チェアマンの挨拶

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過去のご挨拶

福本 巧

神戸大学大学院 外科学講座のホームページをご覧いただきありがとうございます。
2019年4月1日付けで外科学講座のチェアマンを拝命いたしました肝胆膵外科学分野の福本巧です。外科学講座を代表し、皆様に一言ご挨拶申し上げます。 神戸大学の外科学講座は他大学に先駆けて平成19年4月にそれまでの第一外科、第二外科が臓器診療科別に再編され、大講座制に移行しました。現在、心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科、食道胃腸外科、乳腺内分泌外科、肝胆膵外科の6分野に加えて、神戸大学の第二附属病院である国際がん医療・研究センター病院で主に外科的診療を行っている国際がん医療・研究推進学、兵庫県と連携して低侵襲外科の県下への普及を行っている低侵襲外科学が加わり、8分野が機能的に診療・研究・教育活動を行っています。

外科学講座再編の目的は第一外科、第二外科の専門領域の重複を排除し、専門性を高め、患者様に分かりやい、安全で質の高い外科診療を提供することでしたが、再編後12年が経過し、当初の目的以外にも望ましい変化が生じています。その最も重要な変化は外科学講座内の風通しが格段に良くなったことです。神戸大学の外科学講座では月に一度、講座会議を開催し、外科学講座の諸問題を話し会っていますが、それ以外にいつでも相談できる環境が構築されています。この講座の空気感がとても重要だと考えています。今やこの空気感が関連施設にも伝わり、関連施設の臓器別診療体制も非常に良好に機能しています。また外科学講座の親睦会である同門会も完全に一つに纏まりました。

私は、神戸大学は外科学講座改革に最も成功した大学の一つであると確信しています。第二の変化は教育体制の充実です。外科研修の重要な里標はSubspecialtyと呼ばれる専門分野、例えば消化器外科や心臓血管外科などの専門医資格の取得ですが、その前提として日本外科学会の外科専門医の資格が必要となります。大講座制となったことで専門医取得に必要な症例の経験、取得が関連病院を含めて一体的に可能となっています。

さらに早期体験学習として医学部学生、初期研修医を対象としたハンズオンセミナーや外科専攻医、若手外科医のOff the Job Training として大動物を用いた腹腔鏡トレーニングなどを定期的に開催し、効率的な外科研修を可能としています。第三の変化は外科専門領域選択の自由度の向上です。今まで外科医の専門分野は2年間の初期研修終了時に決定していましたが現在は専攻医として3年間を過ごし、卒後5年目終了時まで選択可能となっています。実際にはその後に変更することも問題ありません。

在の神戸大学の外科学講座は他大学に先駆けて実施した再編の成果もあり、非常に順調な歩みを続けています。2018年度は再編前に比較し、手術症例数は倍以上に増加し、また神戸大学関連の外科専門医プログラムには26人の登録者がありました。しかし外科医志望者の減少、不透明な専門医制度、働き方改革の完全実施、国の財政状況の悪化、高齢化社会の進行など外科を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。医療に投入できる資源には限りがあり、国民の医療ニーズの増大に対応し、質の高い外科医療を提供するには、無駄の削除、効率化ともに法改正を伴うチーム医療の推進、女性外科医の劇的登用、就業支援などパラダイムシフトを伴う持続的な外科診療体制の改革が必要です。そのためには常識に囚われない思考、対話、公平性、透明性などが不可欠ですが、阪神間モダニズムの伝統を受け継ぎ、自由な空気の漂う神戸だからこそこの改革を牽引できると確信しています。

掛地 吉弘

Surgeryの語源はラテン語のChirurgiaからであり、Cheiro(手)とergon(技)を合わせた言葉で、”手の技”を意味します。文字通り”手の技”、手術をして病を治そうとするのがSurgeryです。手術が治療の中心ですが、外科医の仕事は手術だけではありません。必要な検査をして診断し、その患者さんにとって最良の治療を考えます。例えば癌の治療法も、手術、化学療法、放射線療法、など様々です。メスを入れて切った方が良いのか、切らない方が良いのか、冷静に客観的な判断が求められます。局所的な治療である外科手術で根治が望めるのであれば、手術に向けて全身管理を行い、最高の技術で手術を施し、術後は合併症を起こさないように全身管理を行います。一人の患者さんにとって必要なことを全て行う、あるいは管理することを外科医は求められています。手術を含めて、様々な治療を自ら施したいと考える人に、外科は広く門戸を開いています。

1846年に米国BostonのMassachusetts General Hospitalで全身麻酔手術が行われて、まだ170年ほどしか経っていません。人類が手術時の痛みから解放されて2世紀にも満たない短い間に、外科手術は日進月歩の進化を続けています。消毒法の確立、血液型の発見による輸血の実施、抗生物質の開発により手術の安全性が確保されました。X線の発見や内視鏡の発明で診断能が向上し、20世紀には拡大手術が盛んに行われました。21世紀になると低侵襲手術が求められ、開胸・開腹手術から胸腔鏡・腹腔鏡を用いた内視鏡外科手術、そしてロボット手術へと発展してきています。より良い治療を求めて、医学、工学、理学など多領域の英知を結集して治療成績を向上させる試みを続けています。

外科はきつい、汚い、危険(3K)な職場と言われてきましたが、労働条件は改善されています。意味もなく職場に縛り付けられたり、先輩から罵声を浴びてろくな指導も受けない徒弟制度のような環境は過去のごく一部の遺物となっています。21世紀のデジタル化された社会において、無駄なく効率の良い外科専門医の育成に学会も交えて取り組んでいます。定型化された手術手技はビデオで反復学習できますし、実際の手術もビデオに録画して復習できます。手術室では易しい手技から高難度の手技まで段階的に習得できるよう指導体制を整えています。外科手術にとって大切なpointは何か、外科医に求められる手術のセンスとは? 決して手先の器用さだけではない外科の真髄、本質が身に付くように指導します。経験した手術はNational Clinical Databaseに登録して、専門医に必要な症例数を一定期間に経験できるようになっています

外科の醍醐味は、手術を受けて快復して笑顔で退院していく患者さんが教えてくれます。視診、聴診、触診、打診、など五感を使って患者さんを診る、胸腔内や腹腔内がどのような状態になっているのか推察し、処置や手術で直接的に手を動かして改善できるのか、医師として頭と体を駆使して臨みます。身体的、精神的に病に苦しんでいる患者さんに、手術を通して外科ができることを精一杯の努力で試みます。外科はチーム医療なので、一人で孤軍奮闘することは避けて、先輩、後輩が力を合わせて、看護師さんや薬剤師さんなど他職種の協力も得て治療にあたります。最高の医療を提供するために、各人が何ができるか、組織をどう動かすか、常に工夫してより良いstepへ進めるように考えています。一人の研修医が専門医、指導医と確実に成長していくように、明確なcareer pathを呈示します。もちろん画一的なものではなく、個人の事情に合わせたtailored career pathです。外科を志望してくれる女性医師に対しても、work life balanceを考え、可能性が拡がるように皆で応援します。医学部を卒業した後の医師人生は40年を越えるspanがあります。卒後2年間の初期研修、3年間の後期研修に留まらず、中・長期の経歴を最良のものにするために必要な情報、資材、環境を準備します。

神戸大学の外科は臓器別に食道胃腸外科、肝胆膵外科、乳腺外科、心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科に分かれ、国際がん医療・研究推進学、低侵襲外科学も併せて8分野が機能的に診療活動を行っています。各分野の専門性を活かすとともに、全体がまとまって一つの外科学講座として動いています。自分のやりたい分野が決まっている方はもちろん、まだ専門分野は決めていないけど外科医になりたい方も大歓迎です。様々な分野、領域があり、選択の幅が広いのも外科の利点です。興味がある分野が変わった時に柔軟な対応ができますし、その興味がある分野で世界中でtop levelの施設を紹介することも可能です。

コンピュータ技術が進み、artificial intelligence (AI)により様々な職種が取って代わられることが予想されていますが、外科医の仕事は発展、拡張を続けています。病気の本態を遺伝子レベルで理解し、細胞、組織、臓器のレベルで謙虚に最良の手術を考えて、人間としての患者さんに敬意をもって接する外科医が求められています。刺激に満ちた、充実して内容の濃い人生を考える際に、外科は魅力のある選択肢の一つです。気軽に外科の門を叩いてください。暖かく誠意をもってお応えします。

大北 裕

Surgery: Operating someone who else has nowhere to go とは 我が師、John W Kirklin の警句ですが、これほど外科医の矜持を表した文章はありません。

患者さんは症状があればまず、内科医のところに行きます。そこでスクリーニングがかかり、臓器担当の内科専門医へ回されます。ガイドラインに照らしたうえで、最初に検討されるのが内科的治療で、次いで侵襲度の低さからカテーテル インターベンション、内視鏡などの低侵襲治療、最後に 外科治療が選択されます。
最初から外科手術を希望して病院にやってくる患者さんなどは皆無に近く、誰しも、出来ることならば“切らずに治したい”と思うのは当然です。その、嫌がる患者さんを、皮膚に傷つけて、手術するのが外科医です。それ故に、外科医は高い倫理観を持って手術に臨まなければならない、また、内科医から手術の依頼を受けた時には絶対逃げない、患者さんにとって外科医は最後の砦たる自負心を持って事に当たらねばならない、と師から教えられました。また、ひとたび手術するからには、何らかのメリットを患者さんにもたらすものでなくてはなりません。曰く、胸の痛みが無くなる、呼吸が楽になる、沢山歩けるようになる、将来、突然死の不安が無くなる、などです。“First do no harm” とは、古代の謙虚な類い希なる外科医が遺した言葉です。

これらの外科の原則を実際の患者に当てはめるときに様々な齟齬が生じます。医学は知識と処置という分野に整然と整備されていると思われがちでありますが、実はそうではありません。医学は不完全な科学で、刻々変化する知識と不確かな情報に左右され、”To error is human”の例えどおり誤りから免れ得ない人々が行う手作業で、危険と隣り合わせ、地雷原を歩くようなものです。医療者が行う処置は科学に基づいていますが、習慣や直観、ときには単純な推測も介在しています。一方、患者さん個々の多様性はいよいよ拡散し、それらに対する医師の知識と技能の差は埋めがたく、その落差ゆえにあらゆることが複雑になります。特に外科手術においてこの傾向は顕著で、Medicine is science of uncertainty and art of probability”という Sir William Oslerの箴言をこれほど具現している分野は他にありあません。500年前にAmbroïse Parêがトリノ戦場で“Le le penfay、 Dieu le guarit(我処置し、神癒したまう)”と詠んだ生命に対する畏怖心、謙虚さを外科医は忘れてはなりません。

本邦の外科学を取り巻く諸問題、すなわち長いトレーニング期間、厳しい労働環境、乏しいインセンティブ、マスコミや司法からの不見識な圧力などには、諸方面からの問題提起、解決法などが模索されていますが、大きな成果は挙っていません。このような医療事情が若い人々をして“外科学”の門を叩くことを逡巡させているのも無理ないと思えます。ゆとり教育を受け、ITを甘受した世代は、小綺麗に早く一人前と呼ばれ、拘束時間が短い、答えが明快な分野を選びがちですが、外科学はその対極にあるものといえます。日本外科学会への入会員数は毎年減少の一途を辿り、将来、日本でがんの手術が受けれなくなるという危惧も生まれています。患者さんにとって、最後の砦が崩れそうになっているのです。

外科の醍醐味といいますと、ダイナミックな手術、困難な手術をやり遂げたときの達成感、昂揚感は何物にも代え難いものですし、瀕死の患者さんが外科手術により救命され、元気に退院されるときに、この職業を選択して良かった、としみじみ思います。研究室でも自分の立てた仮説が、実験動物により見事に立証され、真理の山を一歩登ったと思えるときは研究者冥利に尽きます。また、後輩達の心技の目覚ましい進歩を目にするにつけゾクゾクとする嬉びを感ずるのも格別です。

“世に病の種は尽きまじい”患者さんがおられる限り、外科学は必要です。外科学の将来は、いよいよ低侵襲化の方向に向かうでしょうし、分子生物学的アプローチを生かした術式が必要となり、人工臓器、移植医療も大きく変貌、前進することと思います。ただ、自分の頭の命令を、自分の手が実現する技術的秘技に魅せられた者は外科学の呪縛から逃れることは出来ません。松尾芭蕉は“挫折したときには何でも良いから手を使え”と弟子に諭したと言います。

外科学の毎日は刺激的で、興奮に満ちています。一人前の外科医になるのに安穏、平坦な道はありませんが、苟も国民血税の補助を受けて医師免許を手にしたからには、自分の受けた恩恵を社会に還元すべく一生懸命頑張って欲しいものです。良医は国を治すという意味で、我々に”国手“たる名称が与えられています。国家的に外科医が足りない状況や、若い力が必要とされている状況を看過するほど諸君は怯懦ではないと思います。今は亡き Micheal E DeBakey先生が、医学部学生に送った言葉、“As long as God has given you a good body and a good mind、 you should use it”の意味は重いものがあります。

後輩諸君、君達、若い、探求心に燃えた、野心的な医学徒が活躍できる場を外科学は提供できます。何事も経験です。一度、外科学に浸ってみませんか?やり直しが効くのは若さの特権です。見る前に跳べ!です。

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