植に向けての準備が整えば、入院となります。神戸大学では「レシピエント」は1~2週間前から入院して手術に備えます。「ドナー」は手術の数日前に入院します。

手術当日は、「ドナー」(腎臓提供者)、「レシピエント」(腎移植を受ける人)は2人揃って歩いて手術室に向かいます。そして2人で手術室に入り、それぞれが手術をする隣り合った部屋の前で別れます。ここから先は、別々の部屋ですがほぼ同時に進行します。2人ともベッドに寝た後、吸入麻酔を吸い麻酔がかかります。「ドナー」は横向きに寝かされて、「レシピエント」は仰向けのまま手術が始まります。

「ドナー」(腎臓提供者)の手術は、内視鏡で行います。ただし「腎臓」は握り拳くらいの大きさですので、それを取り出すだけの創が必要です。手術時間は3時間程度です。「腎臓」が取り出されると、約6cmの傷を縫い合わせて手術は終了です。一方、取り出された「腎臓」は、すぐさま隣の部屋へ運ばれて「灌流液」という特殊な液体で血液を洗い流します。

「レシピエント」(腎移植を受ける人)の多くは、右下腹部を弓形に切開して、「腎臓」が入る場所を確保します。元から2つある自分の「腎臓」はそのままで、別の場所に新しくもらう「腎臓」を移植します。おへその右下あたりに「腎臓」が入ります。「腎臓」には「腎動脈」、「腎静脈」、「尿管」という3つの管が繋がっています。「腎動脈」を骨盤内の太い動脈とつなぎ合わせ、「腎静脈」も同じく骨盤内の太い静脈とつなぎ合わせます。すると「腎動脈」→「腎臓」→「腎静脈」と血が流れるようになり、数分経てば「腎臓」が尿を作り出して「尿管」から尿が出はじめます。「尿管」から出た尿が「膀胱」に注ぎ込んでたまるように、「尿管」と「膀胱」をつなぎ合わせて、最後に腹部の創を縫い合わせれば手術はほぼ終了です。「レシピエント」の手術は、4~6時間程度かかります。

「腎移植」手術を受けた後は

「腎移植」の手術が終わると、数日間を集中治療室で過ごし一般病棟に移ります。神戸大学では、基本的に腎移植手術のあと1週間は隔離個室で過ごしていただいています。手術が終わり隔離個室から出られるようになる頃には、手術後に体についていた、点滴、尿道カテーテル、ドレーンチューブなどの管が全て取れ、自由の身となります。ここから数週間かけて、移植した腎臓の働きが問題ないかどうかを採血検査等でチェックしながら、免疫抑制剤の投与量を調整します。順調に経過している方にとっては、やや”退屈”とも言える時間を過ごしていただきます。神戸大学では、平均すると手術後4週間で退院を許可しています。

退院直後は1週間に1度、外来診察で採血や尿検査をして「腎臓」の働きをチェックしながら免疫抑制剤の投与量を微調整します。やがて3ヶ月経てば2週間に1度、半年経てば1ヶ月に1度と、徐々に診察の間隔は延ばしていきます。多くの方で、退院してすぐに家事程度は行えるようになります。ただし、長い入院で体力は落ちているので徐々に体を慣らしていき、2~3ヶ月程度で学校や職場へ復帰することができます。

神戸大学での腎移植

神戸大学では、1985年に腎移植を開始して、2020年3月までに414名の方に腎移植を行ってきました。グラフにお示しした通り、ここ数年間、神戸大学で腎移植を受けた方の人数は増えています。また、2000年以降に神戸大学で行われた腎移植症例の、5年、10年移植腎生着率は、それぞれ98%、95%と全国の他の施設と比べても遜色のないものとなっています。

神戸大学の腎移植が増えた理由1先行的腎移植

つい20年ほど前までは、「腎移植」を受ける方のほとんどは、「血液透析」あるいは「腹膜透析」などの透析療法をすでに受けている方でした。つまり「末期腎不全」となり「腎代替療法」が必要になった時に、すぐさま「腎移植」という選択肢を取る方は非常に少なかったということです。実際、その当時は腎移植を担当している我々からしても、「末期腎不全」になった方はまず「透析療法」をうけて、その後もしも腎臓を提供してくださるドナーがいれば「腎移植」を考えてもよいか、という認識でした。

ところが最近では、「末期腎不全」になった時点で「腎代替療法」の1つとして「透析療法」か「腎移植」のどちらかを選ぶ、という認識に変わってきました。つまりその時点で「腎移植」を選んだ方は「透析療法」を受けることなく「腎移植」を直接受けることとなるわけです。このような「腎移植」を「先行的腎移植」といいます。10年ほど前から日本でも「先行的腎移植」を選ぶ方がとても増えてきて、神戸大学でもここ最近で「腎移植」を受けた方の約半数が「先行的腎移植」です。

「腎不全」のうちゆっくり進行するものを「慢性腎臓病」(CKD)といいます。「CKD」の進行を防いで、なるべく「末期腎不全」にならないようにする、という治療を担当するのは「腎臓内科」です。ただし「CKD」の治療は、腎臓の働きがそれ以上悪くならないように工夫することはできても、良かった時の状態に戻すことはできません。またある程度以上悪くなった「CKD」は、いつかは「末期腎不全」となってしまい「透析療法」か「腎移植」、いずれかの治療が必要になります。

神戸大学で「先行的腎移植」が増えた理由のひとつとして、「泌尿器科」と「腎臓内科」の連携をしっかりとることで、「腎臓内科」が「末期腎不全」になった「慢性腎臓病」(CKD)の方に「先行的腎移植」の選択肢をもれなく提示し、なおかつ「先行的腎移植」を行っても大丈夫かどうか、内科的な視点で細やかに判断してくれるようになった、ということがあげられます。

神戸大学の腎移植が増えた理由2血液型不適合腎移植、
高齢者間腎移植、
夫婦間腎移植

こちらも20年ほど前までは、たとえばA型のドナー(腎提供者)からB型のレシピエント(腎臓移植を受ける人)など、血液型が違う同士(輸血をしてはいけないと言われる組み合わせ)の場合、特殊な拒絶反応が起こるため腎移植はできないとされていました。しかし最近では、手術前に一定の処置をすることで、血液型が違う同士でもほとんど問題なく「腎移植」が受けられるようになりました。これを「血液型不適合腎移植」といい、昔は血液型が違うことで腎移植を断念していた方でも受けることができるようになりました。最近では生体腎移植を受けられる方の約4分の1程度が血液型不適合となっています。

なお、夫婦間での腎移植は昔からされていましたが、親子や兄弟などと比べると元は他人である夫婦は血液型が違う同士である確率が高くなります。「血液型不適合腎移植」ができるようになり、「夫婦間腎移植」の割合も増えました。

また以前と比べると、「ドナー」(腎臓提供者)、「レシピエント」(腎移植を受ける人)ともにご高齢の方の割合がとても増えています。特にレシピエントについては20年前まではほとんど60歳未満でしたが、最近では約4分の1の方が60歳以上です。また「ドナー」については約半数が60歳以上です。

近年特に、ご主人様などがお仕事をリタイヤされたあと、夫婦2人のセカンドライフをより充実したものにするために、比較的ご高齢のご夫婦の間で、ご主人さまから奥様へ、あるいは奥様からご主人様へ、「夫婦間腎移植」を希望される方が増えた印象があります。

神戸大学の腎移植が増えた理由3低侵襲ドナー腎採取術
(単孔式腹腔鏡、小切開)

ずっと以前は、「ドナー」(腎臓提供者)の「腎臓」を採取する手術は、脇のあたりから側腹部にかけて20cmほど大きく斜めに切開し行っておりました。手術後の創(きず)の痛みが問題で、「腎臓」を提供することを考えた時に少し抵抗を感じることもあったかもしれません。しかし、最近では「ドナー」の負担をできる限り減らす努力がなされており、神戸大学では「単孔式腹腔鏡下ドナー左腎採取術」もしくは「腹腔鏡補助下小切開ドナー右腎採取術」を採用しています。

これにより手術の創部は約6cm~7cm程度と非常に小さくなりました。ちなみに腎臓の横幅は6cm程度のことが多いので、最低限この程度の大きさの切開は必要にはなります。このように「ドナー」の負担が減ったことも腎移植の件数が増えていることの理由かもしれません。

神戸大学の腎移植が増えた理由4チーム医療体制の充実・
レシピエント
コーディネーター

「腎移植」の手術は泌尿器科に入院して行います。しかし腎不全の方が、腎移植を受けた方がよいのか血液透析を受けた方がよいのか、様々な検査をして判断するためには、「腎臓内科」の協力も必要です。また、腎移植の手術の際は全身麻酔をするため、「麻酔科」の協力も必要です。

このように、「腎移植」の手術を行うために各部署との連携を取り調整を行う役割を果たすのが「レシピエントコーディネーター」です。神戸大学には「移植医療部」という部門があり、そこに所属し腎移植を専門とする資格を持った看護師さんが「レシピエントコーディネーター」です。外来の診察時間というのは非常に限られており我々医師が説明できることはどうしても限られていますが、診察時間内に患者さんが疑問や不安に思ったことがなかったかなどを診察後にフォローしたり、患者さんの日常生活の都合を聞いて検査の日程を決めたりするのも「レシピエントコーディネーター」です。

以前は、「腎移植」を希望される方が泌尿器科を受診された場合、その方が「腎移植」の手術をして退院し、やがて外来通院するようになる過程での、各部署への連絡や患者さまとの電話連絡など、ほとんど泌尿器科の医師だけで行っていました。しかし、最近では「レシピエントコーディネーター」がそのような調整を行い、また患者さまの不安にも対応してくれるため、色々なことが円滑に進むようになっています。神戸大学で、大勢の方が「腎移植」を受けられるようになった理由のひとつです。

「腎移植」と
「新型コロナウィルス」

新型コロナ流行下での腎移植施行状況

神戸大学では、日本移植学会の「新型コロナウイルス感染症COVID-19の移植医療における基本指針」の記載に基づき、これまで腎移植医療継続の判断をしてまいりました。2020年3月、最初の緊急事態宣言が発令された当時は、このウィルスが流行し始めて間もなかったこともあり、感染力、感染予防策、一般の方や腎移植患者さまが感染した際の予後、など不明な点ばかりでしたので、我々泌尿器科の判断で一時的に新規の腎移植手術を一旦中断しました。その後、徐々にこのウィルスの特徴が明らかとなり、日本移植学会から「新型コロナウイルス感染症COVID-19の移植医療における基本指針」が発表されました。また院内での感染予防策なども徹底されてきたため、麻酔科や感染症内科などと十分協議のうえ、2020年7月より腎移植手術を再開しました。
しかし、2021年5月になり、第4波が訪れ、再度緊急事態宣言が発令されると、兵庫県下でも医療体制のひっ迫が非常に深刻化し、2020年3月当時とはまた別の理由、つまり今度は新型コロナウイルス患者さんのために病床を確保する目的で、やむなく再度一時的に新規の腎移植手術を中断しました。またこの時期には日本全国の腎移植患者さんの間でも新型コロナウイルスに感染したという報告も増え、全世界的にまた日本国内で、一般の方と比べてやや感染をしやすく、かつやや重症化しやすいということがわかってきました。ただ、新型コロナウイルス流行の影響で、必要な方に腎移植手術を行うことができないことのデメリットも確実に存在すると考えられ、このたび第4波の縮小を機に2021年7月から再度腎移植を再開しております。

腎移植患者さまの新型コロナワクチン

また、ワクチンについては、おなじく日本移植学会からの「日本移植学会 COVID-19 ワクチンに関する提言」をもとに、神戸大学としては、腎移植患者様に新型コロナワクチン接種を推奨しています。
https://square.umin.ac.jp/jst-covid-19/general/index.html

我々、腎移植に関わる医療者もワクチン接種が強く推奨されているため、接種を行いました。もちろん最終的には個人の判断となりますが、根拠の不確かな情報に惑わされることなく、この提言での推奨を参考にして接種するかどうかを決めてください。

最後に

以上、当院での実績を含めて、腎移植に関して一般的なことを説明してまいりました。なかなか理解しにくいことも多いと思います。「私の場合はどうなんだろう?」、「どうせ私は腎移植を受けられないだろう」などと思っている方であっても、もし腎移植に少しでも興味があれば、あまり細かいことは考えず、まずは神戸大学泌尿器科を受診してください。腎移植ができるのか、腎移植をしたほうがよいのか、ご希望にできるだけ沿うように、あなたの身体の状態や生活様式にとって最善となるように、専門科である我々が判断しアドバイスします。ぜひ一緒に考えましょう。
神戸市はもちろん、兵庫県全域にお住まいの方、あるいは県外からの患者さまも過去に多数当院で腎移植を受けられています。ページ最上部、最下部の連絡先「神戸大学 泌尿器科・移植医療部078-382-5666」までご連絡いただければ受診の流れをいつでもご案内いたします。

文責 石村武志

参考HP、リンク

本文中のドナーガイドライン、レシピエントガイドライン、レシピエント選択基準、
COVID-19についての情報は、以下の学会、団体のホームページを参考にしています。

神戸大学 泌尿器科・移植医療部 電話をかける
<担当>
石村武志、小川悟史、横山直己、西岡遵、遠藤貴人、藤本卓也、田代裕己(医師)、
原麻由美、倉石真理、香川友紀(レシピエントコーディネーター)