第28回吉馴学術記念講演会プログラム

テーマ 「最先端医療への期待」

日 時  平成15年7月26日(土) PM2:00〜4:20

会 場  神戸大学医学部「神緑会館」 (078) 382-6090

本講演会は、日本小児科学会認定医のための研修

8単位、並びに日医生涯教育講座3単位です。

主 催  日本小児科学会兵庫県地方会

後 援  兵庫県医師会・神戸市医師会


講演1.ES細胞を用いた再生医学:展望と問題点

座長:  先端医療センター センター長代行
     神戸市立中央市民病院 副院長 
  西 尾 利 一 氏
 
演者:  発生・再生科学総合研究センター
     細胞分化器官発生研究グループディレクター
     笹 井 芳 樹 氏

講演2.新生児脳障害の現状とその治療戦略

座長:  兵庫県立こども病院 院長
     中 村   肇 氏
 
演者:  神戸大学大学院医学系研究科成育医学講座小児科学助教授
     常 石 秀 市 氏


講演1.ES細胞を用いた再生医学:展望と問題点    笹 井 芳 樹 氏

 神経系は再生能が低い典型的組織であり、疾病・損傷等による神経細胞欠損は人為的に神経細胞・組織を補充する必要が出てくる。脊椎動物の神経系は発生初期に外胚葉から分化するが、その際オーガナイザーから分泌される神経誘導因子が分化誘導を促す。こうしたin vivoで発生学の研究成果が幹細胞生物学の進歩とともに、試験管内での再生医学的開発に応用されるようになってきた。本講演ではマウス・サルES細胞を用いた試験管内神経分化系のデーターをご紹介し、再生医学的展望について討論する。演者らが最近開発した胚性幹細胞(ES細胞)からの分化系によるドーパミン神経の産生法(SDIA法)について、特にその高い分化誘導効率について詳細に紹介する。パーキンソン病の細胞治療への応用が注目されているが、これらの取り組みを紹介するとともに、ES細胞を用いたいくつかの研究を討論する。さらに再生医療の現状および克服すべき問題点と関西圏での政府支援プロジェクトをも総括する。

 

講演2.新生児脳障害の現状とその治療戦略      常 石 秀 市 氏

 

 周生期に発生する脳障害は、原因と程度に差はあれ、幼若な脳の発達を障害し、病児とその家族の人生に大きな運命を負わせてしまう。低出生体重児の障害なき救命率が飛躍的に向上した現在、周生期脳障害の克服は新生児医療における大きな課題となっている。胎生期に発生する奇形症侯群や脳血管障害への出生前治療的介入はまだまだ困難であり、今後の幹細胞を用いた再生医療の発展に期待したい。一方、周生期に原因を求めうる低酸素性虚血性脳症は、産科学の技術向上にもかかわらず、満足のいく発生率にまでは低下していないのが現状である。

 この治療的介入の可能な低酸素性虚血性脳症に対する治療戦略として、我々は二つの手法を研究中である。一つは、実際に臨床研究が始まっている脳低温療法である。脳深部温度を34〜35℃に低下させることで脳細胞のエネルギー消費を抑制し、エネルギー枯渇による障害から防護するものである。その作用機序として、アポトーシスの抑制、あるいは積極的な新しいタンパク質の誘導も報告されている。

 二つ目は、より未分化で幼若な細胞ほど障害に抵抗性を示すという事実から、脳細胞を外因性薬剤によって可逆的に分化逆行させ、障害への閾値を高くし、障害環境が是正された後に正常な分化過程へ戻すという手法である。その作用点として、神経系にも広く発現しているトロンビン受容体に注目して研究を展開中である。

 本講演では、新生児脳障害の現状として、その疫学と代表的症例を呈示する。そして、その治療戦略として脳低温療法と細胞分化制御法の基礎的研究を紹介し、低酸素性虚血性脳障害の克服に向けた取り組みを解説したい。