平成27年留学便り

微生物病研究所  笹川 勇樹
 2015年10月より、微生物病研究所 免疫化学分野(主宰;荒瀬 尚教授)に国内留学しています。同分野では、これまでにも、当科の谷村憲司講師と森上聡子先生(神戸大学大学院生)が留学され、抗リン脂質抗体症候群や不育症に関する研究を行い、業績を上げられております。研究室は大阪大学の吹田キャンパス内にあり、豊かな自然に囲まれており、勉学に励むには最高の環境と言えます。吹田キャンパスは、かなり広く、研究室から阪大病院内のスターバックスコーヒーまで散歩してみましたが、20分以上もかかりました。また、同キャンパスでは、医学部だけでなく、理学部、工学部、農学部など多くの学生が在籍しており、病院で勤務している時とは違い、大学生時代に戻ったような錯覚に陥ってしまいます。
 私の研究室の始業時刻は、人によって様々ですが、だいたい午前9時ぐらいで、終業時刻イコール実験終了時刻という感じで、これも医者時代の定時勤務とは違っています。毎週月曜日は、午前9時から業務連絡のための全体ミーティングと全員のプログレスレポートを行い、毎週金曜日の午前8時半から抄読会を行っています。プログレスレポートでは、前の週の実験結果をメンバー1人ずつ、全員の前でプレゼンテーションし、荒瀬教授はじめ、他の教官の先生方などから、様々なアドバイスをいただき、今後の実験に役立てています。金曜日の抄読会では、担当者が『Nature』、『Science』などの一流誌に掲載された最新の論文を読んで、プレゼンテーションを行います。実験に追われ、なかなか論文を読む時間がないため、この抄読会は、大変、貴重でありがたいです。逆に、自分の当番が回ってくると準備が大変なので、その時は実験がなかなか進みません。
 大学生の頃、私の学年は基礎配属実習がカリキュラムになかったため、学生時代に基礎分野の研究室に行ったことがありませんでした。そのため、基礎研究がどのようなものか?の想像が付かず、この研究室にやって来て2ヶ月が経ちましたが、まだまだ、慣れたとは言えません。中でも、一番のカルチャーショックは、仕事前に着替えなくてよいということです。病院勤務時代は、職場に着いたらすぐに白衣に着替えていたので、私服のみでの生活は、若干、違和感があります。今のところ、実験は、失敗ばかり、うまく完遂できたと思っても結果が出なかったりと、成果を出すには多大な時間と労力がかかるのだなと痛感しています。
 私の研究ですが、テーマについては、現時点では、色々と模索段階であり、また、基礎研究を始めて、2ヶ月しかたっておらず、実験手技もまだ、おぼつかない状態ですので、思うようには進んでいません。荒瀬 尚教授の指導のもと、前任の谷村講師や森上先生の研究を引き継ぎつつ、さらに、新しい展開が出来るように研究を進めていきたいと思っています。
 予定では2年間、微生物病研究所で研究に従事することになっています。その間に、産婦人科に関連した免疫関係の研究で成果を挙げることができればと思いつつ、また、ここでの基礎研究の経験を将来、臨床に活かすことができるように日々、精進していきたいと思っています。
神戸大学臨床ウイルス学分野での研究  長又 哲史
 2015年10月から、神戸大学大学院医学研究科臨床ウイルス学分野にて研究を行っております。現在医者になって6年目ですが、これまで臨床の経験しかなく、初めての研究生活は慣れないことの連続で未だに少々戸惑っている部分があります。しかし基礎研究を基に教科書が出来ていくということを考えると、教科書や文献に頼れる臨床とは異なり、違った面白さや奥深さがあり新鮮な毎日を送っています。
 神戸大学臨床ウイルス学分野は森教授をはじめ女性が多く、セミナー室と呼ばれるデスクのある部屋には宝塚のポスターが貼ってあり、とても華やかな雰囲気となっています。研究内容は主にhuman herpesvirus 6(HHV-6)について行っており、その業績は日本でトップクラスを誇っております。小児科から大学院生が1人来ておりますが、教授と准教授以外に医学部出身者はおらず、医学部以外の出身で研究者となった方々が中心となって活動しています。その知識量や研究に対する姿勢などは非常に圧倒されるものがあり、そういったアクティビティーの高い方と共に時間を共有することだけでも、今後の大きな財産になると思っています。
 HHV-6は突発性発疹の原因ウイルスとして有名ですが、それ以外にも移植時の免疫抑制剤使用によりHHV-6の再活性化をきたし脳炎になるケースや、薬剤性過敏症候群(drug induced hypersensitivity syndrome:DIHS)の際にも活性化が起こることが分かっており、様々な病態との関与が考えられているウイルスです。ヘルペスウイルスに属しており、同じヘルペスウイルスであるサイトメガロウイルスの話題も抄読会などでは時折出てきます。しかし内容はウイルス膜タンパクや細胞内での遺伝子発現に関するものなどであり、6年間培ってきた臨床での知識が全く役に立たないのが辛いところです。
 私が研究室に来た当初は細胞培養など基本的なウイルスに関する実験手技や、ウエスタンブロットやPCRなど分子生物学の研究に関わる実験手技を色々と教えて頂きました。そして2月からはHHV-6のgQ1という膜タンパクのどの部分が細胞性免疫を誘導するのかというテーマについて研究を進めていく予定です。またそれと並行して、造血幹細胞移植や臍帯血移植の際の臨床検体を用いた研究にも、血液腫瘍内科や小児科の先生方と協力して関わらせて頂くことになっております。何かHHV-6と産婦人科を絡めたことが出来ないかということも画策しております。
 まだ研究室に来て約5か月ですが、分子生物学や免疫等に関する知識は科をまたいで共通のものになってくるため、産婦人科雑誌に載っている研究論文や最近話題の免疫チェックポイント阻害薬の作用機序に関することなど、今まで頭に入りにくかったような内容にも抵抗なく触れられることを実感しております。医者の見識を広めるためには、研究を行う時期というのは大事だと言われる所以が少し分かったような気がします。将来的には優れた臨床医になるという目標のため、現在の研究の日々を全うしていく所存です。
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