神戸大学 神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・代謝・内分泌学分野
留学体験記

海外留学を経て日本で活躍されている先生、現在まさに海外で研究を続けておられる先生などの貴重なお話を掲載します。
是非、お役立てください。

from Menphis

from Boston

Barbara B. Kahnラボで2年間の留学生活をおくられた細岡先生の体験記です。

細岡哲也 Tetsuya Hosooka


留学までの経緯

私は、1994年、神戸大学第二内科教室(現、糖尿病・代謝・内分泌内科教室)に入局し、4年間、関連病院にて臨床研修を行いました。
研修後、大学に戻って研究をし、学位を取得するというのが一般的な流れになっていたことと、臨床を将来続けていく上で一度は基礎研究を経験した方が臨床力が深まるだろうという程度の軽い気持ちで私の研究生活はスタートしました。
当時の研究は、培養細胞を用いたインスリンシグナル研究で、疾患とは少し距離のある研究ではありましたが、自分しか知らないもちろん医学書には載っていない明瞭なウエスタンブロットの結果に大変興奮したのをよく覚えています。
こうして臨床の面白さとは異なる基礎研究の面白さに魅了された私は、研究を続けていくうちに留学してさらにいろいろな経験を積みたいと考えるようになりました。

歴史と学問の都市ボストン

2008 年 1 月、念願であった留学が叶い、家族4人でボストンにやってきました。
「アメリカ発祥の地」と呼ばれるこの街は、ヨーロッパの雰囲気をとどめた古い建物と高層ビルが不思議と調和する大変に趣の深い街です。また、ボストン美術館をはじめとした数々の美術館、ボストン交響楽団や、松坂の活躍するボストンレッドソックスなど芸術やスポーツの街でもあります。

そして、何よりもボストンを世界に知らしめているのが、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学などの世界最高峰の大学とこれらに付随した世界をリードする病院・研究機関です。その中の一つ、Barbara B. Kahnラボで2年間の留学生活を経験することになりました。

Barbara B. Kahnラボでの研究生活

細川先生

糖尿病・内分泌の領域で研究をしている人なら彼女の名前を耳にしたことがある人も少なくないと思います。これまでに、GLUT4, AMPK, PTP1Bといったエネルギー代謝調節のキープレイヤーである分子の生理的・病態生理的役割を明らかにされています。最近では、新規アディポカインRBP4が、インスリン抵抗性を引き起こすことをマウスレベルで証明するとともに、ヒトにおいてもこのアディポカインがインスリン抵抗性と密接に関わっていることを報告しています。

私自身が彼女のラボを志望したのもやはりこのような数々のすばらしい仕事に魅了されたからにほかなりません。彼女は、研究面に関しては妥協を許さぬ厳しい人物であるとともに、日曜以外は毎日、日付が変わるまで働くハードワーカーでもあります。夜中の1時くらいまでにメールを送ると必ずその日のうちに長いメールが返ってきます。研究面以外で彼女について特筆すべきは、彼女が日本人の気質や特徴をよく理解してくれていることです。そしてコミュニケーションの面においても聞き取りやすい平易な語彙を用いて丁寧に説明してくれたり、変な英語をしゃべってもこちらの意図を汲んでくれたりと細やかな気配りを持った人物です。

Barbara B. Kahnラボあるいは周辺のラボは、日本と比べると早い時間に多くの人が帰宅していきます。私自身も、朝8~9時ごろにラボに行き、夜10時の最終バスに間に合うよう9時半くらいまでにはラボを出るというパターンで研究をやっていました。日本での研究生活と比べるとずいぶん早く帰宅していました。これは、もちろん臨床業務がないことが大きいのですが、これ以外にも、投資によって研究自体の効率化や分業化が進んでいること、また共同研究が容易である環境などが関係しているのではないかと想像しています。

例えば、ある遺伝子のアデノウイルスが必要となった場合には、我々のラボのようなphysiology中心のラボでは、業者に外注したり大学のfacilityに依頼したりすることにより、本人はほとんど労力を使わずに済ませてしまいます。
また、例えば、簡単なアッセイであってもラボであまり馴染みのないものについては自分達でやらずに共同研究にもっていったりといった具合です。

データのプレゼンテーションに関しては多くのことを学びました。
我々のラボでは、週に1度ラボミーティングがあり、月に1度データのプレゼンテーションが回ってきます。ポジティブデータがほとんどないことを時にありますが、やはりしっかりとプレゼンすることが求められます。また、ラボミーティングとは別に週1度の個人的なミーティングがあり、より詳細なデータの報告と今後の方向性についてのディスカッションを行います。

このような場で感じたことは、アメリカではプレゼンを非常に大事にするということです。ストーリーの展開やスライドの構成などはもちろんですが、これ以外にもジェスチャーや声の抑揚をうまく使ったり、witの効いたスライドを用意したりと発表者はデータのみならず自分自身を強くアピールします。

アメリカ(ボストン)で研究していると、unpublishなさまざまな情報がスピーディーに入ってきます。
Barbara B. Kahnラボが属するベスイスラエルホスピタルはボストンのロングウッドと呼ばれる地区にあるのですが、ここには他にもジョスリン、ダナファーバー、ブリガム、チルドレンホスピタルなどの優れた病院・研究機関が集結しています。そしてジョイントラボミーティングやセミナーが毎週どこかで行われていて、ロングウッド地区の中だけでも最新の興味深い話を簡単に聞くことができます。

また、Barbaraのラボを含めて大きなラボにはトップジャーナルからレビューの依頼が来ることが多く、このような機会を通じてunpublishの論文を目にする機会も少なくありませんでした。こういった点においては、アメリカならではの利点を感じずにはいられませんでした。

おわりに

2年間の留学の中で、日本では経験することのできない貴重な勉強をすることができました。
また、多くの優れた研究者と知り合うことができたことは、自分にとって素晴らしい財産になったと思っています。経済的な面など苦労する部分ももちろんありましたが、満足のできる留学生活を送ることができました。

近年日本の研究レベルがアメリカにほぼ追いつき、以前と比べて留学のメリットがなくなっていきたということをしばしば耳にします。確かに研究自体に関しては、正しいと思います。しかしながら、世界を主導するアメリカの研究生活を肌で感じることは長期的には研究者として間違いなくプラスになるのではないかと私自身は信じています。

最後に現在留学を検討中の方へのメッセージとして、留学にはいろいろな目的がありますが、研究に対する志の高い人にとってボストン/アメリカは間違いなく最高の環境であると思います。いい仕事をしたい人、大きな業績をあげたい人、研究を極めたい人、日本で行き詰っている人など多くの方が留学され世界の場でご活躍されることを期待しております。

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