医学研究科長・医学部長挨拶

医学研究科長・医学部長

村上 卓道

神戸大学大学院医学研究科・医学部医学科の歴史は、明治2年に設立された神戸病院に遡ります。現在に至るまで先端的基礎・臨床医学研究の推進、豊かな人間性・倫理観と高度な専門知識・技能を兼ね備えた優れた医師ならびに医学研究者の養成、および兵庫県内の地域医療の充実に取り組んできました。

神戸大学は、国立大学改革の重点支援の枠組みの中で、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を2016年度から選択し、大学のビジョンとして『知と人を創る異分野共創研究教育グローバル拠点』を掲げています。神戸大学医学研究科・医学部はその一翼を担うべく、持続的な競争力を持ち、高い付加価値を生み出す国立大学の医学研究科・医学部として、病院と連携して先端的研究・イノベーション創出を目指すとともに、それを実践していける優秀な研究医・臨床医を育成することを目指しています。そして、学内他部局との連携、地域・社会との連携、産官学連携および国際連携などを強化し、目標達成に貢献します。

超少子高齢化社会に加え、今回の新型コロナウイルス災禍により、医学研究科・医学部における教育研究、医学部附属病院における診療・教育研究は大きな影響を受けました。これまでも安心・安全に留意した医療・教育・研究を行ってきましたが、社会・環境の変化に伴い、よりレジリエントで安心・安全な医療・教育・研究の実現のために、デジタル化・リモート化などを導入した体制を整備してきました。ウィズ・アフターコロナ時代の医学部教育において、学修者の心のケアにも十分配慮し、学修者本位の教育や学びの質の向上を目指します。

医学研究科・医学部での教育は、学部教育、修士課程、博士課程、それぞれにおいて委員会が設置され、これまで継続的な改革が行われてきております。卒後臨床教育を含めた一貫した教育体制を構築し、科学者としての視点とグローバルな視点を合わせ持つ医師、医学研究者を育成しています。医学部では地域特別枠、医学部・大学院一貫教育制度として基礎医学研究医養成プログラムやMD-PhDプログラムが設置されていますが、いずれも学修者が不安なく専心できるようにキャリアパスを支援していきます。

医学研究科・医学部では、最近、医療機器開発研究において目覚ましい成果が上がり、新たな特色となっています。学内では、医学研究科と工学研究科、科学技術イノベーション研究科などとの連携により未来医工学研究開発センターが設置されました。神戸医療産業都市の中では、神戸市と連携し、文部科学省地域科学実証拠点整備事業として医学部統合型医療機器研究・開発・創出拠点を形成し、工学研究科、兵庫県立大学工学研究科と連携した医工学融合研究が進められています。平成29年に神戸医療産業都市における大学医療・研究機関として設置された医学部附属国際がん医療・研究センターは、がんに対する先進的治療の推進、医工連携による革新的医療機器の研究・開発、および国際医療機関との交流を目的とした研究・教育拠点であり、患者さんに寄り添うリサーチ・ホスピタルとしての機能強化が進められています。

内閣府の地方大学・地域産業創生交付金の交付対象事業として、令和初年度、本学が神戸市・産業界と共に提案し採択された神戸未来医療構想は、社会的要請である国産医療機器開発のイノベーションを継続的に生み出すエコシステム形成の独自の取組みで、先進医療機器の研究開発を行うとともに創造的開発人材を育て、医療産業の更なる発展と若者の地域就業・定着を促進することで地方創生の実現を目指しています。以上のことを実践する医工融合型の新教育組織として、令和5年4月に神戸大学大学院医学研究科に新専攻/博士課程医療創成工学専攻が設立され、令和7年には新学科が新たに設置されます。新専攻・新学科の設置の目的は、医学、工学、知財関連などの総合的な知識を駆使して革新的医療機器の概念を創造し、医療機器開発の過程で最も重要な初期開発を担うことができる創造的開発人材の育成です。大学内で実際の医療機器の初期開発を行い、教員として雇用した医療機器開発者や企業のクロスアポイントメント教員などと開発チームを形成し、緊張感のあるリアルな医療機器開発を体験させることで学生の実践力を鍛え、医療機器社会実装を実現できる人材の育成を最終目標としています。

また、研究大学として卓越した基礎医学研究ならびに優れた先端的・先進的臨床研究を進めること、さらにはそのための環境改善に努めることが重要と考えています。医学研究科・医学部において、基礎医学研究ではシグナル伝達、感染症、神経科学を中心に卓越した研究者が結集しており、独自性・独創性の高い個別研究を推進するとともに、メディカルトランスフォーメーション研究センター(Center for Medical Transformation, CMX)、感染症センターなどの研究環境を活用し、基礎・臨床連携、異分野連携による共同研究を推進しています。今後は新たに開講した医療創成工学専攻とその医療機器開発の場である全学の未来医工学研究開発センターとの連携を進めていきます。これらのセンターから出てきた基礎的な研究成果をうまく臨床研究につなげるために、臨床研究中核病院である医学部附属病院と連携していきます。また近年、様々な要素技術の発展に加え、機械学習・AI技術の進展とデジタル化が相俟って、データ駆動型研究を推進する機運が高まっています。基礎・臨床医学の連携、異分野融合研究の推進を通して、ビッグデータ駆動型研究のための体制を整備していきます。

今後も医学研究科・医学部の継続的な発展のために国内外の第一線で活躍できる優秀な人材の育成に尽力して参ります。引き続き、ご支援、ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。