神戸大学医学部附属病院 脳神経外科
神戸大学大学院医学研究科 外科系講座 脳神経外科学分野
Kobe University Hospital,  Department of Neurosurgery   
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(1)パーキンソン氏病に対する脳深部刺激装置埋め込み術

 

【始めは内服薬が効く】

 パーキンソン病は、発症早期では、中脳黒質のドーパミン産生細胞が少なくなって中脳黒質よりもサーキットの下流の神経細胞の活動に異変が生じて症状がでます。そして早期には、ドーパミン(神経伝達物質の一つ)を作る材料となるお薬を内服することにより、症状は軽快します。つまり、「ドーパミン産生工場」がくたびれてきたときに、「ドーパミンの材料」(l-dopa製剤)を健康な時よりもたくさん供給することにより、ドーパミンの出荷量を維持するわけです。



 
  

【時間が経つと内服薬が効かなくなる、副作用がでてくる】

 しかしながら、5年も10年も経つと、薬がだんだんと効かなくなります。これには二つの理由があります。一つは、パーキンソン病が進行して中脳黒質の神経細胞がさらに減ってしまう(=「ドーパミン産生工場」がヘトヘトにくたびれてしまう)ことが理由です。これでは、どれだけ「ドーパミンの材料」を内服して体に供給しても限界があります。二つ目は、長年ドーパミンのバランスが崩れている状態が脳の中で続いていると、中脳黒質以外の脳(大脳基底核)の神経細胞の一部が暴走し出すからです。始めは劇的にパーキンソン病を治してしまうと思われたl-dopa製剤が、だんだんと効かなくなり、やがてもとの身動きの取れない体にもどっていってしまう、このあたりの劇的な展開を題材にした有名な映画が「レナードの朝」(1990年米国、ロバート・デニーロ主演)です。





【過去の手術:神経破壊術】

 l-dopa製剤が開発される以前に、実はパーキンソン病は、手術で治療されている時代がありました。1950年代です。まだ、CTもMRIも無い時代です。脳の深部の視床あるいは淡蒼球と呼ばれる神経核を、普通のレントゲン装置を工夫することにより、およその位置に目星を付けて、針を刺して電気的に凝固破壊して、治していました(神経核破壊術)。あまり正確な方法は確立されていませんでしたが、経験的にそれでパーキンソン病の症状が劇的に治ることもある、と知られていました。しかし、1960年代になり、l-dopa製剤が使えるようになると、一気に手術でパーキンソン病を治す、などという野蛮なことは見向きもされなくなりました。





【現在の手術:深部脳刺激装置の埋め込み術】

 1980年代より、l-dopaがだんだんと効かなくなった患者さんが増えてきました。そこでリバイバル、というわけではないですが、再び神経核破壊術が脚光を浴びるようになりました。ただし、この時代は、長年l-dopa製剤を服用してきた患者さんが対象ですので、昔のような訳にはなかなかいきません。ジスキネジアという元来パーキンソン病にはなかった薬の副作用の不随意運動の症状を主に治すような手術が求められました。と、同時に、MRIや医療機器の技術が進歩して、ターゲットとする神経核を「破壊」するのではなく、電気を流すことに(「刺激」)より、一時的に麻痺させてしまう治療が可能となりました。深部脳刺激装置の出現です。脳を刺激する、という言葉をそのまま読むと、脳の一部(深いところが!)活性化される、というようによく誤解されます。実際に起きている現象は、大脳基底核の神経サーキット(回路)の中で暴走していた神経核の一つに微弱な電気を流し、そこだけが麻痺して、結果としてサーキットのバランスが再構築される、ということです。「破壊術」に比べて、何度でもやり直しが効くし、刺激の程度を手術のあとからでも微調節できるという、メリットがあります。また手術翌日から効果があります。第二の「レナードの朝」です。日本でも2004年に保険承認となり、現在急速に手術が広まっています。




 神戸大学でも2005年より視床下核をターゲットとした治療を行っています。以下に実際の手術の景色と治療成績を示します。下の棒グラフは、2005年からの治療成績で、DBS手術により長年服用してきたパーキンソン治療薬を減量でき、薬の重篤な副作用であるジスキネジアを抑制できることを示しています。




図:手術の際のナビゲーションコンピュータによる標的の計測(左)と、手術場での実際の手術風景(右)。右下の図は視床下核の神経細胞を電気的にモニタリングしているPCの画面。



 深部刺激電極が視床下核に留置されていることが確認できます。実際の視床下核の大きさは、ちょうど左の写真に示しましたように、トウモロコシの実一粒ほどの小さなものです。

   

図:神戸大学脳神経外科での3年間の治療成績。
内服薬を半分ほどに減らすことができます。







図:パーキンソン病が進行するとともに、はじめは効いていた薬がだんだんと効きが弱くなってくる。また、少し飲み過ぎるとジスキネジア(不随意運動)が現れるようになり、薬も増やしにくくなる。DBSの手術により、「底上げ効果」がもたらされると、進行したパーキンソン病でも薬によるコントロールがしやすくなる。



【将来の手術:神経核の再生】

 残念ながら、内服薬による治療でも、脳深部刺激装置による手術でも、パーキンソン病の進行自体を止めることはできません。時間が経てば最終的には、中脳黒質の神経細胞が死滅してしまいます。「ドーパミン産生工場」の閉鎖です。これではいくらドーパミンの材料(l-dopa)を供給しても何も反応しません。そこを見越して、1980年代後半より、二つの臨床研究が続いています。一つ目は神経細胞移植です。いわば閉鎖された工場の隣に新しい工場を丸ごと建てるようなもので、うまく大脳基底核のサーキットのつながりに受け入れられれば、完全にパーキンソン病から立ち直ることができます。移植に使われる細胞は、当初はヒト胎児脳から取り出した中脳黒質細胞(ドーパミンを産生する)を用いて研究が進みましたが、倫理的問題も多く中断されました。胎児の細胞に取って代わることが期待されているのが、有名なES細胞やiPS細胞です。まだ、臨床に応用できる段階までは至っていません。二つ目は脳内の遺伝子導入です。細胞を外部から手術で移植する代わりに、既存の脳内細胞に外部から遺伝子を導入して目的にかなった細胞にかえてしまう訳で、いわば、閉鎖された工場の建物はそのままで内部の機械を一新する発想です。日本では、2年前より米国との共同研究で自治医科大学にて患者さんを対象とした研究が始まりました。


【神経再生治療の研究の難しさ】

 以上にまとめたように、パーキンソン病の病気の経過は発症してから半生をかけて、少しずつ進行して悪くなっていく病気なのですが、現状の二つの治療、すなわち、内服薬の開始時と外科治療(深部脳刺激装置埋め込み術)を行う時、の二回の劇的なturning pointがあります。一方で、再生医療は、その効果を判定できるのが、年単位の息の長いものですから、ひとつの治療法が実証されるまで大変時間がかかると予想されます。例えば、iPS細胞を使った神経再生医療がヒトを対象として実験が始まるのは、国家戦略としては2016年以降、と目標設定されています。また、たくさんの再生医療が同時平行して開発されつつありますので、ベストの再生医療がどれかが絞られるまでにはさらに時間がかかると思います。一般的な治療法として普及するところまで一足飛びには行けない解決すべき問題が多く、今後とも研究の動向を暖かく見守る必要があります。





(2) てんかんに対する焦点切除術


多数の内服薬を組み合わせて服用しても発作の回数が減らず日常生活に大きな支障を生じるものを難治性てんかんと呼びます。原因としては先天性、頭部外傷後、脳炎後、など様々なものがあります。外科治療の対象となる難治性てんかんは、てんかん発作の焦点がはっきりとどこにあるか分かるものです。手術は焦点となっている脳組織を切除するものですから、後遺症を作らずに安全に手術が出来る場所に焦点がある患者様が対象となります。焦点を決めるために、MRI, SPECTなどの画像診断や、長時間脳波モニタリングなどの電気生理学的検査を組み合わせます。以下は神戸大学で治療を行った実際の患者様の術中写真です。





図:大脳皮質運動野皮質異形成に対する軟膜下皮質多切術(MST)


図:運動野焦点に対する覚醒下手術による切除術



(3) 中枢性疼痛に対する運動野大脳皮質刺激療法


 脳卒中後や脊髄損傷後に徐々に耐えられない自発痛が持続するようになった状態を中枢性疼痛と呼びます。引き抜き損傷後の痛みや幻肢痛も対象となります。このような痛みは、もともとの痛みを感じる脳の回路以外の場所で痛みの発火点があると考えられており、この発火点からの痛みの伝搬を和らげる目的で、痛みには関係のない大脳皮質の一部を微弱な電流で刺激するのがこの療法です。大脳皮質以外にも脊髄硬膜外での刺激療法もあります。痛みの伝搬の回路は複雑で全ての中枢性疼痛が外科治療で消失するというわけではありません。良く効くかどうかを確かめるため、一回目の手術で刺激装置を借りに埋め込み、痛みが軽くなることを確認できたら、二回目の手術で装置を皮膚の下に完全に埋め込みます。神戸大学でも2005年より手術を行っています。


   
    図:脳表に置く電極(左)と胸部の皮下に埋め込むバッテリー(右)


    

    図:開頭術により運動悪皮質表面に電極を留置した所ところ(左)と
                術後のレントゲン写真(右)



(4) 痙性麻痺に対するバクロフェン髄注療法(ITB)

 脊髄損傷や重度の脳損傷後の慢性期過度に筋肉の緊張が亢進してしまう状態を痙性麻痺と呼びます。脊髄での過度の神経反射の亢進を抑制するための薬剤として1979年にバクロフェンというお薬が開発され内服薬として承認されました。しかしながら、バクロフェンは血液脳関門を通過しにくいため、経口投与では肝心の脊髄に十分届かないということが問題でした。この、髄液中濃度が十分に上がらないという欠点をカバーするために生まれたのが、直接薬剤をポンプを使い直接髄腔内に投与する方法で、内服で服用するよりも1/300の用量で10倍以上の髄液中濃度が得られることがわかっています。このポンプは、米国で開発され、脊髄由来の重度痙性麻痺を対象として1992年に初めて承認、1996年には脳由来の重度痙性麻痺も追加承認されました。日本でもながらく臨床承認されることが待たれていましたが、2001年薬剤がまずオーファン指定を受け、ポンプも2005年4月に承認され、さらに重度の小児麻痺の患者様に対する需要が高いため、2007年4月には小児にも使用可能となりました。神戸大学医学部附属病院では保険承認直後より積極的にこの治療法を導入しており、8名のITB治療登録医を有して治療の普及に努めています。これまでで治療を行った患者さんの原疾患は、脳卒中後3名、頭部外傷後1名、脳腫瘍術後1名、頸椎損傷1名、遺伝性痙性麻痺1名、低酸素脳症1名、平均年齢33.2歳(9歳から59歳まで)です。








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