分子代謝医学
神戸大学大学院 医学系研究科
Division of Molecular and Metabolic Medicine
ホームへ戻る サイトマップ お問い合わせ English
研究理念 組織概要 研究成果 募集情報 先輩学生の声
研究成果
研究概要ページへ

研究内容詳細

1)膵β細胞におけるインスリン分泌機構の解明

[1] 全反射型蛍光顕微鏡を用いたインスリン分泌顆粒動態の制御機構の解明
インスリン分泌顆粒動態の制御機構 全反射型蛍光顕微鏡(total internal reflection fluorescence microscopy, TIRFM)は細胞膜から100 nm以内に存在する分子を特異的に検出できることから、細胞膜で起こる細胞活動の解析で広く利用されています。当研究室で対象としている膵β細胞では、グルコースやカリウム刺激によるインスリン顆粒動態の検討から、顆粒動態の特性により3種類の様式に分類されることが明らかになりました(右図)。
具体的には
(1)あらかじめ細胞膜にドッキングしていた顆粒(old faceと呼びます)が刺激によって細胞膜に融合する様式、(2)刺激によって初めて細胞膜にリクルートメントされた顆粒(restless newcomerと呼びます)が、瞬時に細胞膜に融合する様式、(3)刺激によって初めて細胞膜にリクルートメントされた顆粒(resting newcomerと呼びます)が一時的にドッキングした後、細胞膜に融合する様式を発見しました(Shibasaki et al., PNAS, 2007)
 グルコース刺激では一過性の第1相および持続的な第2相のいずれも大部分はrestless newcomerによって引き起こされることが判明しました。従来、インスリン分泌の第1相はすでにドッキングしている顆粒 (old face)が担うモデルが通説でした。今回の研究成果は、従来のモデルを書き変える極めて意義ある成果であると考えられます。糖尿病患者では第1相のインスリン分泌が早期から障害されることが多く、今回の発見により糖尿病発症の病因解明や治療法の開発に向けてのアプローチが大きく変わる可能性があり、臨床的な観点からも重要な発見であると考えられます(Seino et al., JCI, 2011)
[2] cAMP/Epac2/Rap1によるインスリン分泌増強機構の解明
 グルコースの刺激によるインスリン分泌は、腸管内分泌細胞から分泌されるインクレチンと呼ばれる腸管ホルモンによって数倍以上に増強されます。GLP-1やGIPなどのインクレチンは膵β細胞のcAMP産生を惹起し、PKA依存性、非依存性の経路を活性化することでインスリン分泌を増強します。当研究室の解析から、後者のPKA非依存生経路を担うEpac2(Ozaki et al., Nat Cell Biol, 2000; Kashima et al., JBC, 2001)がRap1を活性化することで、インスリン分泌を増強することを見いだしました(Shibasaki et al., PNAS, 2007)
 また、全反射型蛍光顕微鏡を用いてcAMPによるインスリン分泌顆粒動態の制御を検討したところ、グルコース刺激によって、インスリン分泌顆粒の膜融合の第1相と第2相ともにrestless newcomerが増強されたことから、cAMPは細胞内からインスリン分泌顆粒をリクルートメントすることで、インスリン分泌を増強することが初めて明らかになりました。またEpac2によるインスリン分泌顆粒制御についてEpac2欠損マウスから単離した膵β細胞を用いた検討とインスリン分泌顆粒動態のデータに基づいて開発されたインスリン分泌のシミュレーションモデルから、Epac2/Rap1は分泌顆粒の分泌顆粒プールのサイズを増やすことで、インスリン分泌の第1相を増強することが示唆されました(Shibasaki et al., PNAS, 2007)
[3] スルホニル尿素薬の新たな標的分子してのEpac2の発見
 インスリン分泌におけるEpac2の役割を解明する目的でEpac2 FRET (fluorescence resonance energy transfer)センサーを開発し、Epac2の活性化を引き起こす化合物を検索しました。その結果、偶然にも、糖尿病治療薬として広く用いられているスルホニル尿素(SU)薬であるトルブタミド(TLB)とグリベンクラミド(GLB)がFRETの低下を引き起こす(Epac2を活性化する)ことを発見しました(Zhang et al., Science, 2009; Seino et al., JDI, 2010)。また、Epac2欠損マウスの単離膵島では、TLBならびにGLB刺激によるインスリン分泌反応が明らかに低下していました。さらに、経口グルコース負荷試験の際のTLBの効果を検討したところ、Epac2欠損マウスでインスリン反応が有意に低下し、血糖降下作用が減弱しました。SU薬は現在最もよく使用されている糖尿病治療薬の1つであり、膵β細胞のATP感受性カリウム(KATP)チャネルの調節サブユニットであるSUR1に結合してチャネルを閉鎖することによってインスリン分泌を刺激すると考えられ、SU薬の標的分子としてはSUR1が唯一知られていました。今回の発見は、SU薬のインスリン分泌刺激作用にはEpac2を介するメカニズムも重要であることを明らかにしました。これはSU薬による糖尿病治療を新しい視点から提示する予想外の発見であり、医療現場に大きなインパクトを与えるものと思われます。インクレチンの作用もEpac2を介するメカニズムが重要であることを合わせて考えると、Epac2は糖尿病治療に対する新たな創薬の標的として期待されます。
 最近、Epac2AにおけるSU薬の結合部位を同定し、SU薬とcAMPが協調的にEpac2Aを活性化することを見出しました(Takahashi T. et al., Sci Signal, 2013)。さらに、Epac2A欠損マウスを用いた解析から、Epac2Aを介したSU薬とインクレチンの相互作用が両者の併用によるインスリン分泌増強において重要であることを明らかにしました。また、SU薬の種類(構造)によりEpac2Aとの結合様式が異なり、インクレチンとの併用効果に違いがあることも明らかになりました(Takahashi H. et al., Diabetes, in press)。SU薬とインクレチン関連薬の併用は、多くの2型糖尿病患者の血糖改善に効果がありますが、重篤な低血糖を来す症例も報告されています。実際に、臨床のビッグデータ解析から、インクレチン関連薬とSU薬による重篤な低血糖症例の多くがEpac2Aに結合するSU薬を使用していることが示されています(Yabe D et al., J Diabetes Investig, 2014)。一方、SU骨格を持たずEpac2Aを特異的に活性化する化合物は低血糖を誘発しないと考えられることから、Epac2Aを介したインスリン分泌機構の解明は安全かつ有効な糖尿病治療のために極めて重要です。現在、Epac2Aを特異的に活性化する化合物のスクリーニングを進めています。
figure02
[4] 膵β細胞の代謝シグナルによるインスリン分泌制御機構の解明
 グルコースで刺激された膵β細胞では、グルコースの代謝産物が代謝シグナルとなってインスリン分泌が惹起されると考えられています。これらの代謝産物は極めて多岐に渡りますが、ATPをはじめとした幾つかの分子が代謝シグナルとして挙げられますが、全容解明には至っていません。代謝シグナルによるインスリン分泌制御を明らかにするために細胞の全代謝産物の包括的解析(メタボローム解析)を行っています。
 具体的にはグルコース刺激によるインスリン分泌能が異なる複数の膵β細胞株MIN6の比較メタボローム解析をすることで、インスリン分泌において鍵となる代謝シグナルの同定を行っています。本アプローチは実際の細胞活動を反映する代謝機能を包括的に知ることが出来ることから、今後は代謝シグナルの同定のみならず糖代謝異常の疾患マーカーの開発など幅広い利用が期待されます。
このページの先頭へ
Copyright(C)2013 Division of Molecular and Metabolic Medicine Kobe University Graduate School of Medicine. All Rights Reserved.