32回吉馴学術記念講演会

 

日 時:平成19721日(土) PM2:00〜4:20

場 所:神戸大学医学部「神緑会館」  神戸市中央区楠町7丁目52 (078) 382-6090

                    

本講演会は、日本小児科学会認定専門医のための研修8単位、並びに日医生涯教育講座3単位です。

 

主 催  日本小児科学会兵庫県地方会

後 援  兵庫県医師会

      神戸市医師会

 

テーマ:「小児蘇生の新しい流れとそのポイント」

 

1.Consensus2005における小児蘇生学の科学的背景

     国立成育医療センター総合診療部救急診療科  上 村 克 徳

 

     座長  兵庫医科大学小児科臨床教授     服 部 益 治

 

2.Consensus2005に基づく新しい新生児心肺蘇生法とその普及のための日本周産期・新生児医学会認定新生児心肺蘇生法講習会事業

     埼玉医科大学総合医療センター小児科教授  田 村 正 徳

 

     座長  神戸大学大学院医学系研究科内科系講座小児科学教授   松 尾 雅 文

 

 

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

Consensus 2005における小児蘇生学の科学的背景

 

国立成育医療センター総合診療部救急診療科    上 村 克 徳

 

 200511月に国際蘇生連絡委員会(International Liaison Committee on Resuscitation ; ILCOR)からConsensus 2005(Consensus on Science and Treatment Recommendation ; CoSTR)が公表された。このILCORが発信する“コンセンサス”は、蘇生学における全世界の共通認識として位置づけられており、その科学的背景を示したものである。一方、世界各地域における病院前救護の特殊性や使用可能な薬剤の制約等を考慮して、米国心臓協会(American Heart Association ; AHA)や欧州蘇生協議会(European Resuscitation Council ; ERC)等の地域蘇生協議会が発信するものは“ガイドライン”として区別される。日本版救急蘇生ガイドラインは、日本救急医療財団心肺蘇生法委員会・日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会[小児科学会から清水直樹(国立成育医療センター・手術集中治療部)と田村正徳教授(埼玉医科大学総合医療センター小児科)が参加]が、AHAおよびERCの新ガイドラインを参考に、日本の救急蘇生に関する研究成果からエビデンスレベルの高いものを積極的に取り入れ、救急医療体制の特殊性等を考慮して策定されたものである。

 今回は、この日本版救急蘇生ガイドラインにおける小児救命処置の概要と、その科学的背景を以下のキーワードを中心に解説したい。

  @ 統一されたCPRアルゴリズム ; 簡素化Simplification

  A CPRの質の評価;冠動脈灌流圧(Coronary Perfusion PressureCPP)

  B 小児救命処置におけるAED/電気的除細動

  C 気道管理と呼吸管理(マスク・バッグ換気、カフ付き気管チューブ、呼気二酸化炭素検知)における問題点

 

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 

Consensus2005に基づく新しい新生児心肺蘇生法とその普及のための日本周産期・新生児医学会認定新生児心肺蘇生法講習会事業

 

埼玉医科大学総合医療センター小児科教授    田 村 正 徳

 

 出生時に胎外生活に必要な呼吸循環動態の移行が順調に進行しない事例は、全出産の約10%にみられ、さらにそのうちの約10%が積極的な新生児心肺蘇生法処置を受けなければ、死亡するか、重篤な障害を残すとされています。一方では、こうした事例の90%はマスク&バッグを用いた用手換気のみで蘇生に成功し、胸骨圧迫による心臓マッサージまでを加えれば、基礎疾患が無い事例の大部分が蘇生出来ると報告されています1)

 また我が国も日本蘇生協議会が正式に加盟している国際蘇生法連絡委員会(International Liaison Committee on Resuscitation以下ILCOR)20051129日に5年ぶりに新生児から成人までの心肺蘇生法の基本的な枠組みを改訂して公表しました(Consensus20052)。これをうけて我が国も日本救急医療財団の心肺蘇生法委員会の日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会(小児科学会推薦委員 清水直樹、田村正徳)がConsensus2005に沿って、日本版救急蘇生ガイドラインを作成し、新生児心肺蘇生法に関する部分は現在ホームページで公開中3)2007年2月に医療関係者向け冊子として出版されました1)

 予期せずに仮死の症例に出会った医療スタッフが、冷静に適切な蘇生処置を遂行出来るためには、単なる知識の集積だけでは不十分です。スライドやビデオ等の視聴覚教材を活用して基本的な知識や技術を理解するとともに、基本的な新生児心肺蘇生法の個別の実技を蘇生人形等を用いて実地指導し、発生頻度の高い仮死の実例をシミレーションしたシナリオをもとに受講生の判断能力と実技遂行能力を形成的に評価する形式の少人数講習会が研修効果を高めるのに有用であることが田村等の班研究成果として報告されています5)。

 

<日本周産期・新生児医学会認定講習会事業の内容>

 こうした新生児仮死と蘇生法の特殊な背景から、日本周産期・新生児医学会の教育・研修委員会としては、周産期医療関係者向けの講習会としては、基本的に以下の2種類の講習会の組み合わせが望ましいと考ました。大部分の仮死がマスク&バッグを用いた用手換気と胸骨圧迫による心臓マッサージまでの処置で蘇生に成功するところから、大部分の周産期医療関係者はB.新生児心肺蘇生法一次コースだけで効果的な新生児心肺蘇生法の修得が可能と考えています。二次・三次周産期医療機関の周産期医療関係者や各機関の教育研修担当者の方々にはA.新生児心肺蘇生法専門コースを受講し、インストラクターの資格を取得して各医療機関や医師会や教育機関などで、A・B両コースの講習会を開催して下さることを期待しています。

 こうした講習会事業の発足にあたっては、まず、A.新生児心肺蘇生法専門コースのインストラクターを養成しなければなりませんので、日本周産期・新生児医学会の教育・研修委員会が主体となってA.新生児心肺蘇生法専門コースのインストラクター養成講習会(㈵コース)を5−6回/年開催する予定となっております。

 

A.新生児心肺蘇生法専門コース(講義と実習あわせて4−5時間)

  対象:二次・三次周産期医療機関の医師及び専門性の高い看護師・助産師、等。

  内容:気管挿管や薬物投与含めた高度な新生児蘇生法。

  受講生定員:一人のインストラクターあたり最大8名まで

B.新生児心肺蘇生法一次コース(講義と実習あわせて2−3時間)

  対象:一次周産期医療機関の医師、一般の看護師・助産師、卒後初期研修プログラム

     医学生、看護及び助産学生、救命救急士、等。

  内容:気管挿管や薬物投与を除く、基本的な新生児蘇生法。

  受講生定員: 一人のインストラクターあたり最大10名まで

Aコースの修得者は、その後一定の手順を経て、A・B両コースのインストラクターの資格を得ることが出来るものとします。

 

参考文献

1)Textbook of Neonatal Resuscitation, 5thEdition Editted by J. Kattwinkel, The American Academy of Pediatrics(AAP) and American Heart Association(AHA), 2006

  監訳田村正徳、AAP/AHA 新生児蘇生テキストブック 第五版、医学書院

2)2005 International Liaison Committee on Resuscitation, American Heart Association, and European Resuscitation Council. 2005 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Part 7. Neonatal Resuscitation.Circulation, 112 (suppl)III-91-III-99,2005

3)http://www.qqzaidan.jp/qqsosei/guideline_ALS.htm

  http://www.japan-aed.co.jp/htdocs/qqsosei/guideline/NLS.pdf

4)監修:日本救急医療財団心肺蘇生法委員会 編著:日本版救急蘇生ガイドライン策定委員会、「救急蘇生法の指針2005 医療従事者用」、新生児の救急蘇生法、p127-134、へるす出版、東京、2007

5)平成18年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)報告書

  「小児科医・産科医・助産師・看護師向けの新生児心肺蘇生法の研修プログラムの作成と研修システムの構築とその効果に関する研究」(分担研究者 田村正徳)

  「アウトカムを指標とし、ベンチマーク手法を用いた質の高いケアを提供する“周産期母子医療センターネットワーク”の構築に関する研究」(主任研究者 藤村正哲)