第26回 吉馴学術記念講演会プログラム

日 時  平成13年7月28日(土) PM 2:00〜4:40
会 場  兵庫県民会館 11階ホール
(078)321-2131
 
本講演会は、日本小児科学会認定医のための研修
8単位、並びに日医生涯教育講座3単位です。
主 催  日本小児科学会兵庫県地方会
後 援  兵 庫 県 医 師 会
     神 戸 市 医 師 会

テーマ 「新生児の聴覚スクリーニング」

1.(PM2:00〜3:00)
    座長  神戸大学大学院医学系研究科
        成育医学(小児科学)講座 教授  中 村   肇
 
新生児聴覚スクリーニングの意義とわが国における現状
        東京女子医科大学 母子総合医療センター
                 助教授 三 科   潤
2.(PM3:10〜4:40)
    座長  神戸大学大学院医学系研究科
        器官治療医学(耳鼻咽喉・頭頚部外科学)講座
                     教授  丹 生 健 一
新生児聴覚スクリーニングの原理および発見後の治療成果
        東京大学大学院医学系研究科・医学部
        感覚・運動機能医学(耳鼻咽喉科学)講座
                  教授 加 我 君 孝
トップページへ
 

講演1
新生児聴覚スクリーニングの意義とわが国における現状
 
            東京女子医科大学 母子総合医療センター
                          三 科   潤
 
 先天性および新生児期発症の聴覚障害の発生頻度は1000出生中に1人から2人と言われている。聴覚障害を放置しておくと、言語発達など様々な面での発達が遅れる。聴覚障害はその程度が重いほど早く気付かれるが、通常は2歳頃になっても殆ど意味のある言葉が話せないことで聴覚障害が発見されることが多い。ところが、言語の発達には臨界期があり、適切な時期に言語指導が行われなかった場合には、言語の発達は阻害される。このため、早期に聴覚障害を発見し、言語発達の援助を行うことが重要である。
 聴覚障害の早期療育のために、生後早期に発見しようとするスクリーニングの試みは古くからあったが、これまでの方法は感度および特異性が共に低く、有効ではなかった。ところが、近年、聴性脳幹反応(ABR)や耳音響放射(OAE)を用いた、自動解析機能を持つ聴覚スクリーナーが欧米で開発され、従来の方法に比して有効なスクリーニングが出来るため、急速に普及してきた。新生児の聴覚障害の約半数は、ハイリスク児であるが、残りの半数は、出生児には何らの異常を示さない児である。これらの児を発見するためには、全出生児を対象とした聴覚スクリーニングを行うことが必要である。
 我々は、平成10年度より厚生科学研究「新生児期の効果的な聴覚スクリーニング方法と療育体制に関する研究」を開始し、新生児聴覚スクリーニングに関する検討を行ってきた。全国の17施設に於いて実施した新生児聴覚スクリーニングの結果および、早期療育体制の調査結果を述べる。
 また、平成12年度からの新生児聴覚検査事業の試行的実施について、その進行状況を述べる。
戻る

講演2
新生児聴覚スクリーニングの原理および発見後の対策および成果
 
            東京大学医学系研究科・耳鼻咽喉科学教室
                          加 我 君 孝
 
 早期に乳幼児の難聴を発見し、補聴器を装用させて、聴いて話すように目指すauditory oral教育の重要性は、1960年代より米国のダウズが提唱し、難聴のスクリーニングが始まった。なぜauditory oralか。視覚的言語教育すなわち手話や指文字を先行させると、その後、補聴器を装用させても耳を使おうとはしなくなるからである。Auditory oralは聴いて話すことが出来るように教育し、普通児と同等の言語によるコミュニケーション能力と思考力を身に付けさせようとするものである。
 しかし、1960年代のスクリーニングは楽器音に対する反応をみたり、アンケートによる素朴なものに過ぎず、正確な評価は出来なかった。1970年に、聴性脳幹反応(ABR)が発見され革命的な変化が生じた。これは脳波誘発電位の新しいタイプで、睡眠下に正確に中耳・内耳の末梢の聴力測定と脳幹の聴覚伝導路の障害を発見できるようになり、あっという間に世界中に拡がり、すでに30年が過ぎた。最も有用な誘発電位と見なされている。ABRを正しく記録するには経験と熟練と判定する能力が必要である。NICUでもよく使われている。我が国ではこれまで、保健所の3〜4ヵ月健診で難聴が疑われた症例を耳鼻咽喉科でABRで精査してきた。米国では約10年前より自動ABRが考案され、新生児聴覚スクリーニングに応用されるようになった。これは、経験も熟練も判定する能力も不要で、判定も自動化しており、結果が合格不合格として表される。一方、欧州では耳音響放射(OAE)が、やはり自動化された検査機器として1980年代になって開発され、新生児のスクリーニングとして応用されるようになった。このように、原理の異なる2つの検査機器が新生児の聴覚スクリーニングのために使われるようになった。我が国では班会議の研究を経て厚生労働省のモデル事業として平成13年度から始まったところである。
 新生児の聴覚スクリーニングの問題点は、自動ABRは精度が高いが、OAEはfalse positiveの頻度が高く、検査機器にも問題があること、もう一つは新生児側の問題点である。スクリーニングで不合格でも後に正常化する例のあること、逆にスクリーニング合格でも後に難聴の出現する場合があり得ること、二次検査のABRで詳細に反応を再検討し、やはり難聴が疑わしい場合、どのような施設で、補聴器を装用させ、教育をするか、それぞれの地方で多くの課題が残っていることである。あらゆる病気と同様で、診断も難しいが治療はもっと難しいことである。
 幸運にも早期発見され早期教育をすれば、全員がauditory oral教育で、普通の子どものようになるのではない。聴力がどの程度であるかと関係がある。聴力レベル90dB以下であれば普通児の能力を身に付けることが出来る。90dB以上では様々である。もし聴覚活用がよくなければ3歳前後で人工内耳手術を行うことで良い結果が得られるようになった。いずれにしろ、21世紀は難聴の子ども達にとって歴史的には最も期待出来る希望の時代の到来である。
戻る