Kobe University Hospital
Oral and Maxillofacial Surgery


    



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 骨髄炎に対する治療 






  顎骨骨髄炎

      顎骨骨髄炎とは、口腔内細菌の感染に起因する炎症が顎骨内の骨髄にまで波及することで
     様々な症状を惹起し、時にとても治療が困難となる疾患です。
      健康な方であっても、う蝕(むし歯)が進行すると、歯の神経にまで炎症が波及した場合は
     歯髄炎を起こし、放置すると歯髄が壊疽します。壊疽した歯髄(歯の神経)から感染が歯周組織
     (歯の周りの組織)へと広がると、歯槽骨炎や、さらに広範な顎骨炎へと進展します。
     骨髄炎に至った場合、本来血液が豊富な骨髄が硬化変性する(固く、血液が乏しくなる)場合が
     あり、感染やそれに伴う疼痛などの急性症状、抜歯後の治癒不全の原因となります。

      但し、治療が困難な顎骨骨髄炎を発症する患者さんには、多くの場合感染を引き起こし易い
     以下のような要因があります。

     @糖尿病やステロイドの長期投与に起因する免疫の低下
     A多発性骨髄腫などの血液悪性腫瘍、乳癌や前立腺癌などの骨転移・骨粗鬆症に対する
     骨吸収抑制剤(ビスフォスフォネート・デノスマブ)投与歴
     B頭頸部領域の悪性腫瘍に対する放射線治療歴

     これらの要因や患者さん個々人の状態に応じた、適切な診断と治療が必要です。


  ビスフォスフォネート関連顎骨壊死

   ■ 病因や症状 ■

      ビスフォスフォネートは癌の骨転移や骨粗鬆症に対し投与され、骨折の予防や痛みの軽減、
     癌やステロイド治療により誘発される骨量減少の改善などに対し高い有効性が確証された、
     とても重要な薬剤です。しかし、その副作用として、抜歯などを契機に顎骨壊死(あごの骨の
     血流が途絶えてしまうこと)が生じることがあります。
      症状は、痛みを伴う持続的な骨露出・顎が重い感じやしびれ感・歯肉の腫脹や排膿(膿が出る
     こと)、歯の動揺などですが、痛みを伴わず無症状のこともあります。進行すると痛みや感染が
     増悪し、病的骨折(壊死して脆くなった骨が折れてしまうこと)を起こしたり、皮膚瘻孔(皮膚に
     穴が開き膿が出てくること)を形成します。

   

    顎の骨が露出し、歯肉に炎症を起こしている。    顎の骨の感染が進行すると、皮膚に穴が
                                     開き、膿が出てくることもある。

  放射線性顎骨壊死

   ■ 病因や症状 ■

      放射線療法は悪性腫瘍に対する治療法の一つとして手術や化学療法(抗がん剤)と並び、有効
     性が確証されたとても重要な治療法です。一方で、特に頭頸部癌(口やのどの癌)に対し放射線
     療法が施行された場合、唾液腺障害(それに起因する唾液量減少・口腔乾燥)等の晩期合併症が
     問題となることがあります。放射線の照射が顎骨に及んでいる場合、骨の血流低下が起こり稀に
     顎骨壊死が生じることがあり、これも放射線の晩期合併症の一つです。最も多い誘因は抜歯など
     の機械的損傷ですが、他の顎骨壊死同様、義歯のキズや明らかなきっかけなく発症することも
     珍しくありません。
      症状も他の顎骨壊死と類似し、痛みやしびれ・排膿など多様で、進行すると感染の増悪や病的
     骨折を併発します。

    

     炎症が広範囲に及び、開口障害(口が開かなくなること)が生じている。
     開口障害が重篤な場合、口から食事を摂取することが困難となる。


    

           初診時のCT                   4か月後のCT

     本来CTで白く映るはずの皮質骨が融解し、数か月後には病的骨折を発症した。


  骨髄炎の治療

      骨髄炎に対する治療法には様々ありますが、大きく分けて保存的治療と外科的治療に分けら
     れます。前者では、潰瘍(口や皮膚のキズ)の洗浄・全身もしくは局所への抗菌薬投与・遊離腐骨
     (骨髄炎の治癒経過によって、血流の途絶えた壊死骨が自然と剥がれ落ちてくることがあり、これ
     を遊離腐骨と言います。但し、すべての骨髄炎の患者さんでこうした経過を辿るとは限りません)
     の除去・鎮痛薬投与による疼痛管理などが挙げられます。後者の外科的治療は、積極的に壊死
     や感染を伴った顎骨を切除する治療です。顎骨切除後の欠損により顔の変形や機能障害(咀嚼し
     にくくなるなど)が生じる場合は、骨の移植や金属プレートにより、可及的に元の状態に戻す治療
     (再建手術)も同時に行います。    



   ■ ビスフォスフォネート関連顎骨壊死 ■

   

    右側上顎歯肉に骨露出を認める。  原因薬剤を主治医と相談し休薬、  潰瘍部は上皮化し、現在義歯を
                           約半年後遊離した腐骨を除去。   装着し問題なく食事をされている。



   ■ 放射線性顎骨壊死 ■

   

       下顎下縁に及ぶ骨吸収像を認めた。
       下顎骨の中に下歯槽神経が走行している。
       骨融解が神経に及ぶと、激しい痛みを生じる。


   

       保存的な治療では除痛が困難と診断された場合は、手術が必要となることがある。
       この患者さんは腐骨除去(下顎骨区域切除)と腓骨皮弁移植(足の骨と皮膚の移植)を
       施行した。


   

       現在は痛みなく生活されている。

       顎骨骨髄炎の治療で最も重要なことは、病状の把握と、患者さん個々人の状態に適した治療
      法の選択です。痛みや口が開かないといった症状が、患者さんの日常生活の質(Quality of life)
      をどの程度損なっているか?低下した患者さんの生活の質が、治療によってどの程度まで改善が
      見込まれるか?といった点について的確な診断が必要です。そのためにはレントゲンやCTなど
      いくつかの検査も要します。患者さんには病状や治療内容について充分に説明を行ったのち、
      実際の治療を開始します。


  骨髄炎の予防

       すべての顎骨骨髄炎において治療と同様、予防が大変重要です。放射線治療を行っている
      医師、ビスフォスフォネートやステロイド・抗がん剤治療を行っている医師と綿密に連携しつつ、
      当科では顎骨壊死の予防にも尽力しています。


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