心臓血管外科−各論−
home 目次
CABG OPCAB 弁疾患 大動脈疾患
1.CABG
術前チェックポイント
狭心症
狭心症発作の頻度・持続時間・労作との関係。危険な不整脈は?
薬は効くのか?服用中の薬(冠動脈拡張薬)はあるのか?
発作時、心電図でどの誘導で変化が認められるのか。
冠動脈造影でどの部位に狭窄が存在したか?
心筋梗塞
いつ発症したのか?(6ヶ月以内?緊急手術は?)
心筋の壊死の度合いは?どの部位が梗塞になっているのか?
虚血の危険性がある部位は?
現在の患者の活動量は?(階段昇降、風呂・シャワーなど)
心不全症状はあるのか?水平仰臥位で寝ることは可能か?
危険な不整脈は?
心機能は?(低下とはエコーにて%FS<30%、カテにてEF<50%)
緊急度:登用されている薬剤は?IABPは?挿管されている?多源性または多発性心室性不整
脈は?心室性頻拍?心室細動?
術式は(on pump or off pump)?、グラフトは?どこの場所に?
注意点
過換気、hypovolemia、低血圧は厳禁!動脈グラフト使用時は特に厳禁!!
頻脈も避ける。
動脈グラフト使用時は体血管抵抗上昇(スパスム)にも注意!
ITA剥離時の開胸器による心臓圧迫に注意(特にRITAの時)。
パパベリン使用時の血圧低下(血管拡張による)に注意。
冠動脈疾患患者は動脈硬化が進行している場合が多いので、送血管挿入・抜去時、Aoクラン
プ・デクランプ時には必ず両側頚動脈を圧迫する。
NTGはAoクランプ時には投与中止し、デクランプ後投与再開する。
換気再開時、ITAグラフトが肺の加圧によりtensionがかかることがあるので、術野を見ながら肺
を加圧する。
ST・Tチェンジが認められたら術者に告げ、NTGの冠動脈注入などを行う。
塩化カルシウムはreperfusion injuryの危険性を伴うので必要最小限にとどめる。
橈骨動脈、GEAをグラフトに用いた場合、スパスムスを起こしやすいのでヘルベッサーの持続投
与を行う。
2. OPCAB
人工心肺を用いず、常温で心拍動下で血管吻合を行う。
OPCABの利点
人工心肺を用いないので次のような症例では有利である。
1. 脳血管障害(脳出血・脳梗塞)や、一過性脳虚血発作等の既往。
2. 頚動脈病変(70%以上の狭窄)を有する患者。
3. 肝硬変などの肝機能低下症例。
4. COPDなどの肺機能低下症例。
5. 高齢者、低栄養。
6. 出血傾向
7. 腎機能低下、透析患者。
8. 癌患者
OPCABの相対的禁忌
極端な心拡大。
冠動脈の心筋内走行および高度石灰化。
OPCABの実際
胸骨正中切開で行う(狭義のOCAB)。
グラフト採取。
ヘパリン化(ヘパリン投与量はOn pumpの半量)。
Ischemic preconditioning(IP)(吻合予定部の近位を事前に遮断することで虚血の耐性を持たせ
る)。
深部心膜牽引糸(deep pericardial suture: DPS)をかける。
回旋枝や右冠動脈吻合時、心臓脱転。
弾力性のあるエラスチック糸で冠動脈の中枢側と末梢側をsnaring。
炭酸ガス吹きつけによる無血視野を得る。
吸着型スタビライザー(オクトパス)で心臓を脱転する。
心臓脱転:手術台を頭低位、術者側に転回させたトレンデレンブルグ体位。
麻酔科からみたOPCABの問題点
心臓脱転時の血圧維持:心臓を垂直に挙上→右室流出路の抵抗増大→右室からの拍出量減
少→左室への還流量減少→左室からの拍出量減少→血圧低下
心電図や経食道エコーがモニターとして当てにならない。
肺動脈圧が上昇して血圧が下がる場合は続行困難。
吻合部位と血圧低下の程度Cx>RPD>RCA=LAD
対策:トレンデレンブルグ体位、メトキサミン・ノルエピネフリン投与、volume負荷,ポンプコンバ
ージョン(on pumpに変更)。
冠動脈遮断時の心筋虚血・不整脈
影響はRCA>LAD>RPD=Cx
心臓脱転時の心拍出量の低下による冠血流の低下、冠動脈遮断による末梢側の虚血,冠動
脈遮断解除後の再潅流障害→血圧を上げる,NTG投与,シャントチューブの使用。
右冠動脈操作中の徐脈あるいは房室ブロック→ペーシング。
心臓操作時には心室期外収縮、ひいては心室細動が起こりやすい→リドカイン投与、電気的
除細動
血行再建後の心拍出量の低下
多枝バイパス術後は心臓挙上、圧迫、冠動脈遮断による心筋虚血、再潅流障害による心筋障
害により心収縮力の回復が遅れることあり→カテコラミン、PDEIII阻害薬、血管拡張薬、IABP
低体温
体外循環による体温保持がないので低体温に傾きやすい→循環不全・LOS
3.弁疾患
僧帽弁狭窄(MS)・閉鎖不全(MR)、大動脈弁狭窄(AS)・閉鎖不全(AR)など。
術前のチェックポイント
心不全症状はあるか?水平仰臥位は可能か?
不整脈は?心房細動?洞調律?
ジギタリス製剤(ジゴシン、ジギトキシン)の服用は?
活動度(階段昇降、風呂シャワー?)
利尿剤(ラシックス,アルダクトン)の服用は?カリウム製剤は?
心機能:エコー(%FS)、左室造影(EF)
緊急症例:感染性心内膜炎IE(infection endocarditis)は、心筋は元気だが,突然僧帽弁や大動
脈弁の逆流が発生して、全身に充分な血液を送ることができない。心不全症状を呈する。
慢性症例:心筋はある程度障害されている。
弁疾患は特に病体の進行度、治療の有無により患者の病体は様々であり、現症の把握は重
要である。身体所見、検査データより前負荷、心拍数、リズム、収縮力、体血管抵抗、肺血管
抵抗を把握する。右心カテーテルの所見がない場合は、麻酔導入前に肺動脈カテーテルを留
置することを考慮する。弁の種類、アプローチ法、心筋保護等の手術内容をよく把握し、術後
の呼吸管理を含めて麻酔計画を立て、必要に応じて、心臓外科医、人工心肺係と打合を行う。
注意点
心不全の強い場合は前投薬を軽減する。
水平仰臥位が不可能なら上体を起こした状態での搬送の指示も→麻酔導入も入眠まではそ
のままの体位で。
経食道エコーは優先的にSONOS 5500を準備する。
重症例(重症大動脈狭窄症等)では,導入に伴う循環動態の悪化に備え、人工心肺・心臓外科
医を待機させる。
また,導入後も心不全増強時には、人工心肺の早期開始を考慮する。
人工心肺離脱後は
弁置換術:弁の開閉・弁周囲の逆流の有無を確認する。
弁形成術:逆流の程度(改善度)を確認、術後早期の過度の血圧上昇をさける。
4.大動脈疾患
真性動脈瘤、解離性大動脈瘤、大動脈炎症候群など。
術前のチェックポイント
気管の圧迫症状・嗄声(反回神経麻痺)・SVC syndromeはあるか?
ARや心不全・心タンポナーデはあるか?
解離性か否か?解離なら各々の枝は真空からか偽腔からか?
瘤の範囲は?どこからどこまで置換するのか?
体位・切開線は?
人工心肺の方法は?(送・脱血部位は?何度まで冷却するのか?)
大動脈の遮断はするのか?どこでするのか?
脳灌流はどうするのか?(脳保護が必要な場合は頭部冷却をする)
上行大動脈瘤(上行大動脈人工血管置換術)
<逆行性脳灌流(上田法)RCP>上大静脈より酸素化血を強制的に脳に送血する。
全身を超低体温下に循環停止し、上大静脈より酸素化血を強制的にポンプから送血、頚静脈か
ら頸動脈に逆行性に血液を潅流させ、主に脳の低体温化による脳保護を行う。
弓部大動脈に出てきた低酸素血は吸引よりポンプ回路に返す。
しかし、この方法は胸部正中切開でしかできない
逆行性脳潅流法の利点・欠点
簡単な手技で脳保護が可能、余分な回路や装置が不要。
手術時間が短縮できる。
Ao clampを行わないので動脈硬化病変があっても、脳塞栓症・大動脈損傷などをさけることが
できる。
一方,超低体温が必要,安全限界が80~90分で時間制限有り。
超低体温による血液凝固系に悪影響有り。
術前
瘤の性状(真性解離性?解離性ならDe Bakey分類は?)。
ARの有無・心タンポナーデの有無・冠動脈狭窄の有無は?
術者に手術手順を詳しく聞いておく(逆行性脳灌流か否か?送脱血の部位は?AVR・冠動脈
再建・Bentall・弓部置換の可能性は?等)
モニター
通常の開心術のモニターでよい。
しかし,弓部置換の可能性があるなら,両手と送血管挿入側と反対側の足背動脈にA-lineを確
保する。
rSO2は必ずモニタリングする。
標準術式
上行大動脈または大腿動脈送血・上下大静脈脱血にて体外循環開始→cooling(Vf)→超低体
温循環停止→瘤切開→RCP開始→心筋保護(retro)→末梢吻合→RCP終了・グラフト側枝より
送血開始(復温開始)→中枢吻合→declamp
注意点
ARがある場合cooling Vfにより血圧が維持できなくなる可能性があるのでTEEでチェックする。
循環停止時に必ずHead downする。
逆行性脳灌流中は瞳孔の左右差・rSO2の低下の程度に注意する。
また,CVPが高すぎないかもチェック(20以下)。
逆行性脳灌流が終了したら一旦,Head downを解除する。
弓部大動脈瘤(弓部大動脈瘤人工血管置換術)
<脳分離体外循環(SCP)>
3分枝(腕頭動脈・左総頚動脈・左鎖骨下動脈)より別のポンプを用いて脳灌流を行う。
脳分離体外循環の利点・欠点
回路が複雑で、手技が煩雑である。
ECCの充填量が多い。
時間的な余裕がある。
動脈硬化病変による脳塞栓症の危険性を伴う。
術前
瘤の性状(真性or解離性?解離性ならDe Bakey分類)。
上行弓部置換の場合、ARの有無・心タンポナーデの有無・冠動脈狭窄の有無は?
術者に手術手順を詳しく聞いておく(送脱血の部位は?等)。
モニター
通常の開心術のモニターに加え、両手と送血管挿入側と反対側の足背動脈にA-lineを確保す
る。
rSO2は必ずモニタリングする。
標準術式
上行Ao又はFA送血、SVC・IVC脱血にて体外循環開始→cooling(→Ao clamp・ante心筋保護)
→循環停止・瘤切開・SCP開始(→retro心筋保護)→抹消吻合→グラフト側枝より体部灌流開
始→中枢吻合→declamp3分枝再建(左鎖骨下動脈→左総頚動脈→腕頭動脈)→SCP終了→
pump off
注意点
循環停止時に必ずHead downする。
SCP中は、RA圧が30〜50mmHg前後であることを確認し、瞳孔の左右差・rSO2の低下に注
意。
遠位弓部〜下行大動脈瘤(下行大動脈人工血管置換術)
<逆行性脳灌流(高本法)RCP>
超低体温下に体部を灌流した比較的酸素飽和度の高い静脈血を、トレンデレンブルグ体位と
ECCへの脱血量を制限することで脳に逆行性に循環させる
術前
瘤の性状(真性or解離性?解離性ならDe Bakey>分類)
気管の太さ・BGA・呼吸機能のチェック
術者に手術手順を詳しく聞いておく(送脱血の部位は?左鎖骨下動脈・肋間動脈等の分枝再
建の可能性は?等)
モニター
通常の開心術のモニター(上肢のA-lineは右手)に加え、送血管挿入側と反対側の足背動脈に
A-lineを確保する。
rSO2は必ずモニタリングする。
除細動・体表ペーシング用のパット(クイックコンボ)を装着する。
標準術式
FA送血、FV(RA又はPA脱血にて体外循環開始→cooling(Vf)→循環停止・RCP開始(FAより体
部灌流開始)→瘤切開・オクルージョンバルーンにてante心筋保護注入→中枢吻合→RCP終
了・グラフト側枝より順行性脳灌流開始→抹消吻合→declamp(FA送血終了)。
注意点
瘤による気管分岐部付近の圧迫が見られる場合や、肋間開胸の既往がある場合は、右用の
Double-Lumen Tubeの使用を考慮する。
循環停止時に必ずHead downする。
逆行性脳灌流中は瞳孔の左右差・rSO2の低下の程度に注意する。
CVPが高すぎないかもチェック(20以下)。
逆行性脳灌流が終了したら一旦,Head downを解除する
MEPのモニタリングを施行する場合は、下記も参照する。