近年、薬剤耐性菌(AMR: Antimicrobial
Resistance)の拡散は世界的な健康危機と認識されており、適切な対策が取られなければAMRの犠牲者は2050年までに年間1千万人にまで増加すると予想されている。AMR蔓延の原因としては抗菌剤の使用が第一に挙げられるが、2000年から2015年にかけて全世界における抗菌剤の消費量は65%も増加したとの報告がある。
現在、医療現場では抗菌剤の適正使用が厳格に求められており先進国での抗菌剤使用量は抑制傾向にあるが、新興国では急激な増加が続いている。また抗菌剤はヒトのみならず家畜にも投与されており、環境中にもAMRや抗菌剤が排出されることから、AMRの動向調査においてワンヘルスアプローチの重要性が高まっている。インドネシアでは安価な抗菌剤が乱用され、上下水インフラ整備が不十分で、家禽の消費も多いことからワンヘルスアプローチによる動向調査が必須である。WHOはESBL産生大腸菌を対象とした妊婦、鶏、河川のグローバルサーベイランス(Tricycle
Project)を開始しており、インドネシアでもジャカルタで本プロジェクトが実施されている。我々の研究拠点でも既に妊婦、鶏、河川から多数のESBL産生大腸菌を検出しているが、同時にESBL産生肺炎桿菌(KP)も多数検出している。また尿路感染症患者から分離したカルバペネマーゼ産生腸内細菌(CPE)ではKP株がもっとも多く、そのほとんどがNDM-1遺伝子とESBL遺伝子(CTX-M15)を同時保有していた。さらにCPEの治療薬として非常に重要なコリスチンに耐性を示すサルモネラ菌株を鶏から高率に検出している。
以上のような背景から、インドネシアにおいてワンヘルスアプローチによるAMR動向調査を大腸菌のみならずKPやサルモネラ等の重要菌種を含めて包括的に実施している。 |
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