神戸大学 神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・代謝・内分泌学分野
研究グループ紹介
インスリン抵抗性研究グループ

私達の医学研究に対する考え

大学医学部は医師を育てる機関であるとともに、より良い医療、明日の医療を創出する場でもあります。現在の知識や技術では解決できない医学・医療上の問題を明らかにし、その解決を目指す研究活動は大学医学部に課せられた重要な使命の一つです。

大学医学部では基礎系講座でも多くの研究活動が行われています。しかし、臨床に根ざした問題を出発点とし、その基本メカニズムの追求を通じて問題の解決を目指し、最終的には実地医療への還元を図るというスタンスは、臨床講座に特有のものといえます。世界的に見ても、医師でありかつ研究者である Physician Scientist は医療・医学の進歩に大きな役割を果たしてきました。

私は後期研修の終了後、できるだけ多くの人が大学院へ進学し研究を行うことを勧めます。明日の医療への道を拓く質の高い医学研究を支えるのは若い皆さん達です。自らの研究者としての可能性を追求し、新しい医療の創出を目指す人たちを積極的にサポートします。

また、実地臨床を将来の自分のフィールドと考える人にとっても、研究に携わることは大きな有用性があります。研究を通じて養われる現象の裏にある本質を理解する能力、疾患・病態のメカニズムを見据えてより良い医療に生かす能力は優れた臨床家にとっても必須の資質となるからです。

多くの若い人材の私達の研究グループへの参加を期待しています。

グループリーダー 小川 渉


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最近の主要な基礎研究論文
Li S et al. Role of S6K1 in regulation of SREBP1c expression in the liver. Biochem Biophys Res Commun. 2011;412(2):197-202
[肥満や過剰栄養状態でS6K1と呼ばれる酵素が過剰に活性化することが脂肪肝発症の原因となることを明らかとしました]
Takashima M et al. Role of KLF15 in regulation of hepatic gluconeogenesis and metformin action. Diabetes. 2010; 59(7):1608-15
[抗糖尿病薬であるメトホルミンの作用に肝糖新生を制御する転写因子であるKLF15が重要な機能を担うことを明らかとしました]
Nakamichi S et al. Role of the E3 ubiquitin ligase gene related to anergy in lymphocytes in glucose and lipid metabolism in the liver. J Mol Endocrinol. 2009; 42(2):161-9
[GRAILと呼ばれる分子が肝臓の糖代謝や脂質代謝にかかわる遺伝子の発現の調節に重要な機能を果たすことを明らかとしました]
Yoshioka T et al. Identification and characterization of an alternative promoter of the human PGC-1alpha gene. Biochem Biophys Res Commun. 2009;381(4):537-43.
[脂肪酸酸化やミトコンドリア機能制御に重要な役割担う転写コア口ベーターPGC1αに別のプロモーターから転写される新規アイソフォームが存在することを明らかとしました]
Okamoto Y et al. Restoration of glucokinase expression in the liver normalizes postprandial glucose disposal in mice with hepatic deficiency of PDK1.Diabetes. 2007; 56(4):1000-9
[肝臓のインスリン作用のうち食後血糖制御に最も重要なものはグルコキナーゼの発現誘導作用であることを明らかとしました]
Inoue H et al. Role of hepatic STAT3 in brain-insulin action on hepatic glucose production. Cell Metab. 2006; 3(4):267-75
[中枢神経を介したインスリンによる肝糖産生の新規な制御のメカニズムを明らかとしました]
Inoue H et al. Role of STAT-3 in regulation of hepatic gluconeogenic genes and carbohydrate metabolism in vivo. Nat Med. 2004 ;10(2):168-74. PMID: 14716305
[転写調節因子であるSTAT3が肝臓の糖産生の制御に重要な働きをすることを明らかとしました]
Matsumoto M et al. PKCλ in liver mediates insulin-induced SREBP-1c expression and determines both hepatic lipid content and overall insulin sensitivity. J Clin Invest. 2003; 112(6):935-44.
[蛋白キナーゼPKCλが肝臓における中性脂肪の蓄積とインスリン感受性の決定因子の一つであることを明らかとしました]
Miyake K et al. Hyperinsulinemia, glucose intolerance, and dyslipidemia induced by acute inhibition of phosphoinositide 3-kinase signaling in the liver.J Clin Invest. 2002; 110(10):1483-91.
[PI3キナーゼの活性化障害により糖尿病が誘導されることを明らかとしました]
Sakaue H et al. Requirement for 3-phosphoinositide-kependent dinase-1 (PDK-1) in insulin-induced glucose uptake in immortalized brown adipocytes. J Biol Chem. 2003;278(40):38870-4.
[脂肪細胞におけるインスリンによる糖取り込みの活性化にPDK1が必須の機能を担うことを明らかとしました]
その他の研究論文(共同研究など)
Deng L et al. Hepatitis C virus infection promotes hepatic gluconeogenesis through an NS5A-mediated, FoxO1-dependent pathway. J Virol. 2011; 85(17):8556-68
[C型肝炎ウイルスによるインスリン抵抗性発症機構に関する研究(本学微生物学分野との共同研究)]
Zheng W et al. Maternal phosphatidylinositol 3-kinase signalling is crucial for embryonic genome activation and preimplantation embryogenesis. EMBO Rep. 2010; 11(11):890-5
[インスリン作用の必須の媒介因子であるPDK1の胚成熟における機能の研究(スェーデン、ウメア大学生化学との共同研究)]
Ito K et al. PDK1 coordinates survival pathways and beta-adrenergic response in the heart. Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 May 26;106(21):8689-94.
[インスリン作用の必須の媒介因子であるPDK1の心機能の制御に関する研究(千葉大学循環器内科他との共同研究)]
Park SG et al. The kinase PDK1 integrates T cell antigen receptor and CD28 coreceptor signaling to induce NF-kappaB and activate T cells. Nat Immunol. 2009;10(2):158-66
[インスリン作用の必須の媒介因子であるPDK1のT細胞活性化における機能の研究(イェール大学免疫学他との共同研究)]
Haga S et al. The survival pathways phosphatidylinositol-3 kinase (PI3-K)/phosphoinositide-dependent protein kinase 1 (PDK1)/Akt modulate liver regeneration through hepatocyte size rather than proliferation. Hepatology. 2009;49(1):204-14
[インスリン作用の必須の媒介因子であるPDK1の肝再生における機能の研究(北海道大学移植外科との共同研究)]
最近の主要な臨床論文
Nishida Y et al. Regulation of muscle genes by moderate exercise. Int J Sports Med. 2010;31(9):656-70.
[低強度の筋肉運動においてもミトコンドリアや脂肪酸酸化に重要な機能を果たすPGC1αが骨格筋で誘導されることを明らかとしました]
Hirota Y et al. Deterioration of glycaemic control associated with anti-insulin antibodies likely induced by health supplements. Diabet Med. 2009; 26(9):948-51
[サプリメントによってインスリン抵抗性を惹起するインスリン自己抗体が産生することを明らかとしました]
Ogawa W et al. Two related cases of type A insulin resistance with compound heterozygous mutations of the insulin receptor gene. Diabetes Res Clin Pract. 2009;83(3):e75-7.
[複合ヘテロ遺伝子変異を伴うA型インスリン抵抗症症例(姉妹)の例を初めて報告しました]
Ishida Y et al. Alpha-lipoic acid and insulin autoimmune syndrome. Diabetes Care. 2007; 30(9):2240-1
[αリポ酸によって引き起こされたインスリン自己免疫症候群の症例を報告しました]

私達の研究実績の紹介

インスリン抵抗性はインスリンの代謝調節作用が十分に発揮できない状態であり、糖尿病のみならず高血圧や脂質代謝異常などの多くの生活習慣病に共通する病態基盤と考えられています。私たちのグループでは、インスリン作用とその障害のメカニズムを解明し、インスリン抵抗性に対するより良い治療法の開発を目標として様々な研究を行ってきました。

インスリンの代謝調節作用はPI3キナーゼにより媒介される可能性が指摘されていましたが、実際にPI3キナーゼ活性が障害されると、脂肪細胞、筋肉細胞、肝細胞といったインスリンの生理的標的細胞で様々な代謝障害が生じることを明らかとしました。(Mol Endocrinol. 1997 11(10):1552-62., J Biol Chem. 1999;274(30):21305-12., J Biol Chem. 1999 16;274(29):20611-8.)
さらに、個体レベルでもPI3キナーゼの活性化を抑制することにより高血糖や脂質代謝障害が惹起されることも世界に先駆けて報告しました。(J Clin Invest. 2002 110(10):1483-91.)
また、PI3キナーゼの下流ではAktやPKCλといった蛋白キナーゼが様々な作用を伝達することも明らかとしてきました。(Mol Cell Biol. 1998 18(7):3708-17, Mol Cell Biol. 1998 18(12):6971-82, Mol Cell Biol. 1999 19(9):6286-96, J Clin Invest. 2003 112(6):935-44)

肝臓における遺伝子の発現制御は糖・脂質代謝と深く関連しています。最近は、肝臓における遺伝子発現制御と糖・脂質代謝についての研究を進めています。転写調節因子STAT3が肝臓における糖代謝の発現制御に重要な役割を担うこと、STAT3シグナルを特異的に活性化することにより高血糖や脂肪肝といった種々の代謝障害が改善することを明らかにしました。(Nat Med. 2004 10(2):168-74.)さらに、肝臓のSTAT3は中枢神経を介したインスリン作用の発現に重要な役割を果たすことも見出しました。(Cell Metab. 2006 3(4):267-75)
また、蛋白キナーゼPKCλが肝臓の脂肪酸代謝に重要な機能を果たし、中性脂肪の蓄積やインスリン感受性の決定因子の一つであることを見出し(J Clin Invest. 2003 112(6):935-44.)、肥満や過栄養状態におけるタンパクキナーゼS6K1の活性化が脂肪肝の原因となることも明らかとしました(Biochem Biophys Res Commun. 2011;412(2):197-202)。また、転写調節因子KLF15の発現がインスリンによって制御を受け、肝臓の糖新生に関与すること(Biochem Biophys Res Commun. 2005 18;327(3):920-6.)、肝臓でのKLF15の発現増強が糖尿病における肝糖新生亢進の原因の一つとなることも見出しました(Diabetes. 2010 59(7):1608-15)。またKLF15は抗糖尿病薬であるメトホルミンの作用の発現に重要な役割を担うことも明らかとしました(Diabetes. 2010 59(7):1608-15)。

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