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教授挨拶

心臓血管外科 教授
岡田 健次
岡田健次 教授

本年も心臓血管外科は患者第一の診療を継続、徹底してゆく所存でございます。コロナ禍のよる数多くの制限のため実に働きにくい環境ではありましたが令和5年5月8日に第5類に認定され、以前の状況に戻りつつあります。

大学病院の使命は診療・教育・研究であります。我々は診療に最も重きを置いており、大学病院の全面的な協力を受け24時間緊急患者を断らないポリシーを貫くと医局員一同覚悟を決め対応しております。特に大動脈緊急症に対しては遠隔地画像確認システムを取り入れ、救急搬送される前に関係部門で患者情報を共有し、手術スタッフの意識統一、物品を含む準備態勢を整え一秒たりとも無駄にしない治療を目指しております。また標準的な治療は当然のことながら、心移植以外のあらゆる心臓血管疾患に対する手術を提供し続けたいと思います。大動脈外科治療に関しては高齢者、脆弱性を有する患者様にはステントグラフト挿入術に代表される血管内治療を選択し、耐術可能な方には遠隔期血管関連の合併症が少ない広範囲人工血管置換術を積極的に選択しております。弁膜症においては、ご自身の弁膜(大動脈弁・僧帽弁)を温存する手術(自己弁温存大動脈基部置換術・僧帽弁形成術)は適応を敵確に選択すれば良好なQOL(生活の質)が得られるため第一選択としております。大動脈弁置換術や僧帽弁形成術では小さな創で手術を行う低侵襲心臓手術を安全性を確保しながら治療適応を拡大し、患者様のニーズに対応しております。人工心肺を使用しない低侵襲なオフポンプ冠動脈バイパス術は合併症軽減、早期退院に貢献しており当院でも20年の歴史を有する標準的な治療法であり、両側内胸動脈グラフトを積極的に導入することで安定した経過が得られています。

循環器内科教室との連携は極めて良好でありハートチームを形成し一人一人の患者様に最適な治療法を提案、選択いただき治療を遂行するShared decision making(SDM)を実践しております。経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)、僧帽弁閉鎖不全症に対するクリップ治療の選択、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対する血栓内膜摘除術・バルーン形成術・薬物治療の選択、重症心不全に対する治療選択などがハートチームで常時検討しています。重症心不全は増加しており薬物治療が限界に達し心移植適応と判断された患者様には植込型補助人工心臓治療も継続的に施行しています。また移植適応のとれていない重症者にも適応基準を遵守し、昨年よりdestination therapy(DT治療)の認可を受け施行しており治療の選択枝を増やしております。また小児期に心臓手術を受けられた患者様の移行期医療も兵庫県立こども病院と当院循環器内科が主体となり協力し患者情報共有のための定期的なミーティングを開催し、手術手技の安定化のための協力体制を確立しており、今後シームレスな治療の確立を目指してゆきたいと思います。兵庫県循環器病対策推進協議会でも重要な推進事業に挙げられています。

教育は大学病院の責務であります。瀕死の方を救命できることは望外の喜びであり、この最高の歓びを若手医師・学生に伝える義務があります。ただこの状況に遭遇できるためには高い技術、知識、知恵が必要で適切な指導、教育が必須です。独立した心臓血管外科医になるためには少々時間を要する訳ではありますが、我々の所属する胸部外科学会、心臓血管外科学会、血管外科学会、3学会構成心臓血管外科専門医認定機構では若手育成のための様々な育成プロジェクトが進行中であり、若手医師教育には真摯に向き合っております。神戸大学心臓血管外科グループは約20の関連施設を有しており活発な人的、学術的交流を継続し計画的に若手医師を教育しています。

研究も大学病院の責務であります。心臓血管外科は実学の世界ではあります。数多くのガイドラインがありエビデンスに基づいた標準的な治療が推奨されますが、我々は「ガイドラインの向こう側」を目指し、基礎的な研究であれ実臨床に直結する研究を目指します。ガイドラインは一つの目安であり法律ではありません。我々は研究成果にもとづき院内の倫理審査承認を受けさらなるその向こう側、どんなに小さなことでも一歩でも前を目指し成績向上に努めており、従来のスローガンである”never give up”のスピリッツを引き継いでいます。

本年度よりいよいよ働き方改革が本格的に導入されます。我々の領域も長時間労働になりがちでありますが、勤務時間・超過勤務時間を厳守する必要があります。第一選択となる日々の臨床レベルを落とすことなく、研究・教育も維持するという難しい舵取りを要求されます。「自ら責任を持ち、主体的に判断し、自主的に行動する時、人は最大の力を発揮する」と言われますが、今後限られた時間内で仕事をする場合の重要な行動規範になると思います。

この挨拶をご覧いただける方々は様々であると思いますが、患者-医師関係、医師-医師関係、医師-学生関係に良好なコミュニケーション・人間関係をさらに高め、より良質な医療を提供できるよう日々粛々と精進してゆきたいと思います。よろしくお願いいたします。

令和6年1月吉日
神戸大学大学院医学研究科 外科学講座 心臓血管外科分野
岡田健次