神戸大学大学院医学研究科
外科系講座 麻酔科学分野
Kobe University Graduate School of Medicine, Faculty of Medicine,
Department of Surgery Related, Division of Anesthesiology and Perioperative medicine. 

研究紹介

 研究の動機は、「
なんで、どうして、そうなるの?」などの臨床上の疑問を解決するため、新しいことを発見すること自体が楽しい、などの知的好奇心から、「世の中の役に立ちたい、社会がかかえる問題の解決に貢献したい」などの使命感など、各人さまざまであると思います。

 当講座では、2009年から研究室を再構築し、「昨日まで世界になかった医療を明日に」を合言葉に、基礎研究から臨床医学への応用を念頭に、基本に立ち返り(Back to the basic with innovative manner)、病態の解明や新しい治療法の開発を行う研究環境を通じて、研究心を持った臨床医を育成します。

主な研究テーマ

1)HIF-1の生理作用の解明
 低酸素によって活性化される転写因子 Hypoxia-inducible factor-1 (HIF-1)は、HIF-1αとβサブユニットからなるヘテロ二量体であり、各種解糖系酵素、グルコース輸送蛋白、血管内皮増殖因子(VEGF)、 エリスロポイエチンなど、多くの遺伝子の発現を転写レベルで制御し、細胞から組織・個体にいたる全てのレベルの低酸素適応を制御している。
 共同研究者の冨田准教授(徳島大学薬理学講座)がCre LoxPシステムを利用して脳特異的HIF-1ノックアウト(k/o)マウスの作製に成功し(Mol cell Biol, 23: 6739-6749, 2003)、HIF-1 k/oマウスの脳では、アポトーシスが生じ、神経細胞数が減少し、水頭症様脳構造を呈していた。

       HIF-1 k/o mice             wild mice

  

 さらに、そのアポトーシス細胞には2種類存在することや(Histochem Cell Biol, 125:535-544, 2006)HIF-1 k/o マウスの海馬でのBBBの機能異常には老化が関係していることなどを報告した(Microsc res tech, 69:29-35, 2006

 またHIF-1が低酸素プレコンデションの中心的役割を果たすことも発見しJ Clin Neurosci, 16:1056-1060, 2009さらに、T細胞特異的なHIF-1 ko/oマウスで血管リモデリングにおけるT細胞のHIF-1αの役割(Arterioscler Thromb Vasc Biol, 30:210-217, 2010)についても、明らかにした。

 今後もさらに、冨田准教授と上野准教授(香川大学炎症病理)と、HIF-1αを介した生体防御(免疫)における生理機能制御など、低酸素環境下の生体機能調節におけるHIF-1αの役割の解明に関する研究を展開していきます。

2)麻酔薬の脳発達に及ぼす影響とその予防法の開発(Safe kid project

 2003年の麻酔薬が新生仔ラットの脳神経発達に影響を与える」という報告は、わたしたち麻酔科医にとって衝撃でありました。今まで、「この子が全身麻酔を受けて、将来に何か影響はありませんか?」 と親から聞かれた時、麻酔科医として、「妊娠初期の催奇形性の問題以外には、現代麻酔学では安全ですと答えてきました」が、その根拠が揺らいできました。

 そこで、2007年からの科研の基盤研究Cで、8方向迷路学習を通じて、脳の高次機能の面から新生仔マウスの吸入麻酔薬暴露の影響の解析を開始して、吸入麻酔薬暴露による脳の発達障害には、暴露時期や時間が大きく関与していることを発見しました。さらに2010年からの科研の基盤研究C、若手研究Bを通じて、脳神経ネットワーク構築時期の吸入麻酔薬暴露の影響を解明し、その予防法の開発し、ご両親に「お子さんには、安心して全身麻酔を受けていただけます」と言えるような、情報の発信を目指します。

 新生仔マウスへの麻酔薬の暴露風景

What’s new!
 日本麻酔科学会 第57回学術集会のシンポジウムで、研究グループの土本が「新生仔マウスの神経発達に及ぼすイソフルランの暴露時間及び暴露時期の影響」という内容で講演しました。
 今後ますますこの分野でのopinion leaderとして、情報を発信していく予定です。

3)敗血症の新しい治療法の開発
 敗血症では、LPSが刺激となり、各種のシグナル伝達を介し、NFkBやAP-1などの転写因子が誘導され、TNF alphaなどの炎症性サイトカインが産生され、臓器障害へと進展していく。過去、臨床でTNF alphaの中和抗体の投与では、生存率の改善は認められず、現在も様々治療法が検討されている。
 当講座では、神戸大学リウマチ学の塩澤教授との共同研究で、TNF alpha のDNAのプロモーター領域に転写因子であるAP-1が結合するのを抑制する薬剤T-5224(Nature biotechnology, 26: 817-823, 2008)を利用して、敗血症に対する臓器障害の抑制や生存率の改善などの結果を得ています。さらに各種の臓器障害に対する有効性の研究を進め、「昨日まで救えなかった敗血症患者を救う」ための創薬につながる研究を展開しています。
T-5224によりcFos/AP-1 がTNF alphaのDNAのプロモーター領域の結合を阻害し、TNF alpha産生を抑制する機序

What’s new!
 研究グループの石田が日本麻酔科学会 第57回学術集会の最優秀演題賞を受賞し、6月4日のJapan Nightで授与式がありました。

演題名は
cFos/activator protein-1 選択阻害薬はTNF alphaを抑制し、敗血症性ショックを軽減する」です。

 この受賞を第一歩として、今後ますますこの分野での研究を発表し、「昨日まで救えなかった敗血症患者を救う」ための創薬につなげていきたいと考えています。

4)希少糖の生理活性の解明
 希少糖とは、自然界に微量にしか存在しない単糖(糖の機能的最小単位)で、香川大学で希少糖(単糖)を用いて生理活性を探求する研究が始まり、平成14年度からは知的クラスター創生事業に採択され、産学官共同研究がスタートし、植木は香川大学時代からその一環で希少糖のひとつであるアロースの生理作用の研究を開始した。
 アロースは、腎の虚血再灌流障害時に好中球の活性化因子であるCINC-1を抑制し、腎障害を軽減することを発見しました(J Biosci Bioeng, 104:304-308, 2007)。またアロースは敗血症性腎障害時にも、TNF alphaを抑制し、腎障害を軽減していましたJ Biosci Bioeng, 105:481-485, 2008)。さらに、他の単糖類の新規作用まで研究を展開し、新たな糖の生理作用の発見にもつながった(Tohoku J Exp Med, 218-35-40, 2009, Tohoku J Exp Med, 219:215-222, 2009)。

5)急性腎障害の早期発見と治療法の開発
 最近RIFLE分類やAKIN分類で急性腎障害を定義し、早期発見・早期治療介入して、予後を改善しようと試みられている。当講座では、周術期の急性腎障害や慢性腎障害の急性増悪などから、慢性透析導入にならないような治療法の開発を行っている。
ヒト心房性利尿ペプチド(ハンプ)は急性左心不全の治療薬で、腎障害に対する有用性が報告されているが、その機序は不明な点が多かった。ヒト心房性利尿ペプチドによる急性腎障害の改善作用は好中球活性化抑制作用にあることを動物実験で解明した(Tohoku J Exp Med, 215257-266, 2008)。さらに腎障害からの回復を腎再生因子を介して促進しているという、ヒト心房性利尿ペプチドの新たな作用を発見したJ Biosci Bioeng, 2010, in press。今後さらに、臨床応用して、周術期の腎保護戦略を確立していく予定である。

実験風景

 

 

研究担当責任者 植木