第25回 吉馴学術記念講演会プログラム

日 時  平成12年7月22日_ホ PM 2:00〜4:30
会 場  兵庫県民会館 11階ホール
(078)321-2131
本講演会は、日本小児科学会認定医のための研修
8単位、並びに日医生涯教育講座3単位です。
主 催  日本小児科学会兵庫県地方会
後 援  兵 庫 県 医 師 会
     神 戸 市 医 師 会

造血幹細胞を用いた再生医療

講演1(pm2:00〜3:10)      座長 谷澤 隆邦

  臍帯血移植と近畿臍帯血バンク

   兵庫医科大学小児科学講座 助教授

                  山本 益嗣

講演2(pm3:20〜4:30)      座長 中村  肇

  造血幹細胞研究の最近の進歩

   京都大学大学院医学研究科発生発達医学講座

              発達小児科学 教授

                  中畑 龍俊

講演1

臍帯血移植と近畿臍帯血バンク

                   兵庫医科大学 小児科 山 本 益 嗣

自己再生能を有し、すべての血球に分化可能な造血幹細胞は、骨髄だけでなく末梢血にも少数ながら存在することが以前より知られていたが、最近では臍帯血中にも存在することが明らかになってきた。そこで、この臍帯血中の造血幹細胞を利用した臍帯血幹細胞移植は骨髄移植、末梢血幹細胞移植につぐ第3の造血幹細胞移植として難治性血液疾患などに村する有効性が期待されている。本講演では、臍帯血幹細胞移植の特徴、成績、近畿臍帝血バンクの現状などについて述べてみたい。

 

(1)臍帯血移植の特徴

  妊婦一人の胎盤から採取できる臍帯血は約50−100ml程度である。この量の臍帯血には小児(体重約30Kg以下)の造血回復に充分な造血幹細胞が含まれていると考えられる。臍帯血移植は骨髄移植に比較すると生着までの期間が長いこと、移植患者の体重制限があることなどが欠点となる。一方、移植後の免疫反応である、移植片対宿主病(GVHD)は骨髄移植より軽度であり、ドナーと患者の間のHLAの一致度は骨髄移植に比べて低くても移植可能であることは大きな利点と考えられる。

(2)近畿臍帯血バンクの現況

  近畿地区の産婦人科医の協力を得て、非血縁者間の臍帯血移植をめざした近畿臍帯血バンクが設立された。これまでに519検体の臍帯血が凍結保存され、1997年9月から2000年3月までの間に合計30症例(白血病21例、再生不良性貧血2例、その他7例)に対して非血縁者間臍帯血移植が行われた。移植症例の無病生存率は白血病で約50%、非悪性疾患で約30%であり、体重1Kg当たりの移植細胞数が3.8×10_タ8_チ以上の症例が予後良好と考えられた。現在、近畿臍帯血バンクを含めた各地域の臍帯血バンクのネットワーク化が全国規模でおこなわれつつあり患者登録や臍帯血の保存方法、検索、入手も統一化しつつある。

講演2

造血幹細胞研究の最近の進歩

           京都大学大学院医学研究科発生発達医学講座発達小児科学

                              中 畑 龍 俊

 造血幹細胞は自己複製能と全ての血液細胞への分化能を持った細胞であり、一生の造血を担っている。造血の起源については種々議論があったが、最近AGM領域(大動脈、性腺、中腎に囲まれた領域)で造血幹細胞が発生し、肝臓、骨髄へ移動していくことが報告された。われわれはAGM領域から造血支持能を持つストローマ細胞株を樹立し、この上で胎生初期の卵黄嚢や胚体を共培養すると、どちらからも造血幹細胞が生まれることが明らかとなった。AGM領域には造血幹細胞としての機能を獲得させる分子が発現していることが示唆された。造血幹細胞はCD34陽性であると長年考えられてきたが、最近、CD34陰性とする報告がなされ大きな議論を呼んでいる。われわれは造血幹細胞上のCD34抗原の発現の年齢的な変化を検討した。マウスをモデルにした実験では胎生期、新生児期の造血幹細胞はいずれもcD34強陽性であるのに対し、成体マウスのそれはCD34陰性であることが明らかとなり、年齢とともにCD34の発現が低下していくことが示された。また、この発現は造血幹細胞に内在するtime clockにより調節されていると考えられた。NOD/SCIDマウスと呼ばれる特殊なねずみに移植後、骨髄再構築能を見ることによって測定する方法で検討すると、ヒト臍帯血中の造血幹細胞もCD34陽性と考えられた。

 最近、臍帯血中の造血幹細胞を体外で増幅し、これを移植医療に応用しようとする研究が盛んに行われている。体外で造血幹細胞を増幅することができれば、臍帯血移植を成人にまで適応拡大することができ、また移植後の血球回復期間の大幅な短縮が期待される。われわれは可溶性インターロイキン−6受容体(sIL-6R)と種々のサイトカインを組み合わせた新たな臍帯血中の造血幹細胞の体外増幅法を開発してきた。sIL-6R,IL-6,stem cell factor(SCF)を組み合わせることにより、種々の血球に分化できる造血前駆細胞を培養前の約50倍以上に増幅できることが明らかとなった。この培養系にトロンボポエチン(TPO)、flk 2/flt 3リガンド(FL)を加えることにより増幅効率はさらに良くなるとともに、NOD/SCIDマウスヘの移植実験で検討すると、ヒト造血幹細胞を数倍に増幅可能なことが明らかとなった。本培養法は現在までに報告されているヒト造血幹細胞の増幅法としては最も優れた方法であり、現在臨床応用に向けた安全性の検討を行っている。

 本講演ではその他造血幹細胞自己複製因子同定の試み、ES細胞からの造血幹細胞の産生などについても触れてみたい。