神戸大学 神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・代謝・内分泌学分野
研究グループの紹介
肥満糖尿病病態研究グループ

世界で増加を続ける肥満と糖尿病

肥満は世界的な規模で急速に増加しています。これと呼応する形で糖尿病も増加の一途を辿り、我が国でも糖尿病患者数は950万人に達すると推計されます。肥満、特に内臓脂肪蓄積型肥満はインスリン抵抗性を引き起こし、糖尿病、高血圧、脂質異常症を発症するベースとなります。こういった疾患を発症すると虚血性心疾患や脳血管障害を起こしやすくなり健康寿命を著しく縮めます。そのため肥満とそれに続発するインスリン抵抗性の克服は内科医に課せられた重要な責務です。しかし近年の肥満や糖尿病の増加を目の当たりにすると、現在行われている予防法や治療法がいかに不十分なものであるかは明らかです。この理由の1つが肥満や肥満に派生する病態が根源的なレベルで解明されていないことです。肥満の本質は脂肪細胞における過剰な中性脂肪の蓄積です。肥満・糖尿病の病態把握、新規治療法の開発を目指し、いま世界中で脂肪細胞の研究が非常にホットになっています。

世界で増加を続ける肥満と糖尿病

1990年代になり脂肪細胞の分化に重要な転写因子PPARγ2が見出され肥満糖尿病研究における脂肪細胞の果たす役割の解析が大きく進みました。さらに1994年に見出されたレプチンは脂肪細胞が生理活性物質を分泌する臓器であるという概念への扉を開きました。これに続く研究で脂肪細胞は余剰なエネルギーを中性脂肪として貯蔵するだけの細胞ではなく、多くの生理活性物質(脂肪細胞分泌因子、アディポカイン)を病態に応じて分泌し全身の糖脂質エネルギー代謝を制御するダイナミックな細胞であることが明らかとなりました。私たちの研究グループはこの時期、PPARγ2が成熟脂肪細胞に特有の機能を維持するのに重要な機能を果たしていることを明らかにしました。

2000年代になり本格的に解明が進んだ脂肪組織の慢性炎症

今世紀に入り肥満した脂肪組織にはマクロファージが浸潤して慢性炎症を呈していることがわかり、肥満に伴うアディポカインの分泌変化の基盤となる病態は脂肪組織の慢性炎症であることが解明されました。わたしたちは炎症性ケモカインであるMCP-1が肥満における脂肪組織の慢性炎症とインスリン抵抗性の発症に深く関与していることを早い時期に証明し、これを発表した論文は引用回数が600回を越え、慢性炎症は代謝性疾患の発症基盤としても重要であるという新しい概念の確立に大きく寄与しました。

慢性炎症発症における一酸化窒素シグナルの関与と新たな展開

適切なインスリンシグナルの伝達にはインスリン感受性細胞とそれに近隣する細胞との相互作用が関与していることがわかってきました。私たちはeNOSの活性化による少量の一酸化窒素産生が組織マクロファージ、肝臓、脂肪組織の慢性炎症の抑制に重要であり、健全なインスリン作用を維持するのに寄与していることを明らかにしました。またcGMP/PKG/VASP経路が肝細胞で一酸化窒素シグナルを伝達し、糖脂質代謝に重要であることを世界に先駆けて発表しました。私達は肥満・糖尿病発症の過程で形成される病態を多面的にとらえ、様々なアプローチから病態の分子基盤の解明に努めたいと考えております。

慢脂肪細胞に脂肪を貯蔵する機構の解明と肥満発症に対する意義

そして現在は肥満や脂肪肝の本態である脂肪細胞や肝細胞における過剰な中性脂肪の貯蔵機構を明らかにしようと研究を続けています。脂肪細胞は他の細胞と異なり細胞質いっぱいに効率よく中性脂肪を蓄えることができますが、そのメカニズムはまだまだ解明されていません。私たちは2008年にFSP27という蛋白が脂肪細胞に効率よく脂肪を蓄積するのに必須の因子であることを世界に先駆けて見出し、脂肪細胞の脂肪蓄積機構の解明に深く切り込みました。脂肪細胞に過剰な中性脂肪を貯め込む機構を解明できれば、そこから肥満、2型糖尿病、脂肪肝といった疾患の新たな治療法や治療薬が開発できる可能性があり、それに夢を描いて研究・診療を続けています。

未来を見据えてー理想的な内科医とは

内科学は基本的に全身を診る学問であり、理想的な内科医は臨床的知識、技能、経験を豊富に持つことは当然であり、さらに全身の病態を的確に把握するための科学的考察力を併せ持つ必要があると考えています。ベッドサイドで疾患と真っ正面から向き合う臨床にくわえ、疾患の病態を基礎研究を通じて見つめ直す機会は、臨床医としての奥行きと幅の広さを身につけることができます。私たちと研究をともにする時間がこのようなリサーチマインドをもった理想の内科医の育成に繋がることと確信しています。

最近の主要な基礎研究論文
Nishimoto Y, et al: Cell death-inducing DNA fragmentation factor A-like effector A and fat-specific protein 27β coordinately control lipid droplet size in brown adipocytes. J Biol Chem May 10, 2017 Online publication
[私たちは、長らく不明であった褐色脂肪細胞が多房性の小脂肪滴を形成するメカニズムを解明しました。この業績で西本先生は第37回日本肥満学会のビジョナリーアワードを獲得しました]
Tamori Y, et al: Negative-charged residues in the polar carboxy-terminal region in FSP27 are indispensable for expanding lipid droplets. FEBS Lett 590: 750-759, 2016
[白色脂肪細胞が巨大な脂肪滴を形成するのに、脂肪滴蛋白FSP27のカルボキシル末端に存在する陰性電化を有する酸性アミノ酸群が必須であることを見いだしました]
Tanaka Y, et al: Circulating progranulin level is associated with visceral fat and elevated liver enzymes: Significance of serum progranulin as a useful marker for liver dysfunction. Endocr J 2014 Sep 17.
[新規脂肪細胞分泌因子PRGNの血中レベルが内臓脂肪面積と相関し、肝機能酵素上昇の原因となっている可能性を明らかにしました]
Tateya S, et al: VASP increases hepatic fatty acid oxidation by activating AMPK in mice. Diabetes 62:1913-1922, 2013
[NOの下流分子の一つであるVASPが肝臓の脂質酸化に促進的に作用していることを見出し、脂肪肝の病態解明に寄与しました]
Tateya S, et al: Recent advances in obesity-induced inflammation and insulin resistance. Front Endocrinol (Lausanne) 4:93, 2013
[肥満・糖尿病発症に寄与する脂肪組織や肝臓での慢性炎症の分子機構についてReviewを発表しました]
Tateya S, et al: Endothelial NO/cGMP/VASP signaling attenuates Kupffer cell activation and hepatic insulin resistance induced by high-fat feeding. Diabetes 60:2792-2801, 2011
[NO/cGMP/VASPシグナルが肝臓の在住マクロファージであるKupffer細胞の慢性炎症を抑制し、糖尿病治療薬のターゲットとなる可能性を提示しました]
Handa P, Tateya S, et al: Reduced vascular nitric oxide-cGMP signaling contributes to adipose tissue inflammation during high-fat feeding. Arterioscler Thromb Vasc Biol 31:2827-2835, 2011
[NO/cGMP/VASPシグナルが脂肪組織のマクロファージでの慢性炎症の抑制に寄与し、糖尿病治療薬のターゲットとなる可能性を明らかとしました]
Tateya S, et al: An increase in the circulating concentration of monocyte chemoattractant protein-1 elicits systemic insulin resistance irrespective of adipose tissue inflammation in mice. Endocrinology 151:971-979, 2010
[血中MCP-1の上昇が全身のインスリン抵抗性を誘導することを証明し、MCP-1/CCR2パスウェイの抑制が糖尿病治療のターゲットになる可能性を示しました]
Kawaguchi T, et al: The t-SNAREs syntaxin4 and SNAP23 but not v-SNARE VAMP2 are indispensable to tether GLUT4 vesicles at the plasma membrane in adipocyte. Biochem Biophys Res Commun 391:1336-1341, 2010
[脂肪細胞におけるインスリン依存性のGLUT4小胞の細胞膜への移行過程で、t-SNAREとVAMP2の役割を明らかにしました]

<メンバー>

教 員田守義和
医学研究員楯谷三四郎
大学院生中島進介、西本祐希、岩橋泰幸
研究補助員繁田さとみ

<問い合わせ>

詳細の問い合わせは次のメールアドレスまで。
田守 義和
メールアドレス

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