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3)膵β細胞におけるインスリン分泌機構の解明
- [1] 全反射型蛍光顕微鏡を用いたインスリン分泌顆粒動態の制御機構の解明
全反射型蛍光顕微鏡(total internal reflection fluorescence microscopy, TIRFM)は細胞膜から100 nm以内に存在する分子を特異的に検出できることから、細胞膜で起こる細胞活動の解析で広く利用されています。当研究室で対象としている膵β細胞では、グルコースやカリウム刺激によるインスリン顆粒動態の検討から、顆粒動態の特性により3種類の様式に分類されることが明らかになりました(図)。
- 具体的には
(1)あらかじめ細胞膜にドッキングしていた顆粒(old faceと呼びます)が刺激によって細胞膜に融合する様式、(2)刺激によって初めて細胞膜にリクルートメントされた顆粒(restless newcomerと呼びます)が、瞬時に細胞膜に融合する様式、(3)刺激によって初めて細胞膜にリクルートメントされた顆粒(resting newcomerと呼びます)が一時的にドッキングした後、細胞膜に融合する様式を発見しました(Shibasaki et al., PNAS, 2007)。
- グルコース刺激では一過性の第1相および持続的な第2相のいずれも大部分はrestless newcomerによって引き起こされることが判明しました。従来、インスリン分泌の第1相はすでにドッキングしている顆粒 (old face)が担うモデルが通説でした。今回の研究成果は、従来のモデルを書き変える極めて意義ある成果であると考えられます。糖尿病患者では第1相のインスリン分泌が早期から障害されることが多く、今回の発見により糖尿病発症の病因解明や治療法の開発に向けてのアプローチが大きく変わる可能性があり、臨床的な観点からも重要な発見であると考えられます。
- [2] cAMP/Epac2/Rap1によるインスリン分泌増強機構の解明
- グルコースの刺激によるインスリン分泌は、腸管内分泌細胞から分泌されるインクレチンと呼ばれる腸管ホルモンによって数倍以上に増強されます。GLP-1やGIPなどのインクレチンは膵β細胞のcAMP産生を惹起し、PKA依存性、非依存性の経路を活性化することでインスリン分泌を増強します。当研究室の解析から、後者のPKA非依存生経路を担うEpac2(Ozaki et al, Nat Cell Biol, 2000; Kashima et al, JBC, 2001)がRap1を活性化することで、インスリン分泌を増強することを見いだしました(Shibasaki et al., PNAS, 2007)。
- また、全反射型蛍光顕微鏡を用いてcAMPによるインスリン分泌顆粒動態の制御を検討したところ、グルコース刺激によって、インスリン分泌顆粒の膜融合の第1相と第2相ともにrestless newcomerが増強されたことから、cAMPは細胞内からインスリン分泌顆粒をリクルートメントすることで、インスリン分泌を増強することが初めて明らかになりました。またEpac2によるインスリン分泌顆粒制御についてEpac2欠損マウスから単離した膵β細胞を用いた検討とインスリン分泌顆粒動態のデータに基づいて開発されたインスリン分泌のシミュレーションモデルから、Epac2/Rap1は分泌顆粒の分泌顆粒プールのサイズを増やすことで、インスリン分泌の第1相を増強することが示唆されました(Shibasaki et al., PNAS, 2007)。
- [3] インスリン分泌シミュレーターの開発
インスリン分泌の新たな解析方法として、コンピューターシミュレーションによる「インスリン分泌シミュレーターの研究開発」を行っています。具体的にはTIRFMで得られたインスリン顆粒動態をもとに、インスリン分泌顆粒の動態を3次元ランダムウォークでモデル化しました。このモデルに1)インスリン顆粒の細胞膜へのリクルートの促進と2)細胞膜の近傍の顆粒プールの存在との2つの要素を取り入れたシミュレーションを行うと、2相性のインスリン顆粒の膜融合を再現することができました(図)。
また、このモデルを利用し、TIRFMで観察されたcAMPによる膜融合の増強を再現することができ、さらにEpac2欠損膵β細胞で見られたインスリン顆粒の膜融合における第1相の増強の消失には、顆粒プールのサイズの減少が関与することが予測されました(Shibasaki et al., PNAS, 2007)。
- コンピューターシミュレーションとバイオイメージング技術の融合によるインスリン分泌機構の研究は、世界に先駆けたアプローチであり、これまでにない新たな発想によるインスリン分泌機構の解明につながることが期待されます。
- [4] Epac2 FRETセンサーの開発
- Epac2はcAMPと結合することにより、構造変化を起こし、Rap1を活性化することが報告されています。当研究室ではEpac2構造変化の特性に基づき、N末端をECFPで、C末端をEYFPで標識したFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer蛍光共鳴エネルギー移動)センサーを作製しました。このセンサーを利用することで、生細胞でのEpac2の活性の変化をリアルタイムで解析することができます。現在、Epac2の活性を制御する新たな分子のスクリーニングを試みています。同定された分子は、Epac2を介したインスリン分泌制御機構の新たな発見につながることが期待されます。
- [5] 膵β細胞の代謝シグナルによるインスリン分泌制御機構の解明
- グルコースで刺激された膵β細胞では、グルコースの代謝産物が代謝シグナルとなってインスリン分泌が惹起されると考えられています。これらの代謝産物は極めて多岐に渡りますが、ATPをはじめとした幾つかの分子が代謝シグナルとして挙げられますが、全容解明には至っていません。代謝シグナルによるインスリン分泌制御を明らかにするために細胞の全代謝産物の包括的解析(メタボローム解析)を行っています。
- 具体的にはグルコース刺激によるインスリン分泌能が異なる複数の膵β細胞株MIN6の比較メタボローム解析をすることで、インスリン分泌において鍵となる代謝シグナルの同定を行っています。本アプローチは実際の細胞活動を反映する代謝機能を包括的に知ることが出来ることから、今後は代謝シグナルの同定のみならず糖代謝異常の疾患マーカーの開発など幅広い利用が期待されます。
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