日本語/English

logo_ogp.png

神戸大学大学院医学研究科 生理学・細胞生物学講座
細胞生理学分野

研究内容

 当分野では、ヒトをはじめとする哺乳動物における「形態・機能の構築機構」及び「それらの破綻とがんや炎症などの病態との関連」の解明を目指して研究を行っています。これらの分子機構を解明する糸口として、動物の発生や様々な疾患の発症・進展に関わるWntタンパク質/Rorファミリー受容体型チロシンキナーゼによるシグナル伝達経路に焦点を当てて解析を進めています。具体的には、「遺伝子改変マウスや疾患モデルマウスを用いた個体・器官・組織における分子機構解析・分子病態解析」や「各種培養細胞を用いた細胞・分子レベルでの分子機構解析・分子病態解析」を行い、これらの研究をとおして「生体にみられるしなやかさの本質」や「生命現象の動作原理」を明らかにするとともに、「それらの破綻による病態」を遺伝子・分子レベルで解明し、これまでにない新たな診断・治療への応用の基盤を得たいと思っています。

研究テーマ

A. non-canonical Wntシグナル伝達機構の解析

p3.jpg(目的)canonical Wntシグナルがβ-カテニンの蓄積を介して遺伝子発現を制御するのに対し、non-canonical WntシグナルはRhoファミリー低分子量Gタンパク質やJNKなどの活性化を介して細胞極性・移動、遺伝子発現などを制御します。私たちは、Rorファミリー受容体型チロシンキナーゼが Wnt5a受容体としてnon-canonical Wntシグナルの活性化を担っていることや、Ror2がチロシンキナーゼ依存的または非依存的な機能を有していることなどを見出しています。これまでの成果を踏まえ、細胞極性・移動、がんの浸潤・転移、炎症といった生理的・病理的状況下におけるRorを介したnon-canonical Wntシグナル伝達機構を分子レベルで解明することを目的としています。

  1. non-canonical Wntシグナル伝達におけるRorファミリー受容体型チロシンキナー ゼの構造と機能の連関解析。Rorをハブとしたタンパク質キナーゼ群やシグナル伝達分子群のネットワーク解析。
  2. Rhoファミリー低分子量Gタンパク質を介したWnt5a-Rorシグナルの分子機構解析。
  3. 繊毛関連タンパク質によるWnt5a-Rorシグナルの制御機構の解析。
  4. Wnt5a-Rorシグナルによる遺伝子発現制御機構の解析。
  5. Wnt5a-Rorシグナルによる細胞骨格制御機構の解析。

B. Wntシグナルによる神経発生制御機構の解析

p4.jpg(目的)発生過程および成体の中枢神経系における神経細胞・グリア細胞の増殖・分化、細胞移動、神経回路網形成、シナプス形成の分子機構を解明するとともに、神経発達障害と精神疾患および神経変性疾患との関連について分子レベルで理解することを主な目的とします。また、私たちはWntシグナルの人為的制御による上記中枢神経系疾患への再生医療応用を目指します。

  1. Wntシグナルによる神経幹/前駆細胞の増殖・分化制御機構の解析。
  2. Wntシグナルによる神経突起伸長・シナプス形成制御機構の解析。
  3. 中枢神経系の炎症応答におけるグリア細胞でのWntシグナルの機能解析。
  4. Wntシグナル伝達の異常と神経発達障害・精神疾患および神経変性疾患の関連解析。
  5. Wntシグナルの人為的制御による中枢神経系の再生医療への応用。

C. 上皮管腔組織形成におけるWnt5a-Rorシグナルの機能解析

p5.jpg(目的)Wnt5aやRor1/2の遺伝子欠損マウスは、消化管や肺、腎臓などの上皮管腔組織の形態形成に異常をきたします。私たちはWnt5a-Rorシグナルによる上皮管腔組織形成の制御機構を明らかにするため、各種遺伝子改変マウス(ノックアウトマウスやトランスジェニックマウス)や培養上皮細胞を用いた解析を行っています。このような解析をとおして、上皮管腔組織が如何にして形成され、維持されるのか、また、その破綻と病態との関係を明らかにすることを目的としています。

  1. マウス腎臓発生過程における管腔の伸長・分岐の分子機構解析。
  2. マウス胚腎臓の器官培養とタイムラプスイメージングによる細胞動態解析。
  3. 培養上皮細胞の三次元培養系を用いた管腔形成やその破綻の分子機構解析。

D. がんの進展や炎症病態におけるWnt5a-Rorシグナルの機能解析

p6.jpg(目的)様々ながんにおいてWnt5aやRorの発現亢進が認められ、そのシグナルの恒常的活性化ががん細胞の増殖や浸潤・転移を促進します。また、遷延化した炎症病態においてもWnt5aやRorの発現が亢進します。実際、私たちは腎臓の炎症・線維化モデルマウスにおいてRor2が尿細管上皮細胞に発現し、その結果、腎線維化の進展に関わる基底膜の破壊を促進することを見出しています。私たちは、がんや炎症病態におけるWnt5aとRorの発現制御機構とその病理的意義を分子レベルで解明すること、およびWnt5a-Rorシグナルを標的とした新しい診断・治療法の開発を目指しています。

  1. Wnt5a-Rorシグナルによるがん細胞の浸潤・転移制御機構 の解析。
  2. 肺がんの分子標的薬耐性獲得におけるRor1の役割についての解析。
  3. がん細胞と間質細胞の相互作用によるがん進展機構の解析。
  4. Wnt5a-Rorシグナルによるがん幹細胞の増殖・分化および幹細胞性維持の制御機構解析。
  5. がんや炎症病態におけるWnt5aとRorの発現制御機構の解析。
  6. 腎線維化におけるWnt5a-Rorシグナルの役割についての解析とこのシグナルを標的とした新規治療法の開発。

E. 受容体型チロシンキナーゼRorによる骨格筋損傷時の再生制御機構の解明

(目的)骨格筋損傷後の再生制御機構、特に骨格筋幹細胞(サテライト細胞)の活性化、増殖、筋新生の分子機構を解明するとともに、超高齢化社会において問題となる加齢性筋減弱症(サルコペニア)との関連について、分子・細胞レベルで明らかにすることを主な目的としています。また、私たちは骨格筋再生過程における受容体型チロシンキナーゼRorの役割を明らかにするとともに、各種の筋疾患におけるRorの発現・動態を明らかにし、これらの成果を踏まえて、筋再生医療への応用を目指します。

F. 網羅的解析アプローチと数理的アプローチによる生命現象の動作原理の解明

(目的)上記A〜E、またはそれらに関連する研究テーマで、生体におけるしなやかさの本質や動作原理の解明に迫るためには、'代謝'をキーワードとした、古くて新しい網羅的解析アプローチであるメタボローム解析や細胞動態の正確な時空間的計測データを基盤とした数理的アプローチが有効と考えられます。私たちは、これらの研究アプローチも積極的に取り入れ、生命現象の動作原理の解明に向けた新しい研究領域の創成を目指します。