国立成育医療センター 病院長 柳 澤 正 義
少子化が急激に進行し、疾病構造が大きく変化し、子ども達の心と行動の問題が深刻になるとともに、小児医療も従来の枠から踏み出さざるを得ない状況となってきた。現在の医療保険制度における小児医療の不採算性から病院小児科が危機的状況にあり、また、小児救急医療も破綻に瀕している。小児医療は転換の方向を摸索しており、「小児医療から成育医療へ」ということも方向の一つである。
そのような状況の中で、平成14年3月1日、わが国で5番目のナショナルセンターとして国立成育医療センターが開院した。新センターでは、小児医療、母性・周産期医療に加えて、生殖医療、胎児医療、思春期医療、小児慢性疾患をもつ成人患者の医療まで幅広く包括的・継続的な医療が行われる。
現在、多くの人が抱いている「成育医療」の概念は、ライフサイクルとして捉えた医療体系、すなわち、受精卵から出発して胎児、新生児、乳児、幼児、学童、思春期を経て、生殖世代となって次世代を生み出すというサイクルにおける心身の病態を包括的に診る医療ということである。医学・医療の進歩、高度化とともに専門分化が進行してきたが、近年、統合・総合ということが求められ、患者を全人的・包括的に診ることの重要性が強調されている。救急医療も含めて小児総合医療が重視されるべきであり、成育医療の概念の中には、そのような考え方も包含されている。「成育」あるいは「成育医療」という言葉は、従来、医学・医療の領域であまりなじみのないものであったが、次第に広く認知され、今後さらに普及していくものと思われる。「成育医療」の理念とそれを先導する国立成育医療センターが、21世紀初頭に当ってわが国の小児医療を転回させ前進させる推進力となることを期待されている。